詐欺-3

「あれ? こいつ・・・・・・へケべケじゃねぇか!」

 長四郎は死体の男の顔に既視感があり脳内データで照合した結果、導き出した答えだった。

 遠くの方から、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 それから間もなくして、一川ひとつかわ警部達命捜班が鑑識や所轄署の刑事達を連れて現場に臨場した。

「長さん、お疲れ様。で、状況はどうなっとうと?」

 一川警部に質問され、第一発見者から聞いた話、被害者の身元、燐が熱血教師から犯人扱いを受けて職員室に軟禁されている事を伝えた。

「成程ね。じゃあ、こっちは私らが捜査しとくけん。ラモちゃんの所に行って」

「了解っす」

 長四郎は職員室に向かおうとすると、あや巡査長が長四郎に声を掛けた。

「あの、長さん」

「何?」

「第一発見者の方は今、どこですか?」

「ああ、保健室。お母さんの方が相当、ショック受けているみたいだから優しく聞いてあげて」

「分かりました」

「あ、それと。事件解決に繋がるような事は聞けないと思っていた方が良いよ」

 そう告げ、職員室へと場所は移した。

 職員室の前に行くと「なんて事をしてくれたんだ! お前は!!」という熱血教師の怒声が廊下まで響き渡っていた。

 職員室のドアをノックし、「失礼しまぁーす」という言葉を言いながら、職員室に入ると燐は顔を真っ赤にした熱血教師に罵声の限りを浴びせ続けられていた。

「いつかお前は何か問題を起こすと思っていたんだよ。俺は!」

 燐は辛辣な言葉を浴びせられ、黙って下を向く。

「お前は退学だ!」

「あのぉ~お話し中の所、すいません」長四郎下手に出ながら声を掛ける。

「また、貴様か!! 部外者が入って来るな!!!」

 また、怒鳴り上げる熱血教師によく喉が潰れないなと長四郎は感心しながら話を続ける。

「ラモちゃんは、犯人じゃないですよ」そう忠告するも「こいつが犯人だっ!!」聞く耳を持つどころか長四郎の忠告も一蹴する。

 すると、燐は膝から崩れ落ち泣き始めた。

「私、犯人じゃないのにぃ~」肩を大きく揺らしながらわんわんと泣く。

「あー本人がこう言っていますけど? 何か彼女が犯人だという根拠はあるんですか?」

「それはだな。羅猛が死体の傍に居たからだ」

「死体の傍に居たから犯人だと? 凶器を所持していたんですか?」

「いや、持ち合わせてはいない」

「物証もなく彼女が犯人だと決めつけたんですか?」

「そ、それは・・・・・・・」熱血教師は反論することもできず言葉に詰まる。

「冤罪ですよね? あなた今、彼女に退学だ。そう言っていましたね? 失礼ですが、貴方はこの学校の校長先生もしくは理事長ですか?」

「ち、違う」

「では、何故、彼女の処分を下したんですか?」

「これから会議を開いて彼女を退学処分にするよう議題に上げるつもりだったんだ」

「然様ですか。でも、今の感じで彼女が退学になることはないと思いますけどね」

「そんな事はない」と自信満々に返答する熱血教師。

「貴方と話しても埒が明かないので、校長先生を読んで頂けませんか?」

「その必要はない」

「参ったなぁー来客の人が殺害されたって言うのにそれすら話をさせてもらえないとは・・・・・・・」長四郎はそう言いながら、後頭部を掻く。

「何故、部外者のお前から事件の話があるんだ!」

「はいはい。部外者の私達は去るとします。行くぞ。ラモちゃん」

 燐の腕を掴み立ち上がらせ、二人は揃って職員室を出た。

 そして、職員室を出たタイミングで燐はボイスレコーダーのスイッチをオフにする。

「ラモちゃん、ウソ泣きご苦労さん」

「ホント、疲れちゃった」首を回しながら答える燐。

「変に反論してない?」

「してない。してない」

「じゃあ、心配ないな」

「まぁーねぇー」

「さ、捜査を始めるとするか?」

「被害者の身元は分かったの?」

「ああ、今日ここでトークショーする予定だったへケべケっていうKuun huber」

「どうりでどこかで見たことある顔だと思った」

「そんでさ、その関係者から話を聞きたいんだけど。どこに居るか分かる?」

「あー多分、あそこじゃないかな」

 燐の言うあそこに連れて行ってもらう長四郎。

 そこは体育館裏の更衣室であった。

 その場には、へケべケと共にトークするはずだったオンジンとそのマネージャーである尾多おた 営始えいしと舞台スタッフの高校生達、聞き込みに訪れた絢巡査長が居た。

「まさか、彼が殺されるとは・・・・・・・」オンジンは涙を流しながら、悔しがる。

「それで、被害者が狙われる心当たりはありませんか?」

「彼は多くの敵を作る配信スタイルなので、心当たりは多い方だと思います」絢巡査長の質問に答えたのは尾多であった。

「確かにその人の言う通りだな」

 長四郎が尾多の発言に信憑性がある事を伝える。

「では、被害者が何故、駐車場に居たのか? その経緯は分かりますか?」

「忘れ物がとか言っていたよな?」

 そう話したのは舞台スタッフのモブ高校生Aで、隣に居たモブ高校生Bも「そうそう」と言って頷く。

「彼らの言う通りです」尾多もそう答えた。

「つまり、被害者は忘れ物を取りに駐車場に向かったというわけですね」絢巡査長は納得しながらタブレット端末にメモしていく。

「ちょっと良い?」燐は長四郎に耳打ちをして更衣室を出る。

 長四郎もその後に続き、更衣室を出ると燐が小声で話し始めた。

「あのマネージャーさんっぽい人なんだけどさ。服が違うんだよね」

「服が違う?」

「そ、服が違うの。しかも、私が見た時ってジャケット来ていたんだけど。今、着ていなかったし、シャツも変わっている気がするんだよね」

「そうか。他には?」

「う~ん」少し考えこみ「あ、後、キョロキョロ辺りを見回しながら廊下を歩いていた。怪しくない?」

「それだけで怪しいって言うのは違うだろ? ラモちゃん、それだとあのバカ教師と一緒だぞ」長四郎がそう言うと燐は口を窄め「そんな事ないもん」と答える。

「ま、聞いてみますか? ジャケットについて」

 長四郎と燐は再び更衣室に戻った。

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