大物-19
「いやぁ~ 快く話してくれてよかったぁ~」
事務所を出た長四郎の第一声は、それだった。
「良かったぁ~ じゃないよ! 初めてだよ。あんなに生きた心地しなかったのは」
そう言う燐の顔は青ざめていた。そして、付き添いの刑事二人もまた青ざめた顔をしていた。
「でも、おかげで聞き出せたじゃない。ラモちゃんと俺を襲撃するように依頼したのが誰なのか」
「そうだけどさ。言わなかったら、私達、あのまま殺されていたんだよ」
燐の発言に賛同するようにうんうんと頷く一川警部と絢巡査長。
「グチグチうるさいねぇ~」
「うるさく言わないと、また同じ事するでしょ?」
「しないよぉ~」という長四郎の顔はニヤけていた。
「如何に危険なことやったかは置いといて。どげんすると? これから」
「どげんしましょうかねぇ~」
「それより、読者の皆様に襲撃を依頼した人物を明かした方が良いんじゃないんですか?」
「お、そうだね。でもさ、一々言わずとも分かるでしょ? 絢ちゃん」
「そうかもですけど。キチンと説明しないと」
「じゃあ、言おう。依頼したのは」
依頼したのは、森下守男の秘書・瓜野であった。
「ほらぁ~ 俺の台詞取られちゃったじゃん」
「グチグチうるさいねぇ~ 男だろ? シャキッとしなっ!」
燐から𠮟咤激励の蹴りを尻に受ける長四郎であった。
翌日、長四郎は売られた喧嘩を買いに行くために森下邸を訪れた。
堂々と森下邸のインターホンを鳴らすと、秘書の美麗が応答した。
「何の御用でしょうか?」
「はい。そちらで勤めていらっしゃる紅音々さんの居場所についてお話したく参上致しました」
「少々お待ちください」
そう言う美麗の声は驚いていたように感じた。
五分ぐらいして、美麗が勝手口から出てきた。
初めて美麗の姿を見た長四郎は、あまりの美しさに目を大きく見開き見とれてしまう。
「初めまして。森下守男の秘書を務めております。大日方美麗と申します」
「あ、探偵の熱海長四郎です。それで、紅音々さんの件なのですが」
「はい。その件につきまして屋敷の中でお話したいと森下は申しておりますので、中へ」
美麗は長四郎を屋敷内に招き入れ、長四郎は「はい!!」とスケベ心丸出しな感じで美麗に付いて行く。
長四郎は屋敷に通じる道を歩きながら、庭内をきょろきょろと見回す。
「庭に何かあるんですか?」
「いえ、よく手入れされている庭だなと思いましてね」
そう答えていると、庭の花壇に少し違和感を覚える長四郎。
その花壇には綺麗にコスモスが咲き乱れていたのだが、一部分だけ変な盛り上がりがあり花もコスモスではなく彼岸花が植えられていた。
「彼岸花・・・・・・」
「どうかしましたか?」美麗は玄関口で立ち止まり、長四郎の様子を伺う。
「いえ、何も」と答えた長四郎は小走りで美麗が待つ玄関口に向かう。
「中へどうぞ」
引き戸を開けて長四郎を屋敷内に通す。
「お邪魔します」
屋敷内に通された長四郎は、長い廊下を歩き客間へと案内された。
客間にあるソファーに腰を下ろした長四郎と向き合うように美麗もまた椅子に腰を下ろす。
「それで、紅音々の居場所を知っているとか」
「ええ、まぁ」
「どこに居るんでしょうか?」
「知ってどうするんですか?」
「彼女はこの屋敷の家政婦ですので」
「はっきり言ったらどうです? 家政婦が行方不明だって?」
「そうですね。その家政婦を誘拐したのが貴方だって言う事も」
美麗は長四郎が音々を救出した日の屋敷内に設置されている防犯カメラの映像が映ったスマホを見せる。
「なぁ~んだ。知っていたのか」
「営利目的の誘拐ですか?」
「誘拐って、お宅で監禁されているところを救出しただけなんですけどね」
「救出ですか・・・・・・」
美麗はそう言って指をパチンっと鳴らすと、背広姿の男たちが長四郎を囲むように現れた。
「熱海長四郎。紅音々さん誘拐容疑で現行犯逮捕する」
令状を見せられた長四郎は顔を引きつらさせ、美麗はそれを見てほくそ笑んだ。
斯くして、長四郎の手に手錠がかけられるのだった。
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