行方-2

 警視庁捜査一課命捜班・第二班は今日も暇を持て余していた。

「王手」遊原ゆうはら 祐希ゆうき巡査が将棋を指すと同僚の明野あきの いずみ巡査から「待った」の声が掛かる。

 そして、この二人をまとめる班長の佐藤田さとうだ 一喜かずき警部補は片耳にイヤホンで競馬新聞に目を通すという税金泥棒と罵られても仕方ない事をしていた。

「待ったは、もうなし」

「頼む。もう一回、待ったを」明野巡査は手を合わせて懇願する。

「それをやり続けて一時間。飽きたよ」

「そう言わないでさ」

「班長。俺たちこんな風に遊んでいて良いんですかね?」

「良いんじゃない? 平和なのは、良いことだよぉ~」

 その時、部屋の内線が鳴った。

「はい。捜査一課命捜班。事件ですか!!」

 電話を取った明野巡査が待っていましたと言わんばかりの応答をする。

「はいっ! はい。はい」徐々にトーンダウンし、「班長、刑事部長からです」と伝えると佐藤田警部補は返事することなく内線を自身のデスクの電話に繋ぐ。

「はい。お電話変わりました。佐藤田です」

 佐藤田警部補は適当に相槌を打つと、電話を切った。

「班長。刑事部長はなんと」遊原巡査が用件を聞く。

「ん? さぁ、なんだろうな。俺、刑事部長室に行ってくるから。留守番、宜しく」

 若い刑事二人は、刑事部長室に向かう上司に敬礼して送り出す。

 刑事部長室のドアをノックすると、部屋の中から返事が返ってきたので「佐藤田警部補、入ります」と言いながらドアを開けると部屋には刑事部長と見知らぬ男が対面でソファーに腰掛けていた。

「佐藤田、参りました」気を付けして参上したことを告げると刑事部長は「うむ」と言い本題を切り出した。

「佐藤田君。こちらは公安部外事課の小幡こばた警部だ」

「小幡です。宜しく」刑事部長の紹介に小幡は佐藤田警部補に挨拶する。

「どうも」

「それで、君を呼んだのは公安部の捜査に協力して欲しいからだ」

「捜査協力ですか?」

「本当は捜査課の人に応援要請したくはなかったのですが。我々も多くの事件を抱えておりまして」

 自分よりも若いこの小幡の嫌味を聞いているのか、はたまた聞いていないのかそんな顔の佐藤田警部補は小幡の嫌味を聞き流す。

「命捜班の方には、ある人間の行方を追って欲しいんです」

「捜索ですか」

「はい。追って欲しいのはこの男です」小幡はジャケットの内ポケットから一枚の絵を取り出し、佐藤田警部補に見えるように机の上に置いた。

「男の名前は、イヴ・ウィンガード。日系アメリカ人で、FBIも追っている男です」

 似顔絵なのだが、人相しか捉えておらずこれだけで探すのは困難を極めるそう思うような絵であった。

「大雑把な絵ですね」佐藤田警部補は思った事を素直に述べた。

「ええ、FBIも正確な写真は得ていません」

「で、この男は何を?」

「早い話が猟奇的殺人者です。自分好みの女性を誘拐し、殺害。被害者の遺体をバラバラにし、切り取った体の一部を美術館に置く。多分、アートだとでも言いたいのでしょう」

「公安さんはこの男が入国し、犯行をする前に捕まえたいと」

「佐藤田君、犯行はもう行われたよ」刑事部長は苦々しい顔で「まだ報道はされていないが、今日の未明、都内の美術館に女性の腕と思われる物が置かれていた。身元はこれからだが。この男が日本で犯行に及んだのは間違いないようだ」

「じゃあ、早くに見つけないとですね」

「吞気な事を言っとらんで、捜索にかかれ」

「はっ!」佐藤田警部補は敬礼し、了承した旨を示す。

「私の連絡先はこの紙の裏に書いてありますので、見つけ次第、連絡を」

 似顔絵の紙を手に取り、小幡の連絡先が書かれている事を確認した佐藤田警部補はその紙をズボンのポケットにしまう。

「では、失礼します」

 佐藤田警部補は階級が上の人間に斜め45度のお辞儀をして刑事部長室を後にした。

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