第弐拾弐話-結社

結社-1

どうして、こうなっちまった。

 私立探偵の熱海あたみ 長四郎ちょうしろうは、心の中でそう呟く。

 目の前で起きているこの現実をどう処理するかを考えていた。

 そう長四郎の眼下には、一人の男の死体が転がっているからだ。

 アメリカから帰国後、時差ボケと戦いながら不倫調査に勤しんでいた。

 今回の依頼は、とある旦那が女と居る所を奥さんの友人に目撃され、不安に駆られた奥さんが急遽、長四郎に浮気調査を依頼した。そんなごくありふれた浮気調査になるはずだった。

 それがどう言う手違いか。調査対象は死体となった、。

 長四郎は年明け早々、縁起が悪いと思いながら一川ひとつかわ警部に連絡する。

「新年明けましておめでとう」

 一川警部の開口一番はそれだった。

「新年明けましておめでとうございます。一川さん、お助けください」

「新年一発目にして、そんな言葉が聞けるってことはラモちゃんが事件を引き寄せたと?」

「いいえ。今回は私目でございます」長四郎がそう答えると一川警部から「事の詳細を聞かせて貰える?」尋ねられ長四郎は事の顛末を語った。

「なんか、探偵物語みたいな話やね」

「そうでしょ。一川さん。俺も困っちゃっててさぁ〜」と探偵物語の主人公・工藤俊作くどうしゅんさくのモノマネをする。

 因みに、読者の若い皆様には探偵物語というドラマを知らない方も居るだろうから、どんなドラマかをざっくりと説明すると、私立探偵・工藤俊作が依頼を受けるとひひょんなことから殺人事件等に巻き込まれ事件を解決していく。そんな作品である。

「長さん、似とらんばい」

「あ、すいません」

「取り敢えず、そこに居って。最寄りの警察署から警官寄越すから」

「了解です」

「後ね。今回、あたしらあんまり協力できんかもしれんけん」

 一川警部から思わぬ言葉が出てきて「え?」と長四郎は思わず戸惑ってしまう。

「いやね、今ね面倒くさい事件を追っとってね。大変とよ」

「なんか、忙しい時にすいません」

「気にせんとって。こっちの都合やけん」

「はぁ」

 長四郎は新年一発目から、事件を持ち込んで申し訳ない気持ちで一杯になる長四郎であった。

 一川警部との通話を終わらせてから三十分程して、最寄りの警察署から刑事たちが来た。

「それで浮気調査していて、少し目を離した隙に対象が目の前から消えたので慌てて追いかけていたら、死体となった被害者を発見したと?」

 最寄りの警察署の刑事のさわが長四郎の事情聴取を行う。

「そうです」

「ふむ。被害者に気づかれたってことは?」

「それはないかと。ほら、年始の人混みでしょ。対象を見失うことだってありますよ」

 事件発生現場は初詣に向かう参拝客が密集している所から、少し離れた雑居ビルの間で発見された。

「探偵さんでしょ。見失うなんてことある?」

 澤のこの一言で長四郎は察した。

 ああ、自分が容疑者筆頭候補なんだと。

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