話合-3
受付のおばちゃんであり、演芸館の長老(本人談)でもあるという珠子さんから桂太郎の家の住所を聞き出した長四郎は桂太郎を家まで送る。
そして彼らは今、電車に揺られていた。
「なぁ、おっさん。俺の父ちゃん・・・・・・」
桂長四郎を見る桂太郎の目には、涙が浮かんでいた。
ここに来て、自分の父親が死んだという状況を吞み込めたらしい。
「ああ」と長四郎は、素っ気ない返事をする。
桂太郎はグッと涙をこらえて下を向く。
「あんたさぁ、もう少し慰めってものを知らないわけ?」
燐が長四郎に食って掛かる。
「そう言われてもなぁ~」
参ったなといった感じで、長四郎は頭を掻く。
「あんたさぁ、こんな年端もいかない子にそれはないんじゃない?」
「年端もいかないって大げさすぎ。小学生だろ。てか、お前、何歳だよ?」
「7歳」声を出したら泣きそうになるから、桂太郎は必死に泣かないよう声を震わせて答える。
「7歳のガキが年端もいかないっていうのは違うぞ」
「うるさいわね」ムッとする燐。
最寄り駅の浅草橋に着き降車する3人。
駅から桂太郎の自宅に向かって歩き出す。
少し落ち着きを取り戻したのか桂太郎は、自宅までスタスタと2人を置いていく形で歩く。
5分程歩いた所に桂太郎の住むアパートがあった。
桂太郎は、プランターの下から鍵を取り出し、扉を開けて部屋に入る。
「よしっ、家に帰ったな」
長四郎は桂太郎が家の中に入るのを見届けると踵を返して帰ろうとする。
「待ちなさいよ」
燐は長四郎の襟をつかんで、引っ張って自分の所に引き戻す。
「な、何だよ!?」
「あんたさ、あの子とお父さんの間に何かあったか聞かないの?」
「聞かねぇよ。
ラモちゃんが聞けよな。俺、自分の仕事しなきゃいかんから。じゃ」
長四郎が立ち去ろうとした時、桂太郎の部屋のドアが開く。
「人の家の前でうるさいよ」
『すいません』
二重唱で桂太郎に謝罪する長四郎と燐。
「話があるんだけど、中に入ってもらえる?」
「いいよ」
長四郎はクールに返答して部屋に入り、燐も続いてお邪魔する。
居間に通された長四郎と燐は、2人掛けのソファーに並んで腰掛ける。
「で、話って何?」
長四郎が切り出す。
「おっさん、探偵なんだろ?」
「ああ」
桂太郎は黙って、自室に入って行く。
「どうしたんだろう?」
燐は長四郎が気に障るような事を言ったのかと心配になる。
カエルの宇宙人の貯金箱を持った桂太郎が、自室から出てきた。
「これ」
そう言って、貯金箱を長四郎に差し出す。
「幾ら?」
「ちょっと!? あんた子供から金をとる気?」
中身の金額を尋ねる長四郎に、燐は驚愕する。
「多分、1万8千円ぐらい」
「で、依頼内容は?」
「俺、ついこの前、父ちゃんに会ってさ。すっげー嬉しかったし楽しかった。
だから、父ちゃんにもう一度会いたくてあの場所に行って・・・・・・
それに父ちゃんも俺に話したいことありそうだったし。俺は、父ちゃんが何を言いたかったのか知りたい」
堪えていた感情が爆発した桂太郎は大泣きする。
長四郎はソファーから立ち上がり床に突っ伏している桂太郎の肩に手を置く。
「引き受けた。だから、もう泣くな」
「うん」と言い目を腫らしながら、桂太郎は顔を上げて長四郎を見る。
「よしっ、じゃあこれはお前が持っとけ。な」
貯金箱を桂太郎に返すその時、玄関が開く音がする。
「ただいまー。ケイ、誰かお客さん来ているのぉ~」
居間に姿を現す被害者・昇風遊平の元妻であり桂太郎の母の
「すいません。どちら様ですか?」
見知らぬ人物に驚くと共に、すぐ警察へ通報できるようスマホを手にする小春。
「あ、私、こういう者です」
長四郎は自分の名刺を渡す。
「探偵さん? 新手の押し売りですか?」
「いえいえ、実は申し上げにくいことなのですが・・・・・・
昇風 遊平さんがお亡くなりになりました」
その瞬間、小春の目に光が無くなり膝から崩れ落ちる。
「大丈夫ですか?」燐がすぐさま小春の側による。
「大丈夫です。あの死んだというのは本当ですか?」
「はい」と静かに頷く長四郎。
「何で死んだんですか?」
「今、それを調べている所です」
「そう。あの申し訳ないんですけど」
「分かっています。今日の所はお暇します。
すいませんが後日、お話を聞きたいので連絡先だけ教えていただけないでしょうか?」
長四郎は小春がこの状況を整理したいと意図している事を読み取り、小春と連絡先を交換して燐を連れて部屋を後にする。
「ねぇ、これからどうするの?」
駅までの道中燐がこれからの捜査方針を尋ねると「知らね」の一言で片付ける長四郎。
「ねぇ、それは無いんじゃない? 依頼を受けたんだから、真剣に調査しなさいよ!」
長四郎のスマホに一川警部から着信が入る。
「はい、もすもす」
「もすもす、長さん。今、なんばしようと?」
「ラモちゃんに絶賛、絞られ中ですが何か?」
「今回の事件、どうやら殺人事件の疑いが出てきたったい。長さんのお力をお借りしたいと思って電話した次第なの」
「分かりました。これからどこに行けば?」
「そうねぇ~喫茶カラフルに集合でどうやろ?」
「了解です。後、昇風遊平さんの元奥さんとお会いしたんですけど」
「えっ!? それホントね。
いや、仏さんの遺族に連絡取れる人居らん。そう言っとって困っとたと」
「でも、今は無理だと思います」
「ああ、そうね。じゃあ、明日あたりもう一度連絡しようか。長さんの事やから、連絡先交換しとるんやろ」
「まぁねぇ~」
「じゃ、続きはカラフルで」
そこで、通話が切れた。
「喫茶カラフルね。行こう」
燐はスマホの地図アプリで場所を検索しており、そそくさと歩き出す。
「何でラモちゃんが付いてくるの? 帰れよ」
追従する長四郎は帰宅するよう促す。
「嫌。私もこの事件の捜査手伝う」
「じゃあ、請求はラモちゃん持ちってことで。
桂太郎に変わって、ゴチになりますぅ~」
長四郎は駆けって、燐から逃げる。
「何で私が払わないといけないのよ!!!」
鬼の形相で、長四郎を追いかける燐。
しかし、傍から見たらただの仲良しバカップルにしか見えない光景であった。
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