映画-16
恵一の死体が見つかって、1週間が経った。
遺書のウラ取りは、難航していた。
所々で恵一の確かなアリバイがあり、共犯の線で事件を再捜査の形で動き出した。
そして、長四郎は映画館に来ていた。
目的は、映画を観る為だ。
この1週間、長四郎は捜査をせず開店休業状態で映画を観たり、事務所でサブスクのオリジナルドラマを一気見するなど怠けた生活を送っていた。
映画が終わり映画館を出て、近くのスーパーで総菜、お酒のつまみセットと缶ビール6本セットを購入し自宅兼事務所に帰宅する。
事務所のドアを開けると、すぐ目の前に燐が立っていた。
「うわぁ!!!」
情けない声を出しながら、持っていたマイバックを自分の足先に落とす。
「痛っ!!」
自分の足先を押さえ片足立ちで悶える長四郎。
「何してたの?」
そんなのお構いなしで長四郎に質問する燐。
「映画を観に行ってました」
「映画? 何の?」
「天体制圧用最終兵器が出てくる映画」
「何それ」
「取り敢えず、中に入ってからでも良いか?」
「うん」
燐はそう返事すると、落としたマイバックを拾い上げ、長四郎は足を引きずりながら事務所に入る。
「それで、俺に何か用?」
冷蔵庫にビールをしまいながら用件を尋ねる長四郎。
「あんたはさ、本当に里奈のお兄さんが殺したと思っているの?」
「思ってないよ。なんで?」
「・・・・・・・・・」
「無言って、何か嫌なことでもあったか?」
長四郎は燐にコーラを出す。
「嫌な事っていうか。あんたが言っていたじゃん「里奈お兄さんに何があったのかを突きとめてあげるのが、最適解」って」
「そんな事、言ったけ?」
「言った。で、あんたは突き止める気があるの?」
「最初は、そう思っていたんだけど。段々と気が乗らなくなったっていうか」
「ふざけてんの?」
「いいや、真面目に答えてるよ」
「なんで、気乗りしなくなったの?」
珍しく燐が、激昂しないのに少し驚く長四郎は燐の質問に答える。
「それは・・・・・・ラモちゃんにとって不都合な真実だから?」
「不都合な真実?」
「まぁ、あくまでも可能性。きちんと調べてみないと分からないが。
俺の考える通りであったら、ラモちゃんは凄く傷つくんじゃないのかな?」
「もしかしてだけど、里奈が犯人だと思っているの?」
「意外と勘が鋭いんだな。」
「本当なの?」
「さあ? どうかな?」
何故か、明確な答えをはぐらかす長四郎。
「ねぇ、答えてよ!!」
「もし、もしだ。本当に三玖瑠里奈が犯人だったら、その事実を受け入れる覚悟はあるか?」
「そ、それは・・・・・・」
燐は言葉に詰まる。
やはり、心の中でその事実を受け入れたくない自分が居るからであった。
「すぐに「Yes」と言えないようじゃダメだな」
「なんでよ!!」
「答えは簡単。情に流されて捜査の邪魔をするから」
「し、しないわよ」
「そうか? 少なくとも心の片隅で「里奈が犯人なんて嫌!!!」って思っている自分が居たろう」
「うっ!!」
図星をつかれて、燐はうろたえる。
「それにラモちゃんは容疑者に近い人物だ。
その為、情に流されて捜査の妨害をしかねない」
「私、妨害なんてしない!」
「その保証はどこにある?」
「・・・・・・」
「いや、妨害するのは当たり前だよ。友達だったら、猶更だ。
でもな、ラモちゃん。真実というのは時に残酷なものだ。それを受け入れる覚悟はあるか?」
「その時になってみないと分かんない」
燐は素直に今、思ったことを長四郎に伝える。
「そうか。ラモちゃんの気持ちはよく分かった。明日の朝、ここへ来い」
「分かった」
燐は納得したのか、それだけ言い事務所を出て行った。
「やっと、帰ったか」
邪魔者を追い出したといった感じで、長四郎は湯沸かし器のスイッチを入れる。
湯舟にお湯が貯まるまでの間、長四郎は一川警部に電話をかける。
「一川さん、今の捜査状況を教えてくれませんか?」
「おっ、遂に動いてくれると?」
「ええ、まぁ」
長四郎は自分の推理に納得がいかないという理由で、捜査協力を断っていた。
しかし、これは本音ではない。
本音としては自分の仮説通りだった場合、燐の心を傷つける結果になるのを恐れて事件から身を引こうと考えていた。
しかし、燐と話をしてみてそんなのは杞憂だと感じ、捜査協力する事に決めたのだった。
「いや、共犯の線で事件を追っとうと」
「一川さん、共犯ではなく単独の犯行です」
「えっ!!」
「詳しい話は、明日しますので。その為に、準備して欲しい事があります」
「聞きましょう」
長四郎はそこから指示を出して通話を切る。
通話が終わったと同時に、湯船にお湯が貯まった事を伝える電子音が鳴る。
忙しくなる明日に備えて、長四郎は身体を休めるのだった。
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