第拾陸話-愛猫
愛猫-1
「ここよ」
「どうして俺が」不服そうに
どうして、こうなったのか。
話は数時間前に遡る。
その日、長四郎は依頼もなく久しぶりの休日を楽しもうとしていた。
昼前に湯船に浸かり、事前に頼んでいたデリバリーフードサービスで頼んだ寿司を待っていた。そろそろ、配達員が来るタイミングで湯船から上がった長四郎はこの日の為に買ったバスローブを着て脱衣所を出た足で、玄関がある事務所の扉を開けた。
すると、事務所の来客用のソファーに座り寿司を食べる燐の姿があった。
「お、俺の寿司を・・・・・」狼狽える長四郎を凝視する燐。
「どうしたの? その格好?」
「どうしたじゃねぇよ! 何、当たり前な顔して、人の寿司食ってんだよ!!」
「あ、ごめ~ん。お腹空いていたから」
「返せ! 俺の寿司、返せ!!」
燐は申し訳なさそうに、ガリだけが載ったトレイを長四郎に渡そうとする。
「いらねぇよ!」
突き返すと燐はガリを食べ、「ごちそうさまでした」と長四郎に向かって言った。
「俺の華やかな休日が」
長四郎は天井を見上げ、放心状態になる。
「ごめんて。分かった。お詫びにデートしてあげるから」
「流行りのパパ活みたいなこと言わんでください。俺の心のオアシスゥ~どこ行っちまったんだよ~」
「心のオアシスが欲しいのね。いい所連れてってあげるから。ね? さ、着替えた! 着替えた!!」燐はそのままバスローブの長四郎を自室で使っている部屋へと押し込んだ。
数分後、バスローブからいつものオフィスカジュアルな服装に着替えてきたのだが肩を落としたままであった。
「貴重品は持ってる?」
燐のその言葉に黙って頷く長四郎。
「行くわよ」
そして、事務所を出た2人が向かった先が猫カフェ「CATエモン」である。
「さ、ここで十二分に癒して貰うと良いわ」
燐は長四郎にそう告げると「CATエモン」の戸を開けた。
「いらっしゃい。あ、燐ちゃん!」
最初に出迎えた店員が嬉しそうに近づいてきた。
「今日は1人?」
「いえ、客を連れてきたんです」
燐は後ろで棒立ちしている長四郎を見る。
「どうも」店員はそう言いながら会釈してきたので、長四郎もまた会釈し顔を上げるついでに店員が首からぶら下げていた名札を見る。
そこには、店長
「好江さん。私にカフェモカを、こいつにはコーラで。良いよね?」
高圧的な態度の燐に黙って長四郎は頷いた。
「おやつはどうする?」好江が尋ねると「付けてください」と即答する燐。
「分かりました。じゃ、適当な場所に座って待ってて」
「はい」燐は元気よく返事をし、元気のない長四郎を猫が集まっているところへ座らせた。
「お待たせしましたぁ~」好江が注文したドリンクを持ってくると長四郎の周りに店に在籍する全猫が集結していた。
ラッキーな事に店内の客が長四郎達だけしかいなかったので、事なきを得たのだが。
「たまに居るの。猫を引き付ける人」
好江はそう言いながら燐にカフェモカを出す。
「そうなんですね」と答える燐はどこかつまらなそうであった。
何故、つまらないのか。それは、これだけ猫が集まっているのに自分の元には1匹も近寄らないからだ。
「大丈夫よ。猫は気まぐれさんだから。その内、近づいてくるわよ」
「そうですかね」
「店長ぉ~」
バックヤードから呼ばれた好江は「楽しんでね」と言い、バックヤードへと向かった。
「あ、コラっ! 舐めるな!!」
1匹の猫が長四郎の顔をペロペロと舐める。
「
「尚道?」
「その子の名前」
「さすが、常連」
「少しは癒された?」
「全く」と言いながら長四郎の顔には笑みがこぼれていた。
燐は連れて来て良かったそう思った時、尚道が燐の膝の上に乗ってきた。
「尚道ぃ~」
猫撫で声の燐は名一杯、尚道を可愛いがるのだった。
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