有名-9

「何、あんた達?」

 燐は指をぽきぽき鳴らしながら、戦闘態勢に入る。

「君こそ、何? 俺たちは、澤村美雪に用があるんだけど」と真ん中に立つ黄色のパーカー(以降の名称・黄パーカー)を着た男が燐の問いかけに答えた。

「サインを貰うにしては、物騒な物を持っているじゃない?」

「君さ、俺たちとやる気満々みたいだけど。手加減しないよ」

 黄パーカーがニタニタしながら、持っていた金属バットを突き出す。

「そう、そっちこそ後悔しないことを祈ってるわ」今度は首を鳴らしながら答える燐。

「大丈夫なの?」

 心配そうに美雪が尋ねる。

「あ、美雪さんはどこか物陰に隠れといてください」

「でも」

「良いから!!」

 燐に強く言われた指示通り、一番近くに駐車してあった車の後ろに身を隠した。

「俺、忠告したよな」黄パーカーは残りの白、桃、紫、青、緑のパーカーを着た仲間達に賛同を求める。

 そして、4人の仲間達は口を揃えて『異議なし!!』と答えるのだった。

「じゃあ、行くぞォ!!!」

 黄パーカーはヤンキー漫画の主人公が抗争相手に立ち向かいに行く主人公のように号令をかけ燐に襲い掛かる。

 しかし、先制を仕掛けたのは燐であった。

 先行して突っ込んできた黄パーカーの顔に飛び回し蹴りを叩き込み、左後ろを走っていた青、緑パーカーに黄パーカーの身体をぶつけ、少しの間、身動きができないようした。

 そして、着地すると共に残りの白、桃が振り下ろした鉄パイプを避け白パーカーが持つ鉄パイプを掴み自分の方へ引き寄せその顔面にストレートパンチをお見舞いし戦闘不能にする。

「てめぇ!」

 激昂した桃パーカーが燐の頭めがけて鉄パイプを振り下ろしてきたのだが、燐はそれを真剣白刃取りで受け止めると鳩尾にキックを浴びせ距離を離す。

 倒れた桃パーカーの金的を容赦なく燐は踏みつけた。

 悶絶する桃パーカーを見て「ハンッ!!」と鼻を鳴らし、残りの3人を探す。

「う、動くな!!」

 思いの外、強い燐に怯えた様子の黄パーカーはバタフライナイフを武器に美雪を人質に取っていた。

「あんた、男なら正々堂々とかかってきなさいよ」

「知るかぁ!! おい!!!」

 残りの青、緑パーカーに燐を倒すよう指示を出す桃パーカー。

 燐もさすがに、美雪を人質に取られていては身動きできず青、緑パーカーが振り下ろす金属バットの餌食になろうとしていた。

 もうダメだっ!!

 燐がそう思い目を閉じたその時、金属バットが地面に落ちる音だけがした。

 恐る恐る目を見開くと、青、緑パーカーは白眼を向きながら地面に倒れた。

「遅い!!」燐は目の前に立つ長四郎をしかりつける。

「そんなに怒らないでよ。それより、後ろ。後ろ」

 長四郎が指さす先を見ると分が悪いと思ったのか、美雪を捨てて1人逃げ出していた。

「逃がすかァァァァァァァ」

 燐は黄パーカーを追いかけるのだが、黄パーカーは逃げ足が早く取り逃がしてしまった。

「クソッ!!」

 悪態をつきながら長四郎と美雪の元に戻ると、残りの4人も逃げていた。

「逃げられたの?」

「ああ」

 長四郎は素っ気ない感じで答えると、一川警部に連絡するのだった。

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