議員-20

「僕にですか?」

 一川警部に声を掛けられた男は、少し面食らったと言うような顔で逆質問した。

「はい」

 一川警部は「当たり前だろ」みたいな顔で答える。

「分かりました。それで、僕に聞きたい事とは?」

「失礼ですが、お名前を聞いても?」

「ああ、そうでしたね。申し遅れました。前田まえだ のぞむの秘書をしております、塚川つかがわ 益男ますおと申します」

 無力は名刺を差出してきたので、一川警部も自分の名刺を取り出して名刺交換をする。

「警視庁の刑事さんでしたか」

「ええ、今は議員秘書襲撃事件の捜査しとります」

「あの事件ですか。大変ですね」

 ケガを負った小岩を見ながら、まるで警察は無能だなと言わんばかりの顔をする。

「そげんお思いでしょうが、犯人の目星はついとうとです」

「そうですか。例の政治犯が」

 無力は興味津々といった顔をして、一川警部の話に耳を傾ける。

「ええ、その政治犯です。襲われた議員秘書達には共通点があったとです」

「共通点」

「はい、共通点。その共通点って言うのは」一川警部がそう言いかけた時、「一川さん、喋りすぎです」と絢巡査長に怒られる。

「あ、喋りすぎたみたいで申し訳ない。じゃ、あたしらは捜査に戻ります」

 一川警部は絢巡査長と共に、その場から足早に去っていた。

 議員会館のロビーに出てきた刑事二人。

「一川さん、どう思いましたか?」

「あの二人やろうなぁ〜」

「やっぱり。私も思ったんです。しかも、無力さんの担当している前田議員って、昔から黒い噂のある人ですよね?」

「流石は、絢ちゃん。優秀やね」

「そんな事はどうでも良いんです。あの塚川が何をしたいのか。じゃないですか?」

「そんなもん。不正を暴くダークヒーローごっこに決まっているでしょうが」

 長四郎は鉄板の上に載ったお好み焼きをコテで半分に切りながら、燐にそう告げる。

「ダークヒーロ―ごっこ? 何の為に?」

「何の為って、正義を振りかざす為にでしょ」

 お好み焼きを四分の一に切り終えた長四郎は、熱々のお好み焼きを口の中に頬張る。

「熱っ! 熱っ!!」

 長四郎はそう言いながら、ビールで口の中を冷やそうとする。

「猫舌が」

 燐も長四郎が切り分けたお好み焼きを口の中に入れる。

「熱っ!! 熱っ!!!」

 燐もまたコーラを口の中に流し込む。

「人の事、言えねぇじゃん」

「うるさいなぁ〜 正義を振りかざして何がしたいんだろ?」

「んな事、俺が知るか」

 長四郎は熱々のお好み焼きにふぅ〜ふぅ〜と息を吹きかけながら、お好み焼きを冷ます。

「それを調べるのが、あんたの仕事でしょうが」

 燐はそう文句を垂れながら、熱々のお好み焼きを頬張る。

「熱っ熱っ!!」と熱さに悶える燐を見ながら「学習能力のない奴」と言う長四郎も冷ましたお好み焼きを頬張る。

「熱っ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る