大物-13

 長四郎は燐を連れてドラッグストアへと来ていた。

「ねぇ、買い物の一つも出来ないの?」燐に苦言を呈された長四郎は不服そうな顔をする。

 音々から買い物を依頼されたのだが化粧品が品物の中に入っており、そういう事にはとんと疎い長四郎は燐に付き添いを依頼した結果、文句を言われる始末。

「あのね。黙って化粧品だけ手に取って来て欲しいの? 分かる? 女子高生。さ、行って来るのじゃ~」

「へいへい」

 燐は付き合いきれんといった顔をして化粧品コーナーへと向かう。

 二十分後、レジの前で合流した二人は各々が手にした商品をレジ台の上に置いた。

「えらく時間かかったじゃない?」

「化粧品を見る時には時間はかかるものなの?」

「そういう事にしておこう」

「なんか、奥歯に物が挟まったような言い方だね」

「勘繰りすぎだぜ。女子高生」

「お会計、53,573円です」

「えっ! 53,573円!!」

 自分が手にした商品をまとめても三千円程度のはず、長四郎は驚きを隠せない中、燐は動じず財布からブラックカードを取り出して店員に「支払いはこれで」と言う。

「では、これにカードを通して暗証番号を入力してください」

「はぁ~い」

 暗証番号の入力が完了した音が鳴り、カードを財布にしまう燐。

 店員からレシートを手渡された燐は不要レシートケースにレシートを放り込み、買い物バッグを片手にレジを後にした。

「ありがとうございました」

 店を出た二人は音々が身を隠すマンションへと向かった。

 部屋のインターホンを鳴らすと「はい」と声がしたので「ご所望の品をお持ちしました」と笑顔でインターホンのカメラに手を振る長四郎。

「今、開けます」

 二、三分の間が空いてから、ドアが開いた。

「すいません。シャワーを浴びていたもので」

 ドアの向こうからバスローブ姿の音々が姿を現し、長四郎はヒューと口笛を吹いた。

 その瞬間、後頭部に衝撃が走る。

「みっともないことすな。すいません、お邪魔します」

 燐は部屋に上がり、後頭部を手で押さえた長四郎もそれに続く。

「音々さん。体調の方はどうですか?」

 買い物袋から購入した商品を取り出しながら、体調を伺う。

「うん、お陰様ですこぶる元気」

「良かった」

「それで、捜査の方は進んでいるんですか?」

「さぁ、どうでしょうかねぇ~」

 長四郎は吞気な感じで、テレビ番組をザッピングする。

「捜査進んでいないんですか?」不安そうな顔をする音々を見て、燐は慌てて「そんな事ないと思いますよ」と答えた。

「適当な事を言うんじゃないよ。女子高生」

「ねぇ、その女子高生って呼び方やめない?」

「そんな事はどうでもよくて、音々さん。捜査状況を気にしますね。早く事件解決した方が、なんか都合が良いみたい」

「ちょっと、失礼よ」

「失礼って、事件解決の為の質問だよ。差し支えなければ、お給料の額教えてもらえます?」

「それが事件とどう繋がるのよ」

「一々、うるさい奴だな。少し黙ってなさいよ!」

「キャイ~ン」と犬がしょぼくれたような鳴き真似をする燐は引っ込む。

「で、教えて頂けますか?」

「彼女の言う通り、それが事件とどう関係あるんですか?」

「いやね、僕が購入した品物って精々三千円程度なんですよ。ですけど、ラモちゃんが購入した化粧品の総額は五万円ちょっと。化粧品の金額のアベレージを知らないんですけど一回の買い物で五万円って、よっぽど良い化粧品を使われているんだなと思いましてね。それで、ちょっと、気になった物ですから」

「それが、どう事件と関係あるんですか?」

「関係あるかと言われれば自身ないけど。収賄の現場を目撃して監禁されるって、普通はしないかなぁ~ なんて思っちゃったり。俺だったら、口止め料を支払って黙っててもらう。

それに、そこまで正義感があるような人には見えないし」

「失礼」

 燐にそう言われた長四郎は、咳払いをして誤魔化す。

「お答え頂けません?」

 音々は目を右往左往させ動揺している事が、分かった。

「音々さん?」

 音々はふぅ~ と息を吐いて口を開いた。

「どうせ、ここで白を切っても調べられて突き止められそうだから正直に言います。見たんです」

「見た? 何を」

「殺人現場です」

 その言葉に長四郎と燐は、口をあんぐりと開いて驚くのだった。

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