話合-7

 その日の晩、燐を家に帰した長四郎はマガジン亭サンデー、本名・昇風遊平の通夜へと来ていた。

 創作落語界の新星と言われていただけあって、有名な落語家達も挙って参列していた。

 弔問を済ませた長四郎はお焼香をし、会場を去ろうとしていると背後から誰かが自分に向かって駆けってくる。

「探偵のおっさん!!」

 長四郎が振り返ると桂太郎が息を切らして近づく。

「どうした?」

「父ちゃんの事、分かったか?」

「未だ何も掴めず」

「んだよ。それ!!」

 桂太郎のキックが長四郎のすねに直撃する。

「ぎゃあ~」

 長四郎の雄叫びが会場に響き渡る。

「コラっ!!! ケイ!!!!」

 ケイに名一杯のげんこつが小春から振り下ろされる。

「失礼いたしました。大丈夫ですか?」

 すぐ様、長四郎に詫びを入れる小春。

「だ、大丈夫です」そう答える長四郎だが、その目には涙を浮かんでいる。

「母ちゃん、何すんだよ!」

「あんた、よそ様に暴力ふるうなんて何考えてんの!!」

「だ、だって・・・・・・・」

「だってじゃない!!!」

「まぁまぁ、お母さん。僕も悪かったですし」

「いえ、家の事に口出ししないで下さい!!」

 まさか、自分も怒られるとは思わず、長四郎は黙り込む。

「何とか言いなさい!! 桂太郎!!!」

「うるせぇ! クソババア!!!」

 桂太郎は、会場から逃亡する。

「あ、俺、行きます!!! お母さんはここで待っといてください」

 長四郎は桂太郎をすぐ様、追いかける。

 50m程離れた所で、桂太郎はあっさり捕まえられた。

「ほらっ、捕まえた!!」

「放せよっ!」

 桂太郎のご要望通り、掴んでいた腕を放すとバランスを崩して倒れ込む。

「放すなよっ!!」

 そんな桂太郎の言葉を無視し、長四郎は語りかける。

「父ちゃんが死んでイライラするのも分かるんだけどさ・・・・・・

良いか、桂太郎」

 真剣な眼差しで桂太郎を見るが、不貞腐れ目も合わせない。

「俺もな、父ちゃんいないんだよ」

「えっ」

「そんで、母さんももう居ない。母さんが死んだ時、思ったんだよ。

あ~ 俺、ずっと守られていたばっかりだったなぁって」

 桂太郎もその言葉を聞き、これまた真剣な面持ちで長四郎の話を聞く。

「だからさ、父ちゃんが死んで整理が付かなくなるのもよく分かる。

だけどさ、お前がここで下を向いていたらこの先、ずっと守られる側の人間だぞ。

それでも良いのか?」

「いやだ」

「だったら、これからお前が母さんを守ってやるぐらいの気持ちで父ちゃんを見送ってやれ。それが今、お前にできる事だ」

「分かった」

 桂太郎の瞳の奥に覚悟の火が灯ったのを感じ取った長四郎であった。

「長さん」

 一川警部がタイミング良く話しかけてきた。

「一川さんも来てたんすか?」

「当たり前やろ。それよりこんな所でなんばしとるとね。

君もほら、お父さんの側にいてやらんといかんばい」

「黙れ!! ハゲ!!!!!」

 桂太郎は葬儀会場へと走って戻っていく。

「ったく、今の子は・・・・・・」

 自分の頭をぺちぺちと叩きながら一川警部は渋い顔をする。

「まぁ、あれだけの気概があれば何でもやってけますよ」

「そうやねぇ~にしても、長さんのご両親が死んていたとは初耳やったなぁ~」

「今のが、全部でたらめだって知っているくせに」

「えへへ」

 一川警部は、いたずら小僧のような笑顔を見せる。

 補足すると、長四郎の両親は健在で熊本で人生の楽園的な生活を送っている。

 では、話に戻ろう。

「で、こんなタイミングよく現れたのには、それなりの理由があるんですよね?」

「おっ、流石は長さん。鋭いね」

 一川警部は例の捜査資料を渡す。

「これは?」

「今回と同じ毒物が使われた事件の捜査資料」

「帰って読みますね」

「宜しく」

「では」

 長四郎はそのまま、帰宅した。

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