行方-3
佐藤田警部補は命捜班・第二班の部屋には戻らず、フロアの間反対にある命捜班・第一班の部屋へと向かった。
「失礼しますよぉ~」
部屋の中に入ると、
「佐藤田さん。どうしたんですか?」
絢巡査長が椅子から立ち上がりながら、用件を聞く。
「いや、大した用ではないような。探偵さん、お久しぶり」
「お久しぶりです」
「
「ああ、研修です。ほら」絢巡査長は部屋にあるホワイトボードを指さす。
そこには一川警部の文字で、「研修。行きたくないよぉ~ オロロォ~ン」と書かれてあった。
「一川さんらしいな」
「ええ、全く。佐藤田さん事件なんですよ」
「事件?」
「長さん」
「え? あ、うん。あのですね。お恥ずかしい話なのですが」
「何々?」佐藤田警部補は長四郎の話を真剣に聞くために一川警部が普段座っている椅子に腰を下ろす。
「実はですね。トラブルメーカーが誘拐されたらしくて」
「ほぉ、誘拐ね」
「ええ、それで是非とも力を貸して頂けないかなと」
「成程。で、絢さんはどうするの?」
「事件も抱えていないので、お手伝いしようかと。長さんの話だとラモちゃんはここ最近、頻発している女性誘拐事件を一人で捜査していたらしいので」
「ああ、あれか。なぁ、もし良かったらなんだけど、内の若いの使ってもらってくれない?」
「良いんですか?」
「うん。若いから暇が退屈でしょうがないみたいだから」
「分かりました。じゃ、遠慮なく」
絢巡査長は内線で第二班に居る遊原巡査と明野巡査を呼び出し、これまでの経緯を話した。
「誘拐事件。身代金要求とかあるのかな?」
「泉ちゃん。それは限りなくないんじゃないかな」長四郎はそこから絢巡査長から聞き出した情報を基に導き出した推理を語りだした。
「犯人は単独犯じゃないかな。警察は犯人を別々で考えているようだけど、俺の見解は違う」
「理由は?」と遊原巡査が尋ねる。
「誘拐されたであろう女性に共通点はない。それが犯人の狙いなんだよ。敢えて、共通点を作らずに誘拐する事で自分の犯行をカモフラージュできるだろ?」
「でも、この手の誘拐って女性目当てのものと考えるのが普通ですよね? でも、探偵さんの推理だとそれじゃないように感じるんですけど」
「そうだな。遊原君の言う通りだが、同じ目的を持った人間が結託しているとしたら」
「いや、さっき探偵さんは単独犯の犯行だって」明野巡査がツッコミを入れる。
「実行犯は一人さ。でも、誘拐した女性が皆、好みのタイプとは限らないだろ? 好みのタイプではない女性はどうする?」
「う~ん」明野巡査は眉間に皺を寄せ考え始めるのに対し遊原巡査は「俺だったら、タイプじゃないのは殺すな」と答えた。
「遊原、惜しいな」
「え? 何がです? 班長」
「お前の言う通り殺すだろうが、この手のタイプは気に入ったものしか殺せないんだよ」
「班長の言う話だと、誘拐された女性が殺されているように聞こえるんですが」
「あ、ホントに。ごめん、ごめん」
「話を戻しても?」長四郎がそう言うと部屋に居る刑事全員が声を揃えて「どうぞ」と答える。
「佐藤田さんと同じ考えだからして、お気に入りじゃない人間は別の人間の手で殺されているんじゃないかってことを言いたいのよ」
「犯人は組織かもしれないってことですね!」
「泉ちゃん。それはキチンと調べてみないと分からないから、決めつけは良くないよ」
「すいません」先程まで嬉しそうだった明野巡査は少しシュンとする。
「俺達は何を調べれば良いんですか?」遊原巡査が挙手しながら質問した。
「遊原君と泉ちゃんには、ラモちゃんの学校で何があったのかを調べて欲しいの」
「絢さん、良いですか?」明野巡査は質問の許可を求めると「何?」と返事が返ってきた。
「その、GPSとかで後を追わないんですか?」
「泉ちゃん。残念ながらスマホの電源は入っていない状態でね。それは使えない手なんだ」
絢巡査長が答えるよりも早く長四郎が回答した。
「では、捜査に取り掛かりましょう」
絢巡査長の号令と共に、探偵と刑事達は事件の捜査に乗り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます