オニ-1
「以上が弊社、並外商事の経営理念です」
今、燐は学校の社会科見学で並外商事に来て社員の
「はい」ここで手を挙げて質問したのはクラス2位の秀才、
「何でしょうか?」川尻が質問の許可をすると「僕は将来、御社に入社したいと考えております。そこで、どのくらいの語学力、成績が必要なのでしょうか? お答えください」と高圧的に質問した。
「その時、次第です」
川尻の回答を聞いた全員が適当な回答で誤魔化したと思った。
弥里杉は見逃さんとばかりに攻め始めた。
「その時、次第。というのはどういう事でしょうか? 僕は真面目に質問しています。
それに僕以外にも御社に入社したいと思っている生徒は居ます。それを、その時、次第という曖昧な回答で誤魔化さないで下さい!!!」
「弥里杉!! なんて無礼な口の利き方をするんだ!!」
例の熱血教師が弥里杉をつまみ出そうと、弥里杉の座っている席にすっ飛んでいくと弥里杉に「バカは黙っていてください」そう一喝され少しうろたえている所に「良いぞぉ~ もっと言ってやれぇ~」と言う女子生徒の言葉で生徒たちは堪えきれず一気に噴き出して会場が大笑いに包み込まれる。
「う、うるさぁ~い!!!」
熱血教師の怒号で会場は一気に静まり返る。
すると、川尻が口を開いた。
「先生が一番うるさいので出て行って下さい」
「へ?」まさか、そのような事を言われるとは思わず変な声を出してしまう。
「会社の人が邪魔だって言ってんだ。早く出ろよ」
熱血教師が声がした方を向くと、案の定、燐が座っていた。
「羅猛っ!!!」今度は燐の方に移動しようとする熱血教師に「早く退室願えますか?」と川尻に言われ苦虫を嚙み潰したような顔を川尻に見せながら退室していった。
邪魔な熱血教師が去ったのを確認した川尻は話を始めた。
「その時、次第というのは、時代に合わせたニーズを求めるからです。そもそも必要条件を求めたら、必要条件以上の人材が来る可能性は低いです。我が社が求める人材は、時代に合わせたニーズに答えられる人物。というより、世間一般で求められているニーズを自分で見つけて来て行動に移せる人物です。少なくとも、必要条件だけを満たせば入社できると思っている人間は採用しません」
そう言われた弥里杉は不服そうに「分かりました。ありがとうございます」とだけ言い着席した。
「他には?」その一言に今度は燐が「はい」と挙手し発言を求める。
「どうぞ」
「今、仰っていた入社基準とでも言うんでしょうか。それは、社の方針なのかそれとも川尻さんの方針のどちらなのでしょうか?」
「社の方針です」即答する川尻。
「それは創業からですか?」
「はい。うちは創業20年と歴史は浅いですが、この方針で毎年社員を入社させています」
「大変勉強になりました。自分が就活を行う際に、そういった所に気を配りながらやっていこうと思います。ありがとうございました」
燐は感想を添えて礼を言い、席についた。
「では、他にありますか?」
そこからは、当たり障りのない質問ばかりが飛び交い時間は過ぎ去っていった。
「では、時間になりましたので。質疑応答は終わります」
川尻がそう言うと学年代表の生徒が「起立!!」と号令を掛け、学年全員で頭を下げる。
そうして、社会科見学は終わった。
変蛇内高校の生徒達は、学校に帰る準備をする。勿論、燐も帰る準備をしていると「君」と声を掛けられる。
「はい」返事しながら、振り返ると川尻が立っていた。
「少し話をさせてもらえないかな?」
「構いませんけど」
少し離れたところに移動し、川尻は話始めた。
「君、将来的に行きたい業界はある?」
「いや、特に決めてはいませんけど」
「そう。もしよければ将来、我が社に入社しない?」
「私がですか?」
高校生の自分がスカウトされるとは思っておらず、少し戸惑う燐。
「そう、君の質問は的確かつ忖度というものが良かった。社長も気に入る人材と言っても過言ではないよ」
「そ、そうですかぁ~」
少し嬉しくもなりつつある燐には気になる事があった。
この話している川尻という男から血生臭い匂いが漂っているのだ。
とは言え、実家暮らしの人物かつ実家が鮮魚店もしくは精肉店と言う可能性もあるので気にしない事にし、スカウトの話を続ける。
「私、一応大学に進学しようと思っているんですけど。それでも良いんですか?」
「良いよ。良いよ。なんなら、大学院に行っても入社してもらっても構わないよ」
「ホントですか」
そこまで言われると、燐の心は少しずつスカウト入社に傾き始めていた。
「おいっ! 羅猛っ! 何、迷惑かけてるんだ!!」
燐が川尻に迷惑をかけていると思った熱血教師は、意気揚々と怒鳴りながら燐達に近づいて来る。
「貴方、いつこの娘が私に迷惑をかけたって言うんですか? 迷惑なのはあなたの方です。説明会でも・・・・・・・」
そこから川尻は熱血教師の何が悪いのかを懇々と説いた。
そして、最後に「この様な事をされるなら、来年の開催は中止にさせて頂きます」とまで言われる始末。
「そ、それだけは勘弁してください」冷や汗をかきながら、必死に懇願する熱血教師を無視し、川尻は燐に名刺を渡す。
「気が向いたらで良いから、ここに書いてあるメアドに連絡頂戴。えっと・・・・・・」
今になって燐の名前を聞いていなかったことに気づいた川尻に「
「じゃあ、羅猛さん。宜しく」それだけ言うと、川尻は自分の仕事に戻っていった。
「どうしようかなぁ~」
燐は名刺をまじまじと見ながら、川尻を見送るのだった。
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