異人-19
とある日、津崎は仕事が手につかず、ソワソワしていた。
これから役員会議に呼ばれるからだ。
道前が殺害され、空いた役員の椅子に自分が座れることになったのだ。
予定では10分後に呼ばれるのだが、やはり落ち着かない。
ここまで這い上がるのに、かなり苦労を強いられた。
入社してから、がむしゃらで仕事に明け暮れ役職には就いてはいないもののそれなりの発言権を得られるポジションに収まることが出来たまでは良かったのだが、そこからが苦労の連続であった。
社長の杉田に命じられたのは、会社役員達の尻拭いだった。
その中で一番大変だったのが、道前の尻拭いだ。道前は会社の金を湯水の如く使い散在しまくり補填をするのが大変で、一番報酬の高い中村の役員費から補填する事態までに陥った。
これに杉田は烈火の如く怒り、全ての対処を津崎に押し付けた。
そこから津崎の復讐が始まった。
トゥルルルルルル
内線が鳴った。
「はい。はい。分かりました。直ちに向かいます」
内線を切った津崎は眼鏡をくいっとあげ、役員会議が行われている会議室へと移動し始めた。
廊下を歩く津崎の足は徐々にステップを踏んでいく。
「ふふふーふふぅふー」鼻歌を歌いながら廊下を歩いていき目的の部屋が近づき、鼻歌を辞め軽い服に乱れを直して会議室の前に立つ。
コンコンっ、2回ドアをノックすると「はいっ」と野太い声の返事が聞こえた。
「失礼します」
会議室に入るとそこに居たのは役員達ではなかった。
「貴方達は・・・・・」
「どうも、お待ちしておりました。津崎さん」
そう声を掛けたのは上座に座る長四郎であった。
「どうして貴方がここに? ここで役員会議が行われていたはずですよ?」
「10分前まではそうでした。ですが、ここに居た全員は組織犯罪対策課に連行されました」
淡々と答える絢巡査長に続いて、一川警部が話始める。
「驚かれるのは無理もないですたい。ばってん、あたしらがここに居る理由は道前さん殺害容疑者が分かったからなんですよ」
「そ、犯人は至ってシンプルな答えの人物であった」
次に燐が口を開いた。
「そして、それを混乱させたのはこの私。お陰で酷い目にあったわ」
津崎が振り返ると、ドアの内側に隠れていたミシェルが真後ろに立っていた。
「私にそう言われても困ります。あの失礼しても宜しいでしょうか? 仕事がありますので」
津崎はそう告げ、その場から去ろうとする、だが、ミシェルがその通行を妨げそれに合わせて長四郎が指パッチンをする。
それまでデスクトップ画面しか映っていなかったスクリーンに例の静止画が映し出される。
「津崎さん! これを見てください」
それまでミシェルの方を向いていた津崎がスクリーンを見る。その目は大きく見開かれていた。
「どうです? 驚きました?」長四郎の問いに「はい。あ、いや、これはなんです?」逆質問をぶつける津崎。
「そうでしたね。これは津崎さんが事件当日に道前さんのマンションへと行っていた証拠の防犯カメラ映像です。一応、映像もありますけど、確認しますか?」
「結構です。確かに私はこの日、道前のマンションに行きました。ですがこれだけで私が犯人だとでも言うんですか?」
「仰る通りです。でも、根拠はあるんですよ」
「根拠?」
「はい。では、まず初歩的な所から。津崎さん、最初に会った時に何故道前さんのマンションを訪れていた事を教えてくれなかったんですか?」
「それは、このように疑われたくなかったので」
「では、次に気になった事を。津崎さんはお忘れかもしれませんが初めてお会いした時に「道前のマンションから会社の人間が目撃されたといったことはないのでしょうか?」と私に質問してきました。これが引っ掛かったんです」
「確かにその口ぶりだと犯人が誰だか心当たりがあるような発言ね」ミシェルがそう言うと「確かにぃ~」と燐は感心した。
「そんな事言ってません。仮に言ったとしても、その発言とその映像だけで私が犯人? ふざけないで頂きたい! 確固たる証拠を見せてもらいたいですね」
「証拠。分かりました。では、お見せしましょう」
長四郎は再び指パッチンをした。
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