有名-5

 夢川苺の楽屋ドアをノックすると、先程怒鳴り散らされていた男の声で「はい」と返事が返ってきた。

「失礼します」長四郎は自分が何者か、用件も言わずにドアを開けて楽屋へと入る。

「打ち合わせですか?」

 男がそう聞いてくるので長四郎は「いいえ、違います。私、ヤーマネージメント株式会社でマネージメント業務をしております。熱海と言います。こちらは、新人の羅猛です」と男に名刺を差し出すと共に、横に並んで立つ燐の紹介をした。

「ああ、ヤーの方でしたか。コテプロでマネージメント業をしています、蒔田まいたです。それでご用件は?」

 長四郎が渡した名刺には、ヤーマネージメント株式会社・マネージメント 熱海長四郎と書かれていたので、蒔田すっかり信用する。

「ええ、実は少しお聞きしたいことがありまして。弊社所属のタレントがストーキング行為の被害にあっているんですが、警察から妙な話を聞きまして」

「妙な話、ですか?」

「はい。実は弊社のタレント以外にもストーキング行為の被害にあっているタレントさんが居ると聞きましてね。御社のタレントさんはどうなのかと」

「ああ、そうでしたか。ウチのタレントはそういった被害にはあっていないかと・・・・・・」

「そうでしたか。どうも、お手数をおかけして申し訳ありません」

「いえ」

「では」長四郎が楽屋を後にしようとした時、「あの」と苺が話しかけてきた。

「何でしょうか?」

「美雪は大丈夫なんですか?」

「と言いますのは?」

「ストーカーにあっているのって、美雪ですよね」

「ええ、まぁ。あの、美雪さんとは仲が良いのですか?」

「良いですよ。それより、美雪は本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。お気になさらず。犯人の目星もついていますので。失礼します」

 長四郎はそう苺に答えると、燐を連れて楽屋を出た。

 そのタイミングで楽屋入りする美雪と出くわした2人は、美雪と共に楽屋へと入った。

「先程は邪魔して、すみませんでした」

 長四郎は部屋に入るや否や美雪に謝罪した。

「いえ」と素っ気ない返事が返ってきた。

「そう言えば、松坂さんの姿が見えませんね」

「ああ、あの人は後輩に用があるとかで少し離れています。それより、ストーカーの正体掴めましたか?」

 まさか、美雪からそんな質問が来るとは思わず長四郎は少し驚く。なんせ、美雪が積極的に関わって来る感じではなかったからだ。

「どうなんですか?」

「えっ。ああ」

「まだ、見つかっていません。すいません、無能で」

 燐が勝ち誇ったような顔で長四郎を見ながら、美雪の問いに答えた。

「そうですか」そう返事した美雪は楽屋に置いてあった弁当を手に取り、食べ始めた。

「すいませんが、少し失礼します。行くぞ、ラモちゃん」

「あ、うん」

 こうして、長四郎と燐は美雪の楽屋を出て元居た自販機コーナーへと移動した。

「急にどうしたの?」燐がそう尋ねてきた。

「ストーカーの正体が掴めたかもしれないぞ」

「えっ、マジ!!」燐が大きな声を出すので、長四郎は燐の口元を押さえて「声が大きい」と注意する。

「良いか、ストーカーの正体は・・・・・・」

 長四郎がそう言いかけた時、「あれ? ここで何されているんですか?」と美雪のマネージャーが声を掛けてきたので、この話は一時中断となった。

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