御祭-22

 警視庁を一人出た長四郎が向かったのは、勿論のこと事件現場の変蛇内高校であった。

 事件発生から三日。

 学校は少し落ちつきを取り戻したようであった。

 体育館からはバスケットボール部、バレーボール部の練習が見え、校舎からは吹奏楽部の練習演奏が聞こえてきた。

 しかし、校庭は使用禁止らしく校庭を使用する部活に所属する生徒の姿はなかった。

「探偵さん!!」

 校庭を見ている長四郎に燐の担任・生田成美が駆け寄ってきた。

「あ、先生。どうも」

 長四郎は会釈しながら、挨拶する。

「今日は、どうされたんですか?」

「目撃証言の聞き込みに。探偵のする仕事じゃないですけどな」

「燐ちゃんがご迷惑をおかけしているみたいで、すいません」

「謝る必要なんかないから、頭上げて。お願い!!」

 頭を下げて謝罪する成美に長四郎は懇願する。その理由は、深々と頭を下げる成美を見て生徒たちが校舎から興味本位でこちらを見ていたからだ。

「先生。先生!!」長四郎が少し強い口調で呼びかけることで、やっと頭を上げてくれた。

「俺、なんかクレーム言いに来た人みたい」

「そんなこと!」

 否定する成美に長四郎は校舎の方を見るように、目で促す。

「あなた達!」

 成美に怒られた生徒たちは一目散に消えていった。

「青春だなぁ~」逃げ出した生徒たちを見て長四郎はうんうんと頷く。

「じゃなくて。探偵さん、目撃証言の聞き込みしに来たんですよね?」

「そうだった。うわっ、しまったなぁ~ さっきの子達に聞けば良かったなぁ~」

 指をパチンと鳴らして悔しがる長四郎。

「探偵さん。宜しければお手伝いしましょうか?」

「良いの?」

「はい」と言って、笑顔で了承する成美であった。

「ねぇ、君」

 成美は廊下を歩く男子生徒に声を掛ける。

「はい?」

 男子生徒は振り向きながら返事をし、「少し聞きたいんだけど、この車を学校で見なかった?」と成美は長四郎のスマホに映し出されたBMWの写真を見せて質問する。

「見たことないですね」

「そっか。ありがとう」

「失礼します」男子生徒は成美に一礼して、足早に去っていった。

「ね、部活してる子から話聞けるかな?」

「聞けないことはないですけど」

 そこから長四郎と成美は吹奏楽部、茶道部、囲碁将棋部、科学部と校舎で活動する部を回り、体育館で活動するバレーボール部とバスケットボール部だけとなった。

「探偵さんは、生徒のご両親が疑われているんですか?」

「察しが良いな。先生」

「そうなんですね」

「とは言っても、可能性の話。外部の人間の車かもだし」

 成美は俯いたまま何も喋らなくなった。

 すると、長四郎のスマホに燐から着信が入った。

「はい。もしもし」

「あ、探偵さん」電話の向こうの相手は佐藤田警部補であった。

「どうかしましたか?」

「例のバイクの件、国巳って子は原付バイクを持っているみたいだね」

「原付バイクですか」

「そう。とは言っても、防犯カメラ映像に映っていた箱のサイズを持ち帰るとなると目立つね」

 佐藤田警部補は燐から提供してもらった防犯カメラ映像を見ながら、感想を伝える。

「分かりました。車種を教えてください。はいはい」

「それと。深中都姫さんの件なんだけど・・・・・・」

「はい。調べて頂きありがとうございました。では、このお返しは精神的に」

 長四郎は通話を終わらせた。

「今の話、聞いていたでしょ? 先生」

「はい」

「この学校って、原付バイクでの登校は認めているの?」

「いいえ。認めていません。でも」

「でも?」

「でも、隠れて登下校に使っている生徒はいるかもしれません」

「そうか・・・・・・」

 長四郎はそこで、近所のコインパーキングも調べてみる必要があるなと考え始めていると「探偵さんは、燐ちゃんとは付き合い長いんですか?」そう急に話の話題を変えてきた。

「そうでもないかも。だけど、ラモちゃんの爺さんとは仲良くしてもらってる」

「そうなんですか。正直言って、まだ、あの子のことを避けている部分があるんですよね。私」

「へぇ~」

 長四郎は適当に相槌を打ちながら、急に自分語りしてきたなと思う。

「先生に向いてないのかな、なんて思ったりで」

「先生に向いているかは分かんないけど」と前置き長四郎は「俺が見ている中では先生はラモちゃんの心を掴んでいる。そう思うよ」と励ましになっているのかどうか分からない言葉を掛ける。

「そうなんですか?」

「ラモちゃんは、先生を目の敵にしている節があるから。それを見ていたら先生は好かれているはずだよ。うん、好かれているな」

「ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」

 そんな会話をし、体育館に着いた二人は聞き込みを開始した。

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