支援-7
源を連れて、田原が戻ってきた。
「お待たせしましたぁ~」
そう言いながら、部屋に入ってきた田原の手には人数分のお茶とこんもりと持ったお菓子が載ったお盆が握られていた。
「どうぞぉ~」田原は長四郎達に、お茶を出していく。
「ありがとうございます。頂きます」
燐は礼を言い、お茶をすする。
「それで、私に聞きたい事は何でしょうか?」
「源さんも林野さんの横領事件を調べているとのことですが、源さんの現時点での調査結果についてお聞きしたいんです」
絢巡査長が源を呼んだ目的を伝える。
「分かりました。
現時点で分かったことは、林野の口座から別の口座に横領した金が横流しされていることです。
今、別業者に依頼してその口座について調査中です」
「調査を委託されているんですね」
「ええ、まぁ」長四郎の言葉に頷く源。
「失礼ですが、どの委託業者か、教えて頂けませんでしょうか?」
「え?」
まさか、そんな質問が来るとは思わず、田原と源は顔を見合わせる。
「何か? 不都合な事でも?」
「い、いえ」
明らかに戸惑っている源と違い、田原は平然としており長四郎にその理由を求める。
「あの、その委託業者が事件と何か関係あるのですか?」
「いえいえ、深い意味はないんです。実は私、警察じゃなくてこういう者なんです」
長四郎は自分の名刺を田原、源の2人に渡す。
「あっ、探偵さんなんですか?」
「はい、そうなんです。昨今、浮気調査だけじゃやっていけなくて新規事業を立ち上げたいと思いましてね」
「そうだったんですかぁ~」
長四郎の回答に1人納得する田原に対して、懐疑の目を向ける源は質問した。
「刑事さんならまだしも何故、探偵さんが林野の事件を操作されているんですか? ドラマじゃあるまいし」
「普通は、そうですよね。まぁ、こちらもとある所から林野さんの身辺調査をお願いされましてね。あ、でもこちらで聞いた話をうちの客に伝えるといったことはありませんので、ご安心を」
「そう言う理由だったんですね。貴方も分かった? 源」
「はい・・・・・・」
源は何か言いたそうであっただが上司の手前、口をつぐむのだった。
「それで調査会社について、知りたいんですよね」
「はい」長四郎は頷いて返事をする。
「源」
源に調査会社の資料を持ってくるよう田原は指示をする。
源はそう言われ、渋々調査会社の資料を取りに行く。
「あの、源さんって林野さんと仲が悪かったんですか?」
「正直、あまり良い印象を持っていないのは事実です」
燐の質問に田原は、そう答える。
「林野さんは何か、勤務態度に問題でもあったんでしょうか?」
長四郎は疑問に思ったことを率直に尋ねる。
「決してそういう事はなくて、彼と同様のことを思っている社員は少なくありません。
というのも、営業成績は悪くないんですが残業はせずに定時退社。取引先との接待にも付き合わない。そういった感じの勤務スタイルでしてね。特に真面目で営業成績もトップな源は、それが許せないんでしょう」
「成程」
長四郎は確かに、嫌われる訳だと思った。
そんな話をしていると、源が調査資料を持って部屋に戻ってきた。
「こちらが委託している調査会社です」
源は調査会社の資料を手渡し、受け取る長四郎。
「ありがとうございます」
その調査会社は、長四郎も聞いた事のない会社であった。
「この資料、貰っても?」
「ええ、構いませんが」
「ありがたく頂戴します。行こうか2人共。」
長四郎は絢巡査長と燐に、帰る旨を伝える。
「はい」
「分かった」と各々、返事をして椅子から立ち上がる。
「では、失礼します」
田原と源にそう告げ、会議室を出ていく。
会社から出て、並んで三人は歩く。
「これから、どうするの?」
長四郎に次なる行動を尋ねる燐。
「・・・・・・・・・・・・・」
「長さん?」
絢巡査長が隣を歩く無言の長四郎の顔を覗き込むと、長四郎は口をパクパクと動かしていた。
「え、キモっ!!」絢巡査長は、つい思ってしまった事を口にする。
「あ、このおっさん。絶賛、集中モードなんで。にしても、ホントにキモイですね」
燐も長四郎を見て、嘲笑う。
長四郎、一人だけ立ち止まり、スマホを操作し始める。
STOP!!! ながらスマホ。
「公共広告機構のような下りを入れてしまい、申し訳ありませんでした!!」By作者
そんな長四郎を置いて燐と絢巡査長は歩き続けていると、2人のスマホに着信が来た。
“振り向くな! 先の会社から尾行されている (⋈◍>◡<◍)。✧♡ ”
2人がこの顔文字に嫌悪感を示していると、続けて着信が入る。
“三手に分かれて、尾行をまく。集合場所は、追って連絡する ( ^^) _U~~
直線上に、十字路の交差点がある。
ラモちゃんは、右方向。絢ちゃんは、左方向に俺は直進するから。よろしこ !(^^)! ”
燐と絢巡査長はスマホをしまうと、長四郎の指示に従い十字路の交差点で分かれて歩き出す。
長四郎は直進していくと、尾行者は長四郎に付いて来た。
そうして、長四郎は尾行者を引き連れたまま、丸の内周辺を散策し始める。
それから2時間歩き回り、尾行者が疲れてきたタイミングで長四郎は行動を起こした。
人気のない路地裏(行き止まりあり)に誘い込む。
尾行者はまんまと引っかかって、路地裏に入って来ると長四郎の姿はなかった。
慌てて探す尾行者の姿を、物陰から撮影する長四郎。
すると、尾行者はどこかへ連絡する。
「すいません。取り逃しました。東さん、どうしますか?」
尾行者の正体は東の事務所の人間のようだった。
長四郎は身を潜めながら、でかでかと大きな声で話す内容を録音する。
「はい、はい。分かりました。事務所を張り込みます。それと、もう一人の女子高生の方はどうしますか? もう、家の前で張り込みをしているんですね。
分かりました。自分はすぐに事務所の方へ向かいます」
そう言って、電話を切り尾行者は長四郎の事務所へと向かって行くのを見送ると同時に、長四郎は燐に連絡をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます