話合-5
翌日、長四郎は再び演芸館を訪れていた。
昨日の事件は突然死とだけ報道されていたので、弔い講演と銘打って本日もこうして営業しているのだ。
受付の珠子さんに関係者への聞き込みをもう一度したいと頼んだところ、二つ返事で了承してくれ中に通してくれた。
関係者入口から入り関係者が集まっている舞台袖の方へ歩いていると、舞台の方から盛大な笑い声が聞こえてきた。
スタッフ、演者の邪魔にならないよう袖から覗くと一人の落語家がドッカンドッカン受けていた。
「あの人、凄いですね」
長四郎は関心を示す。
「ええ、
安城はそう反応すると後ろに立っていた押井が咳払いをし、注意する。
すいませんと言わんばかりに、安城は軽く頭を下げる。
そこから最後まで、話を聞き入った長四郎。
出囃子と共に、舞台袖に満足そうな顔で戻ってくる
「お疲れさん」
安城、押井にそう言うと、楽志はスタスタと楽屋に戻っていく。
すぐ様、長四郎は楽志を追いかける。
「あの、すいません」
そう言って楽志を呼び止める。
「何でしょう」そう言って、長四郎を見る楽志。
「少しサンデーさんの事に聞かせて頂けませんか?」
「構いませんけど。取り敢えず、どうぞ」楽志は長四郎を楽屋に通す。
「サンデーの事で聞きたいこととは何ですか?」
そう言いながら、楽志がさり気なく何かを隠すのを長四郎は見逃さなかった。
「サンデーさんは、創作落語を得意とされているとお聞きしたんですが古典の方は?」
「彼はそっちの方は、からっきしでね。
だから、創作落語の腕を磨いていたんですよ」
「そうだったんですね」
「まぁ、創作落語家としては一流でしたけど、私生活はズタボロでしたけどね」
「というのは?」
「彼、酒癖も女癖も悪くてね。終いには、浮気して奥さんに逃げられちゃったんですよ」
「そんな事があったんですか」
小春の離婚理由が判明し、長四郎は浮気相手も調査しようか考える。
「最後に何ですけど、今日の高座をお聞きしたんですけど。楽志さんも創作落語家なんですね。話を作る秘訣とかあるんですか?」
「う~ん、インスピレーションかなぁ~」
「インスピレーションですか・・・・・・
にしても、今日はめちゃめちゃ笑いを取ってましたね」
「そう、今日は自信作だったから」
「自信作ということは、新作ですか?」
「そう」
「すごいなぁ~あれだけ笑いが取れればさぞ気持ちいいんでしょうね。
話をして頂いてありがとうございました。失礼します」
長四郎は楽志に一礼し、楽屋を退室する。
ふぅ~っと息を吐き再び舞台の方へと戻ろうとすると、目の前に燐が立っていた。
「お、お主、ここで何をしておる?」動揺する長四郎は、燐に用件を尋ねる。
「答えはこれじゃあ~!!!」
長四郎にストレートキックを浴びせる燐。
「ふぐっ」と言いながら、意識を失い倒れる長四郎。
燐は素早く長四郎の財布をポケットから引っ張り出して、1000円を抜き取りこういうのだった。
「釣りはいらねぇ~よ」と。
その頃、浅草署の遺体安置室で小春がサンデーの遺体と面会していた。
「本当に死んだんですね・・・・・・」
面会に立ち会っている絢巡査長に話し掛ける小春。
「残念ですが・・・・・・」
絢巡査長はいつもこの場面が苦手である。
その理由は、何と声を掛けて良いものなのか、最適解が分からないからだ。
「死因は何ですか?」
「え?」
まさか、小春からそんな質問が出てくるとは思わず絢巡査長は驚く。
「死んだ原因は?」
「ああ、それはまだ捜査中の事なので」
「そうですか」
「申し訳ありません」
「いえ、こいつの葬儀は私が行いますので」
「分かりました。すいませんが、手続きがありますので宜しいでしょうか」
「はい」
安置室から出ると、桂太郎が部屋の前で待っていた。
「ケイ、お父さん死んじゃったよ」小春はそう言うと、桂太郎を抱きしめる。
「知ってる」
桂太郎は冷淡な返答をする。
「あ、すいません。お母さん、手続してくるから外で待ってなさい」
「うん」
ジュース代を渡された桂太郎は外に出る。
「では」
絢巡査長は小春を会議室へと案内する。
桂太郎は署内にある自販機で炭酸飲料を購入し、邪魔にならないよう玄関口の隅の方に座ってジュースを飲む。
「こんな所で何しとうと?」一川警部は、桂太郎の隣に座る。
「母ちゃん、待ってる」
「そ。あ、そういや話聞いたばい。長さんに依頼したんやって」
「うん」
「何を依頼したの?」
「守秘義務って言葉知らねぇのかよ。ハゲ」
「い、いやぁ~」
しばき倒そうかと思うが、一川警部はグッとこらえる。
「なぁ、ハゲ。父ちゃんは殺されたのか?」
「それを今、調べとうと」
「ふ~ん」
桂太郎は、ぐびっと炭酸飲料を流し込む。
「なぁ、父ちゃんを殺した犯人捕まえてくれよな」
「おう」
「ケイ、帰るよ」
小春が桂太郎に声をかける。
「またな、ハゲ」
「またな、クソガキ」
桂太郎は小春に連れられ帰路に着いた。
「一川警部」
絢巡査長が近寄ってくる。
「なんかあったと?」
「いや、そういうわけでは。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「小春さん、無理してサンデーさんの事を引き受けたような」
「そうかねぇ~ あたしはそうは思わんけどねぇ~」
一川警部はそう言いながら、手をつないで帰る小春と桂太郎を見るのであった。
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