返金-21

 ピシャリこと佐谷田賢也は撮影を終え家で待つ彼女の元へと向かう為、送迎用のワンボックスカーに乗りこもうとすると、ワンボックスカーの前に立つ人間が二人、長四郎と燐である。

「どうもぉ~」恒例の吞気な挨拶をする長四郎。

 それを見て、少し驚いた表情をするピシャリ。

「何で、お前が・・・・・・」

「どうして、この人が驚いている訳?」

「ラモちゃん。その話は前回の章で終わっているから」

「そうなの?」

「そうなの」

「俺に何の用や?」

「いやね、殺されかけた時に色々な方々から面白い話を沢山聞けたので。是非ともKuun hubの動画のネタにでもしてもらおうかなと」

「動画のネタやと?」

「ま、立ち話でもなんですから。あの車に乗りながらでも話しましょうか?」

 長四郎が指さす先には、絢巡査長と一川警部が乗る覆面パトカーであった。

「素人の話なんて聞けるかい! どけっ!!」

 ピシャリが二人を押しのけて、ワンボックスカーに乗り込み去っていった。

「行っちゃったよ。どうするの?」

「どうするって。まぁ、話を聞いてもらえないのならそれまでだろ?」

「いや、だとしても」

「ま、考えるさ。今日は解散!!」

 長四郎はそう言って、一人去っていった。

「ったく、無責任な奴」

 燐も帰る事にし、長四郎とは反対の方向に歩き出すのだった。

 ピシャリを乗せたワンボックスカーが、自宅マンションの前に停車した。

 ピシャリが降車すると、そのままワンボックスカーは走り出していく。

 警戒心もない状態のピシャリは、マンションのエントランスに入る直前で背後から銃を突き付けられる。

「動かないで」

 ピシャリの背後に立つ人間は、そう告げた。

「大きな声を出したりしたら、即、撃つ。良いわね?」

「わ、分かった」

「じゃ、行くわよ」

「はい・・・・・・」

 ピシャリは、先程の探偵の差し金か。そう思いながら、言われるがまま歩き出す。

 マンションから少し離れたコインパーキングにこれから乗るであろう車が停まっていた。

「手を出して」

 車に乗る前にそう言われ、ピシャリは両手を差し出した。

 拘束されるのは、パターンとして当然のこととピシャリは思っていたので両手を差し出すのだった。そして、両手に手錠がかけられた。

「さ、乗って」

 後部座席のドアが開けられ、指示通りにピシャリは車に乗り込む。

 運転席に座った脅迫者は、すぐに車を走らせた。

「俺をどこに連れていく気や?」

「・・・・・・」

「お前、あの変な探偵の仲間か? あいつ何者や? 反社か?」

「・・・・・・」

「さっきから黙ってないで、答えろや!」ピシャリは、運転席を蹴飛ばす。

 すると、運転席から後部座席に向けて銃口が向けられる。

「お、おい! こんな所で撃つんやないやろうな!!!」

「撃たれたくなかったら、黙ってて」

「ふざけんな!」

 ピシャリが運転席を蹴飛ばす前に、左肩に穴が空いた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 車の中にピシャリの絶叫が響き渡る。

「言う事を聞かないからよ」

 言い返そうにも経験したことのない痛みで声を出すことも出来なかった。

「さ、着いたわよ」

 二人を乗せた車は、長四郎が連れ込まれた廃工場に入って行く。

 適当な所で車を停車させ、後部座席で悶絶するピシャリを連れて工場に入る。

 そして、長四郎が監禁された大広間の部屋に肩から血を流すピシャリを寝転がせたのは、

警視庁の刑事・内野奈緒であった。

「さ、ここで貴方が何をしたか。ゆっくり聞かせてもらうから」

 奈緒はそう言うと、銃口をピシャリの傷口に押し当てるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る