御祭-29
逃亡した国巳の追跡を開始した明野巡査と燐は、浦和所沢バイパス道路を爆走していた。
「泉ちゃん。こんなに飛ばして大丈夫?」
明野巡査が運転するバイクのスピードは、110km/hのスピードを出しており明らかな速度違反の状態である。
「大丈夫。だと思う?」明野巡査は少し不安に感じながら、アクセルを全開にし更にスピードを出す。
国巳は逃げるのに無我夢中で、明野巡査が運転するバイクが差し迫って来ているのに気づいていなかった。
「ラモちゃん。大丈夫?」
「大丈夫」
とは言うものの、燐は少し気持ち悪くなっていた。
だが、明野巡査は平然としたままバイクを運転する。
そして、特筆すべき事は120km/h近くのスピードを出しているのだが他の車やバイクと接触することのないよう華麗に避けながら二人乗りのバイクを走らせるのだ。
国巳はバイパスから住宅街へと通ずる側道へと入る。
明野巡査もバイクを側道に向けて走らせ、すぐに国巳の車に追いついた。
「追いついた!」明野巡査がそう叫び、燐が先頭を走る車を見る。
「泉ちゃん。車をどこか広い駐車場に誘導できる?」
「誘導っていったって、ここら辺に土地勘ないし」
すると、燐のスマホに着信が入り二人はヘルメットのbluetoothをONにして、通話に応答する。
「はい。もしもし?」燐が応対した。
「あ、ラモちゃんか? 無事か?」
通話の相手は、長四郎であった。
「無事だよ。何?」
「何? はねぇだろう。今から、追い込める場所に誘導するから、従って運転してくれ」
「了解です」
「ちょっと、失礼します」遊原巡査は長四郎からスマホを取り上げ話始める。
「遊原だ。俺の指示通りに運転してくれ」
「はいっ!」明野巡査は元気よく返事をし、意識を集中させる。
「良いか? 150m先の交差点で右折するんだ」
「了解」明野巡査は指示通りに交差点で右折し、「次は?」と指示を仰ぐ。
「70m先の突き当りを左折」
明野巡査はスピードを一定に保ちながら、左折する。
明野巡査達が乗るバイクをGPSアプリで確認し、遊原巡査は次の指示を出す。
「次は50m先を左折だ。後は直進」
「了解!!」
明野巡査は綺麗なコーナリングをして右折し、バイクのスピードを上げる。
そして、100m程したところで直進する国巳の車と遭遇。そこで、国巳は自分が尾行されていたことに気づき、車を左に急カーブさせて逃亡する。
「逃がすか!!!」
明野巡査は今度こそ逃がしてなるものかと、全力で国巳を追いかける。
「どうだ?」
地図アプリを見ている遊原巡査に佐藤田警部補が声を掛ける。
「どうやら、国巳の車を見つけたみたいですね。今、廃工場に追い込んでいる最中です」
そう答えている途中に明野巡査から指示を求めてきた。
「そのまま直進すれば、廃工場に突き当たる。そこでケリをつけろ」
「了解!!!」
そう返事をした明野巡査はアクセル全開で、車と距離を縮める。
国巳の車は目的通り廃工場へと入る。
「泉ちゃん。先回りして」
「任せて」
燐の頼みを聞き入れた明野巡査はバイクを車の前へ走らせる。
ある程度距離が離れた所で、燐が「停めて」と言う。
明野巡査はバイクを停車させると、燐はバイクから降り腰にあるポーチからダーツの矢を取り出す。
国巳は死ねばもろともといった感じで車を前進させるが、燐は動じることなくダーツの矢を構え投げた。
矢は見事にタイヤに刺さり舵が取れなくなった車は、ドラム缶の山に突っ込んで停車した。
「国巳豹牙。あなたにはキチンと反省してもらいます!!」
運転席でうなだれる国巳に手錠を掛ける明野巡査であった。
国巳豹牙とその母親が逮捕され、数日が経った。
殺人をした国巳は改正少年法で制定された特定少年という扱いになり、実名報道され刑も刑事法が適用されることとなった。
事件解決に協力した成美は警視庁から表彰された。
そして、長四郎と燐は事件解決の功労者として警視庁に呼ばれていた。
受付を済ませ、命捜班・第二班の部屋へと入ると佐藤田警部補、遊原巡査、一川警部、絢巡査長そして明野巡査が談笑していた。
「お、長さん。来たとね」
そう言う一川警部の顔はこんがりと焼けていた。
「長さん、お久しぶりです」絢巡査長の肌は艶々していた。
「謹慎の間にバカンスを楽しまれたようで何よりです」
長四郎が嫌味を言うと、燐に小突かれる。
「ラモちゃん、大活躍やったやって聞いたばい」
「いえ、私は何も」謙遜する燐に「そんなことないよ。ラモちゃんが助けてくれたから事件解決できたようなものだし」明野巡査が言う。
「ま、そんな訳で全員が揃ったことですし、ここで私、佐藤田から重大発表があります」
その場に居た全員が佐藤田警部補の言葉に耳を傾ける。
「え~ この度、命捜班・第二班に新メンバーが加わる事となりました」
「いよっ」一川警部が嬉しそうに手を叩き、佐藤田警部補はコホンという咳払いをしてから口を開いた。
「明野泉巡査は、本日をもって警視庁捜査一課命捜班・第二班への異動と相成りました」
「えっ!? 私が刑事!!!」
「班長!?」
驚く遊原巡査に佐藤田警部補はこう続けた。
「え~ 遊原巡査には、明野巡査の指導係を命じる」
「取り敢えず、宜しく」
「あ、こちらこそ」
握手を交わす若い刑事のコンビに、拍手を送る長四郎と燐であった。
完
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