復讐-4

 その頃、警視庁捜査一課命捜班では1週間前に発生した強盗殺人事件の捜査が行なわれていた。

 その事件は1週間前の午前1時頃に発生した。

 被害者の花火はなび 職人しょくひと・33歳は帰宅途中、何者かに絡まれそのまま暴行を受け殺害されたのだ。

 そして今、一川ひとつかわ警部は周辺の防犯カメラのチェック、あや巡査長は事件現場周辺の聞き込みを行いながら犯人を炙り出そうと動いていた。

「はぁ~ 疲れた」一川警部は目を押さえ少し目を休ませてから再びモニターに視線を戻す。

 もうかれこれ5時間ぶっ通しで動画を見ているので一川警部の疲労もピークに達そうとしていた。

「うん?」一川警部のレーダーに引っかかる物が映った。

 再度、早戻ししてその場面を再生する。

 そこに映っていたのは頭がカラフルな色をした5人組の男達であった。

 その時、命捜班のドアが開き小走りで絢巡査長が部屋に入ってくる。

「ああ、お帰り。収穫あった?」

「ありました。一川さんの方は?」

「気になる奴は映っとったと」

「その人物って、髪の毛を染めている5人組ですか?」

「おっ、何で分かったとね」

「実は事件現場から100m程、離れた所で通行人が手を赤く染めた5人組が慌てて駆けって行く所を目撃したという証言が取れました」

「その目撃者の素性は掴めとるんよね?」

「はい。目撃者は近くのコンビニでアルバイトする女子大学生です。

その女子大生は帰宅途中に男達を目撃したようで、てっきりヤンキーが喧嘩してその場から逃げてきたのだと思ったそうです」

「なるへそ。その女子大生は遺体があった現場を見てないの?」

「それは見てないそうです。彼女の住む家は事件現場付近ではないようで」

「そう。最後の質問。その女子大生って、可愛いと?」

 その一言でムッとする絢巡査長は「セクハラです!!」とだけ言い部屋を出ていった。

「セクハラって・・・・・・」

 一人部屋に残された一川警部は再び作業に戻る。

 それから1時間後、一川警部は男達が映っている映像全てを確認し終えこれから身元照会をかけようと行動を移そうとした時、絢巡査長が捜査資料ファイルを抱えて戻ってきた。

「疲れたぁ~」そう言いながら重そうなファイルをドンっと音を立てて机に置いた。

 そのファイルは少年課のものだった。

「これは?」説明を求める一川警部に絢巡査長は解説し始める。

「この捜査資料は6年前に発生した暴力事件の資料です」

「その当事者がこいつらって事?」

 一川警部は照会用にプリントした男達が映っている写真を見せる。

「ご名答です」とだけ答える絢巡査長。

「で、どんな事件なの?」

「6年前、台東区で事件は発生しました。被害者は会社員の経文へぶん 取根男とねおさん、45歳です。

経文さんは帰宅途中、この5人組に絡まれている女性を助けようとした所、リンチされました。その結果、経文さんは脊椎を損傷してしまい重い後遺症が残りました。

すぐにその女性の証言から5人組の身元が割れ事情を聴いたところ犯行を自供したようです」

「それが更生せず遂には、人殺しか・・・・・・」

「ええ、残念な話です。キチンと更生していれば今回の事件が起きなかったんでしょうけど」

「絢ちゃん、それは理想にすぎんよ。人間の中にはね、生まれつき性根が腐っている人間が大勢いる。そういう奴らに更生云々言っても大抵、通じんけん。だから、今回の事件が起きたったたい」

「それでも。それでも私は更生してくれると信じて彼らの人間と向き合いたいそう思います」

「良かやない。その考えで。さ、彼らがこれ以上馬鹿やらないよう整理しようか」

「はい」

 一川警部と絢巡査長は男達の情報を纏め始める。

「では、始めます」

 絢巡査長はそう前置きし、5人組の説明を始める。

「まず茶髪の男から、名前は規陽きよう ダナ。現在24歳。職業はホストです。次に赤髪の男は垂三たるみ 被布ひふ22歳。グループの中では最年少で職業は、スポーツインストラクターです。

緑髪の男は布袋ほてい そん。23歳で建築会社勤務のサラリーマンでその次に」

 その時、命捜班の内線が鳴る。

「はい、命捜班の一川警部だお」

 真っ先に一川警部が電話に出るのだが、その顔が徐々にしかめっ面になりシリアストーンで「うん、うん」と相槌を打ちながらメモをとる。

「分かりました。ご連絡ありがとうございました」そう言って受話器を置いた一川警部。

「どうしましたか?」

 そう聞かれた一川警部は絢巡査長に目を向け、口を開く。

「絢ちゃん。この青髪の男と金髪の男が殺害された」

「全手清算と取田景品ですね。それで場所は、何処ですか?」

「沖縄」

「沖縄!?」

 隣県ならまだしも日本最南端の県で殺されたことに絢巡査長は驚きを隠せない。

「それで絢ちゃんには沖縄に行って欲しいんやけど。良か?」

「はい、分かりました」そう返事する絢巡査長の脳裏にはどの水着を持って行こうかそんな事がよぎっていた。

「あたしは東京に残って、今回の事件について追うけん」

「お願いします」絢巡査長は一度、荷造りの為帰宅する準備をする。

「ああ、それと他の3人も沖縄におるらしいから。事件の話聞いてくれんね?」

「了解しました。では、行ってきます!!」

 一川警部に敬礼し絢巡査長は部屋を急ぎ足で出ていった。

「あれは事件解決後に、休暇願を出す顔やったな」

 一川警部はそう呟き、男達の情報が記載されたホワイトボードを見るのだった。

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