詐欺-9
その夜、長四郎は事務所のソファーに寝っ転がりながらスマホでインスタグラムを見ていた。
検索内容はKuunhube、Kuunhuberである。
Kuunhubeに関連する投稿をぼぉーっとしながら見る。
長四郎も疲れて来たのか。ウトウトし始めていると、事務所のドアが開く音がしたので起き上がり入口の方を見ると燐が仁王立ちで立っていた。
「やっぱり、帰っていたのね」
「あ、今日はご馳走さまでした」
「そうね。よくも私に会計を押しつけて出て行ったよね」
「押忍っ!!」
「押忍っじゃない!」そう言って思いっきり、長四郎の頭を叩く。
「痛いなぁ~何すんだよ」頭を抑えながら、長四郎は燐を睨むが燐の顔は長四郎以上に恐ろしい物であったのですぐさま「何でもないでぇ~す」と訂正した。
「あんた、あの後どこ行ってったの?」
「拘置所」
「拘置所で何してたの?」
「質問攻めだなぁ~」
「つべこべ言わず、答えなさいよ」燐は長四郎の耳を引っ張り上げる。
「痛たたたたたた。話します。話しますから」
「よし」燐は長四郎の耳から手を離す。
「尾多から話を聞いたの。それだけ」
「何か収穫はあったの?」
「ない。黙秘されちゃった」
「ダメじゃない」
「そう、ダメなの。だから、こうしてインスタ見てるってぇ~わけ」
「いや、それでどうしてインスタを見るのよ」
「事件に繋がるからに決まってるからでしょ。このバカちんがぁ~」
「誰がバカだってぇ~」
再び長四郎の耳を引っ張る燐。
それから約一時間後、長四郎と燐は自分のスマホ、タブレットと睨めっこしながらインスタの投稿を見る。
「ねぇ、どうしてTwiitterは見ないの?」燐は長四郎のそう尋ねる。
「Twitterはアンチ的な呟きをインスタより気兼ねなく投稿できるからな。だから、写真載けってまでアンチコメント書くのが少ないインスタの方を調べているわけ」
「ふーん」
「そんな事はどうでも良いから手を動かせ」
「はーい」
暫くの沈黙の後、燐が口を開いた。
「ねぇ、これさっきから一杯見るんだけどどう思う?」
燐は長四郎に自分のスマホ画面を見せる。
その画面はインスタのコメント欄で、次のように書かれていた。
Kuun株式会社社長の鎌飯です。
この度は、バリバリchannel様の投稿が目に留まり、とても素晴らしい投稿をされていると思い、コメントさせて頂きました。
突然ではありますが、Kuunhuberとして素晴らしい才能をお持ちのバリバリchannel様に告知があり、ご連絡差し上げた次第です。
只今、新規で始めたKuunhuberの皆様にコンテストの募集をしております。
そのコンテストの名は、「Kuunhuberニュージェネレーションズ」です!!
この「Kuunhuberニュージェネレーションズ」は、全ての参加者が可能性を掴むことのできる「次世代の配信者」を発掘するコンテストであります。
配信業界も色々なコンテンツが普及していく昨今、飽和し伸び悩みつつある現状で新たな才能を見つけたいそんな思いで今回のコンテストを打ち出しました。
今回の「Kuunhuberニュージェネレーションズ」で優秀賞、大賞を受賞された方は、トップKuunhuberのオンジンとのコラボ配信が確約されると同時に賞金・100万円の進呈、我が社、Kuun株式会社とマネージメント契約をさせて頂きます。
ご検討の程、宜しくお願い致します。
詳細を知りたい場合には、私にDM(ダイレクトメッセージ)を送って頂くか、コメント欄に返事を下さい。
お返事、お待ちしております。
バリバリchannel様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
Kuun株式会社
代表取締役社長
鎌飯茅井洲
以上の文面で締め括られていた。
「この社長のアカウントは本物なの?」
「待ってて」
長四郎にそう尋ねられ、鎌飯のアカウントへと飛び確認する。
「あ、公式マークついているから本物だね」
「そうか、そうか」
「もしかして、これが怪しいって言うんじゃないでしょうね?」
「臭いよね。ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇ~って奴だよな」
「は? 何それ」
「分からないなら、黙っていろ!」
長四郎は燐にそう言い放ち、ソファーから立ち上がると自分の部屋に入っていった。
それからすぐに扉が開き、長四郎が顔を覗かせてこう言った。
「今日の営業は終了したので、お客様はお帰りください」長四郎は蛍の光を歌いながら、燐が反論する間も与えず扉を閉め鍵をかけた。
長四郎は風呂場に行き、湯船に湯を張る。
張り終えるまでの間、リビングで長四郎はぶつぶつと独り言を呟き考え事をしながら服を脱いでいく。
そして、パンツを下した段階で女性の悲鳴が部屋に響き渡る。
「な、何だ!!」長四郎は咄嗟に股間を両手で隠しながら状況を確認する。
「ラモちゃん! 何でここに居るんだよ!! 営業終了したって言ったろ!!!」
「早くパンツ履きなさいよ!」燐は視線を別のところに向けながら長四郎に促す。
「お前が出て行けば良いだけだろうがっ!」
「早く履けっ!!」
燐は近くに置いてあったリモコンを長四郎の顔面目掛けて投げつける。
リモコンは長四郎の顔面にクリーンヒットし、悶えている隙に燐は事務所の方へと戻って行った。
それから直ぐに湯が張り終えたアナウンス音が鳴ったので、長四郎は風呂場へと移動した。
湯に浸かりながら、これからのアクションについて考える。
「ここにタオルと着替え置いとくからぁ~」
「おう、ありがとう。ん? 待てよ。まだ帰ってなかったんかい!!」
だが、燐の返事は帰ってくることはなく長四郎は再び考えを頭の中で張り巡らせる。
風呂を出ると、脱衣所に着替えの下着とパジャマ、バスタオルが置いてあった。
「あいつ、俺の女房かよ」そう呟きながら、濡れた身体を拭き用意された服を着る。
脱衣所を出ると、テーブルの上にデリバリーサービスで頼んだであろう焼肉弁当が置いてあった。
「さ、食べよ」燐はキッチンから二人分の飲み物を持ってきながら長四郎にそう言った。
「ああ」長四郎は返事をし、席に着いた。
燐が席に着いたと同時に『頂きます』と二人はそう言い食べ始めた。
暫くすると、燐が話を切り出した。
「明日からどうするの?」
「ラモちゃんが見つけてきたコンテストについて調べる。それと浦安民がそれに関わっているかを調べようかなとは思っている」
「ふーん、そうなんだ」
「そうなんだって。どうせ、付いて来るんだろう?」
「いや、私、学校に行かなきゃだから」
「えっ!! 学校に行くの?」
「行くに決まっているでしょう」
「天変地異が起きなきゃいいが・・・・・・・」
長四郎はそう言いながら焼肉を口に入れた。
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