第弐拾玖話-行方

行方-1

 パチパチっ

 その音で目を覚ました羅猛らもう りんはゆっくりと目を開ける。

 ぼんやりとする景色が徐々に焦点が合い自分が居る場所を把握できた。

 そこはコンクリート打ちの窓のない殺風景な部屋であった。

「ここは?」

 部屋の探索をしようしたとき、燐はつんのめって転んでしまう。

「痛てて」足首に鎖が繋がれていることに気づいた。しかも、下着姿であることにも。

「起きたようですね」

 声がした方に視線を向けると、スーツ姿がよく似合うオールバックで髪を纏めた男が立っていた。

「あんた、何者?」

「何者? 私にもよく分からない。が、言えることは一つ」

 男はそう言いながら、燐に歩み寄ってくる。燐はこのキザな物言いをする男に拳を叩きこもうとタイミングを計っていた。

「それは」男が言うと同時に、燐は男の鼻目掛けてストレートパンチを繰り出す。

 だが、男はそれを躱して燐の腹に膝蹴りを喰らわす。

「うっ!!」

 鈍痛が燐を襲い床に崩れる。

「全く。人の話を聞かない君にはお仕置が必要だな」

 男は気味の悪い笑みを浮かべ、燐の綺麗な足をゆっくりとなでるのだった。


「気だるい昼下がりだぜ」

 私立探偵の熱海あたみ 長四郎ちょうしろうは窓から見える雑居ビル群を眺めながら、珈琲を飲む。

 コンッコンッ

 ドアをノック音と共に、椅子から立ち上がり来客はたまた宅急便のどちらかを出迎えにいく。

「はぁ~い」長四郎がドアを開けるとそこに居たのは、燐が通う変蛇内高校のクラス担任・生田いくた 成美なるみであった。

「あ、先生。どうも」長四郎が会釈すると成美もまた「どうも」と返し会釈する。

「そうじゃなくて、燐ちゃん来てませんか?」

 いきなりの質問に長四郎は「来てないですけど。何か用があるんですか?」と緊張感を漂わせる成美と打って変わる吞気な感じで答える。

「そうですか。ありがとうございます」

 こうしちゃいられないみたいな感じで、成美が去ろうとするので長四郎は「ちょっと、待って!!」と声を掛けてしまう。

「なんですか?」怪訝な顔で聞いてくる成美。

「なんか、あったんですか? 先生の様子がおかしいから気になっちゃって」

「実は・・・・・・」

「あ、待って。話は中で聞きますから。さ、どうぞ」

 長四郎は成美を事務所に招き入れた。

 来客用のソファーに成美を座らせ、成美に出す珈琲を準備しながら長四郎は話始めた。

「先生。ラモちゃんが行方不明になったのはいつです?」

「え? ええと、一昨日からです」

「一昨日。えらく直近ですね。でも、ラモちゃんはほとんど学校に姿を見せないんじゃないんですか?」

「いえ、そんな事は。生徒達も言っているんですが、私が担任になってからはよく登校するようになったと。本当なのかどうなのかは分かりませんが」

 長四郎は言わなかったが平日の昼間、事務所に顔を出すことが減ったのは確かであった。

「それで、先生が血相をかいて探すには、それ相応の理由があるはずだ」

 長四郎は出来上がった珈琲が入ったマグカップを成美の前に置いた。

「ありがとうございます。探偵さんの言う通りです。探偵さん、知っていますか? ここ数週間、相次いで女性が行方不明になっている事件」

「ニュースは見るんでね。知ってますよ。ん? 待てよ。嫌な予感がしてきたぞ」

「実は、その事件を追っていたようで・・・・・・」成美が言うと長四郎は手で顔を覆い隠す。

「なんで、また・・・・・・」

「どうやら、クラスのやんちゃな子が探偵なら解決してみろって煽ったらしくて」

「ラモちゃんは単細胞だからな」

「それで、その・・・・・・」

「良いですよ。探します。先生には文化祭の事件でお世話になったんでね」

 長四郎は燐の捜索依頼を引き受けた。

 その言葉を待っていましたと言わんばかりの顔で「ありがとうございます!」と成美は礼の言葉を述べる。

 それから長四郎はここまで得た燐の情報を成美から聞き出し、調査を開始した。

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