第伍話-支援

支援-1

 羅猛らもう りんは高校のボランティア行事で、児童養護施設を訪れていた。

 ボランティア活動の内容は子供達に演劇を見せ、それが終わると子供達と共にレクリエーションを楽しむといったものだ。

 この行事は高校の慣例行事の一つで、学校総出で本腰を入れて取り組む活動で燐も気合を入れて臨んでいた。

「おい、桃太郎!! このお姫様を返して欲しくば、武器を捨てろ!!!」

 鬼役の筑波つくばがお姫様役の海部うみべ リリを人質に取りながら、桃太郎に武器を捨てるよう促す。

「わ、分かった」

 桃太郎役のじんはそう言い要求通り、手にしていた刀を置く。

 桃太郎のピンチの場面で、子供達に緊張感が走る。

 その時、舞台袖から声がした。

「そこまでよ!! 鬼の頭領!!!」

 白雪姫の格好をした燐が、ジャンピングキックをして登場した。

 ジャンピングキックを浴びせられた筑波は華麗に吹っ飛び、舞台袖に消えていく。

 燐の華麗なジャンピングキックを見た子供達は、歓喜の声を上げる。

「よくもやってくれたな!!!」

 筑波は大きい棍棒を持って舞台袖から出てきた。

「あなたは、早く逃げなさい」

「はい」

 燐にそう言われたリリは、桃太郎が立っている方へと逃げる。

「これでどうだ!!!」

 棍棒をゆっくり振り下ろす筑波の鳩尾に、燐の正拳突きが入る。

「ぐふっ!!!」

 顔が真っ青になる筑波。

 どうやら、燐の正拳突きがマジで入ったらしく筑波は、卒倒する。

「噓!?」

 予定外の事態が発生し、燐は用意された台詞ではない事を言ってしまう。

「う、うわぁ~ 白雪姫が鬼を倒してくれたぁ~」

 リリはアドリブで、咄嗟に棒読みな台詞を吐き出す。

「え~!!!」「噓だぁ~」とか、子供達も各々思った声を口に出す。

「あっ、ホントだ。白雪姫が鬼を倒したぞ! お姫様、鬼ヶ島を出ましょう」

 神もまた事態の収拾の為、適当なアドリブを打ちお供達が宝の載った荷台を引いて舞台に出てくる。

「こうして、桃太郎は鬼を倒しお姫様と結婚し幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」

 そうナレーションが言い終えると、幕が下り演劇は終了した。

「おい、しっかりしろ!! 筑波!!!」

 神が筑波を揺さぶると目を覚ました。

「お、俺、今まで何を? あれ、舞台は?」

「終わったよ」

「終わった?」

 神の言葉を復唱する筑波。

 今だに何が起こったのか、筑波は把握できていなかった。

「おい、羅猛!!! 謝れよ!!!」

 神は、その場から逃げようとする燐を呼び止める。

「ご、ごめ~ん」

 手を合わせて謝る燐。

「まさか、落とすとは私も思わなかったわ」

 リリも「やれやれだぜ」といった顔で燐を見る。

「つい、熱がねぇ~」

「何が、熱だよ。お前、意外と強いんだな」

 その場に居た男子全員が神の言葉にうんうんと頷く。

「つ、強かないわよ!!」

「どうどう」

 反論しようとする燐を宥め落ち着かせるリリ。

「何してんの? 次の準備」

 その場に駆け付けた引率の先生に促され、演劇のセットを片づけていく。

 そして、次の演目を終え最後のレクリエーションが始まった。

 このレクリエーションは子供達と共に遊ぶというもので、各々、グループを作りドッジボールをしたり、折り紙を折ったり、おままごとをしたりと思い思いに楽しく遊んでいた。

 燐はドッジボールをしていた。

 すると、仲間に入らず隅っこの方で固まって座っている男女2人が居た。

 気になった燐はその2人に声を掛けに行こうとすると、同じくドッジボールをやっていた筑波は隙が出来た燐、目がけてボールを投げる。

 だが、投げられたボールを直感的に片手で受け止め筑波の顔目がけて全力で投げ返す。

 高速の球が筑波の顔面にクリーンヒットする。

 鼻血を出しながら、筑波は倒れた。

「ふんっ!!」

 燐はそう鼻で笑い、子供達の元へ駆け寄る。

「ねぇ、皆と遊ばない?」

「遊ばない。お姉ちゃん、怖いもん」男の子にそう言われる燐。

「うっ!!!」

 身をのけぞりながら、痛い所を突いてくるガキだなと燐は思う。

「そ、そんな怖くないよ」

 燐のその一言を受けてなのか。

 隣に座っている女の子は、男の子の腕をぎゅっと握る。

 警戒が解けていないと踏んだ燐は、その子供達の隣に座る。

「じゃあ、お話しよう」

「え~」

 男の子は拒絶する。

「良いよ~話そう」

 最初は怖がっていた女の子だったが、燐が話すというので笑顔で燐と話をしようとする。

「お名前は?

私は羅猛燐ね。」

川中かわなか 照美てるみって言います!」

岡室おかむろ 純平じゅんぺい

 元気に返事する照美に対して、純平はボソッと呟くように答えた。

「ねぇ、なんで皆と混じって遊ばないの?」

 燐はこの二人はいじめに遭っているのか?

 もし、そうであればどう対処して良いものか、気安く声をかけるべきじゃなかったか。

 そんな事を考えていると純平が呟いた。

「ストライキ」

「ストライキ?」

 思いもしない言葉が出て来て驚くと共にませたガキだと思う燐を他所に、純平は話を続ける。

林野はやしののおじちゃんが来なくなったから」

「そのおじちゃんって、どういう人なの?」

「おじちゃんはね、時々、ここに来て私達にプレゼントをくれたり、遊んでくれるおじちゃんなの」

 照美は燐をまっすぐ見ながら、林野という人間について話す。

「それで、そのおじちゃんが来ないのが遊ばない事とどう繋がるの?」

「それは・・・・・・」

 純平は答えを濁そうとする。

「それはね、おじちゃんがこの前、来るって約束したのに来なかったの」

「ふ~ん、何で来なかったの?」

「分かんな~い」

 照美は首を傾げながら答える。

「死んだんだよ」

 純平がそう言った。

「え? 死んだ?」

「ニュースでやってた。皆が観る前に、先生がテレビを消したから観たのは俺だけだった」

「そうなんだ・・・・・・なんで、死んだの?」

「自殺? だったかな」

「辛いね」

 燐がそう言うと、純平は静かに頷く。

「先生に聞いたんだよ。おじさんに何があったのかって。でも、教えてくれなかった」

「そうなんだ」

「おじさん、俺と約束したんだよ。

今度来た時、遊んでくれるって」

「それは、気になるよね。

私がそのおじさんに何があったのか調べてあげる」

「え!!」

 純平はそんな提案が出てくるとは思わず、驚く。

「だから、皆と遊ぼ」

「うん!!」

 燐の提案に元気よく頷く照美。

「ほらっ、行くよ!!」

 燐は2人を立たせるとドッチボールに交じっていくのだった。


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