復讐-7

 朝食を食べ終えた長四郎燐は絢巡査長が居る部屋に赴いた。

 時刻は8時半を回っていたので流石に起きているだろうと思い、部屋のチャイムを鳴らす。

 しかし、反応がない。

「どうしたんだろう?」燐はファミコンのAボタンを高速連打する通称・Aダッシュの要領でチャイムのボタンを押しまくる。

「ちょっと、ラモちゃん」他の客の手前、長四郎が制止しようとするが燐は辞めない。

 すると、ガチャっという音共にドアが開き長四郎の顔にドアがぶつかる。

「おはよう」絢巡査長はそう挨拶しながら燐を見る。

「お、おはようございます」

 燐も絢巡査長の姿を見て少したじろぐ。

 絢巡査長は山姥のような髪型で、目の下には隈が出来ていた。

 普段のできる女性とはかけ離れた姿に燐は戸惑った。

「二日酔いか、絢ちゃん」鼻を押さえた長四郎がそう声かける。

「はい」

「今日は無理せず寝てな。ラモちゃん、行こう」

「あ、うん」

「すいません。ありがとうございます。う~!!!」

 口元を押さえた絢巡査長は慌ててドアを閉めた。

「ありゃ、重症だな」

「そうみたいだね」

 そんな会話をして、長四郎と燐は捜査本部がある宴会場へと移動した。

 二日酔いの絢巡査長と打って変わって、捜査本部の警察官達は平然としていた。

「なんか、ここはいつも通りって感じだね」

「そだねー」

 長四郎はそう答えながら、昨日の片づけをしている警察官たちの手伝いをする。

 燐もそれに追随する。

 20分後、宴会場から捜査本部の形になったと同時に肥後が出勤してきた。

「長さん、ラモちゃん。おはよう」と言う肥後の手には紙が握られていた。

「おはようございます。肥後さん」

「長さん。早速、これ見て欲しいんだけど」

 肥後は長四郎に握っていた紙を渡して見せた。

 それは男達の部屋にあった葉っぱの鑑定結果であった。

 結果は、脱法ハーブとの事だった。

「脱法ハーブですか。それで、男達は?」

「当たり前だけど白を切っている」

「あの部屋の現状を見れば無理じゃないですか?」と燐が発言する。

「ラモちゃんの言う通りなんだけど、薬物検査でも引っかからないから男達が使ったっていう証拠が出ないんだよね」

「袋からは男達の指紋は?」

「それはもうバッチリ」長四郎にOKサインをする肥後。

 それを聞いた長四郎はぶつぶつとまた小声何かを呟きながら捜査本部を歩き出す。

「あの癖、治ってないんだ」

 少し懐かしそうな顔を浮かべる肥後を見て燐は「そうみたいですね」と答えた。

 約10分の時が経った頃、長四郎は歩きまわるのを止め大声で「肥後さん、もう一度部屋に行きたいんですけど!!」と叫ぶ。

 いきなり大声を出されたので、驚いた肥後は椅子から転げ落ちる。

 こうして、長四郎達は男達が宿泊していた部屋の前に来た。

「ねぇ、どうしてもう一度ここなの?」燐が説明を求める。

「現場百回ってよく言うだろ。只それだけ」

「はぁ?」

「肥後さん、ここのフロアの防犯カメラって把握していますか?」

「えー ちょっと待ってね」

 肥後は手帳をめくり該当のページを探すと「ああ、エレベーターホールと角部屋の所そして、エレベーターホールと角部屋の間の真ん中の部屋の前に設置されているね」と答えた。

「そうですか。因みに、その映像は確認したんですか?」

「確認は・・・・・・しているみたいだけど。結果の報告は受けてない」

「分かりました。じゃあ、鍵を」

 長四郎は比較的荒れていない部屋の鍵を開けるよう依頼する。

「はいよっ」肥後は言われるがまま鍵を開けた。

 中に入ると長四郎は真っ先に窓に向かった。

 このホテルは窓を開ければバルコニーに出られる仕様なので、長四郎はすぐに窓の鍵を開けてバルコニー出る。

 そして、身を乗り出すようにバルコニーの柵にもたれかかり下を覗いた。

 到底、飛び降りるような高さではなかった。

 長四郎は柵から離れようとするのだが、身を大きく乗り出しすぎたのか自力では元に戻れなくなった。

「た、助けて!!」

 その言葉は部屋の中に居る燐と肥後には聞こえないようだった。

「え、ちょっと!!! ラモちゃん!!!! 肥後さん!!!!!」

 長四郎は名一杯声を出すが、2人には届かなかったか。

 すると、下を歩いていたホテルの従業員が、長四郎が今にも落ちそうになっているのを発見し、内線でホテルの従業員に連絡するのが見えた。

 それからすぐに部屋に従業員が来てくれ、長四郎は救出された。

「す、すいません」助けられた長四郎は来てくれた従業員に礼を言う。

「いえ、ご無事で良かったです。でも、どうしてあのような真似を?」

「別には飛び降りようと思ってやったわけじゃないですから。誤解をさせてしまって申し訳ありません」

「それを聞いて安心しました。てっきり、ハーブでも吸ったのかと」とはにかんで見せる従業員。

 この従業員、顔は笑顔なのだが目は笑っていないなと長四郎はそう思った。

 名札に目をやると、森井もりいと書かれていた。

「本当にありがとうございました。森井さん」

「そんな。最初に気づいた伊揚に礼を言ってください」

 そんな2人の会話を気まずそうに聞いている燐と肥後。

「では、私はこれで」

「ありがとうございました!」長四郎は部屋を後にする森井に深々と頭を下げ再度、礼を言う。

 森井が出て行ったのを確認し、頭を上げると冷徹な目で燐と肥後を見つめる。

「そ、そんな目で見ないでよ」燐の言葉に同意するかのように頷く肥後。

「危うく死ぬところだった」

「ごめんて」

「謝って許されるなら警察はいらないですよね。警察官の肥後さん」

 今度は肥後の顔をまじまじと見る。

「お詫びに、ぜんざいを奢るから」肥後にそう言われ「よし、許そう。飛び切り美味しいぜんざいを」

「は、はい!」何故か、その場で敬礼する肥後。

 すると、長四郎のスマホに着信が入る。

 相手は一川であった。

「はい、もしもし」

「長さん、久しぶり」

 いつものように吞気な声が聞こえる。

「どうしました?」

「いや、そっちの状況はどうかなと思って」

「特に進展はありません。しいて言うならば男達が脱法ハーブパーティーをしていたことぐらいですかね」

「そうね。実は今回の事件の被害者の遺族が行方不明なんよ」

「それって」

「復讐しに行ったかもしれんけん。今、こっちでも行方を追ってるからそっちでも警戒しといてくれんね?」

「了解です」

 そこで通話を切った長四郎は2人の方を向き、こう告げる。

「東京の事件の被害者遺族が行方不明だそうです。その遺族がここに宿泊しているかもしれないから顧客名簿を確認しましょう」

 こうして被害者遺族の行方捜索の為、3人は1階フロントへと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る