結成-16

 長四郎は命捜班の部屋で珈琲を飲みながらネットサーフィンをしつつ燐と一川警部が帰って来るのを待っていた。

「遅い~」

 長四郎はクルクルと回転椅子を回しながら叫ぶ。

「ちょっと、廊下まで聞こえとるけん」

 そう言って燐を連れ、一川警部は部屋に入って来る。

「どうでした?」

 長四郎は学校で得られた結果を尋ねる。

「今、鑑識で鑑定中」

「そうですか。ラモちゃん、例のアレ回収した?」

「はい、これ」

 燐は隠しカメラ搭載型のペンを2本、ICレコーダーを渡す。

 長四郎は早速micro SDを抜き取りノートパソコンに差し中身を確認する。

「どう? 犯人映っている?」

 パソコンを見る長四郎に寄りかかる燐。

「邪魔だから、出まかせ館で晩飯頼んでよ」

「何、食べる?」

 寄りかかりながら、注文する品を聞いてくる。

「あたしはカレー」

「かつ丼じゃないの?」

 燐がカレーを注文する一川警部にツッこむ。

「や~令和の高校生なのに昭和臭いのねぇ~」

「全く」頷く長四郎。

「あんだって!?」

 燐は、長四郎の頭をぐりぐりする。

「痛い! 痛い!! 助けて!!!」

「ふっふっふ。無駄よ」

 ぐりぐりを続ける燐だったが、モニターに自分の机に教科書を入れる人間が映ったので手を止める。

「痛っぁ~」

 長四郎はこめかみを抑えながらモニターを見る。

「あ、やべ。巻き戻し」

 慌てて早戻しボタンを押して、教科書を入れるところまで戻す。

「ねぇ、巻き戻しって何?」

『え?』

 長四郎と一川警部は同時に燐を見る。

「何よ」

「ラモちゃん、巻き戻し分からんと?」

「うん」

「恐るべし、ジェネレーションギャップ」

 そう言いながら、長四郎は映像に映る人物を確認する。

 そこに映っていたのは、チャラ系男子とその取り巻きそして、黄山であった。

 内線がかかってきた。

「はい、こちら命捜班。一川です」と野太い声を出しながら電話に出る燐。

「はい、はい。分かりました。

直ちに向かいます」

 燐が受話器を置くと「用件は何やったと?」一川警部が尋ねてくる。

「私の事件の犯人が自首してきたって」

「どこにいるの?」

「ロビー」

「じゃあ、君達はここに居て」

『は~い』

 二人は気のない返事をし、事情聴取に向かう。

 長四郎は映像を見ながら、改めて燐の探偵能力に驚かされる。

 隠しカメラの設置が上手なので、大勢の対象にバレないよう仕掛けてかつちゃんと自分の机がしっかりと映るアングルに設置している。

 燐にこの事を悟られないよう長四郎は動画チェックを終え、出まかせ館でかつ丼を4つ注文する。

 勿論、領収書の宛名は警視庁捜査一課命捜班だ。

 注文した品が届き長四郎は一川警部がいる取調室へと持っていく。

 部屋の前に立ちドアを開けようとすると、ひたすらむさい男の泣き声が聞こえてきた。

「失礼しま~す。出まかせ館で~す」

 ドアを開けて中に入ると、取り調べを受けるはずのやんちゃ系男子ではなく一川警部が大泣きしていた。

「何で、一川さんが泣いてるの?」

「あ~もうっ!! 泣き落とし作戦失敗じゃん!!!」

 一川警部は悔しそうな顔をする。

「あ、なんかすいません。腹減ったと思って、カツ丼を」

「よしっ! 食べよ。食べよ」

 長四郎は一川警部,やんちゃ系男子にカツ丼を渡す。

「そんで、君は黙秘してるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 俯き長四郎の質問を答えないやんちゃ系男子。

「どうもね、いやいや連れて来られてたみたいと」

「ああ」

 一川警部の説明を聞きながら、長四郎はカツ丼を食べる。

「今更、黙秘しても意味ないと思うけど」

 長四郎のその言葉に顔を上げるやんちゃ系男子。

「それ言っちゃっダメよ。長さん。せっかく、黙秘の犯人を落とすごっこしてたのに」

 むすっとする一川警部を見て、こんな大人にならなくて良かったと思う長四郎。

「それはすいませんでした。

で、なんで黙秘してるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「これ、君だろう?」

 長四郎は、やんちゃ系男子に燐が隠し撮りした動画の静止画を見せる。

 やんちゃ系男子が燐の机にいたずらした教科書をしまう所の画の部分を切り取ったものだ。

「これ見ても白を切るの?」

 長四郎が映っているやんちゃ系男子を指でトントンしながら、やんちゃ系男子を問う。

「失礼します」

 鑑識捜査員が指紋照合での結果を一川警部に渡し、部屋を出て行った。

「え~結果は、あらら一致したって」

 一川警部が鑑識結果をやんちゃ系男子伝えると、やんちゃ系男子は涙目で一川警部を見る。

「前科者決定ぃ~!!!」

 長四郎が拍手をすると遂に、やんちゃ系男子は嗚咽を漏らしながら泣き出した。

「あ~あ、一川さんが泣かした」

「いやいや、長さんが嫌な攻め方なするけん。泣くったい」

「いやいやいやいや、一川さんが」

 責任の擦り付け合いをする大人二人。

「ぼ、僕がこいつらと羅猛の教科書にいたずらしましたぁ~」

 泣きじゃくりながら遂に、やんちゃ系男子が自白した。

『んなこたぁ知ってるんだよ!!!』

 二重唱でやんちゃ系男子を怒鳴りつける。

「す、すいません」

 やんちゃ系男子は、殊勝に頭を下げる。

「謝って済むなら警察はいらんと」

 一川警部のその言葉にうんうんと頷く。

「すいません!すいません!」

 机につぷっしてひたすら謝り続けるやんちゃ系男子。

「謝ってばかりじゃ分からないから。

君に被害者からの言伝を伝えよう。

素直に何故、被害者にこのようなことをしたのか、洗いざらい自供したら被害届を取り下げても良いって。

ここに映っている子達にもそう伝えてあげて欲しい。

つまりは、君だけが人柱になってもダメっていう事。お分かり?」

 長四郎の言葉に、やんちゃ系男子は頷いて返事をする。

「じゃあ、お話聞かせてください!」

 一川警部は、バンッと机を叩く。

「さ、最初からいじめる気はなかったんです・・・・・・

黄山が、黄山が・・・・・・羅猛が赤山を殺したって・・・・・・」

「羅猛?」一川警部は、眉を上げてやんちゃ系男子を睨む。

「羅猛さんです・・・・・・」

「それで?」長四郎が話を続けるよう促す。

「俺達は、その言葉を信用して」

「そんな簡単に信用するには、それなりの根拠があると思うんだけど」

「生徒会長の青山が「羅猛さんが赤山殺しの証拠を持っているので、見つけるのを手伝って欲しい」と黄山から聞かされたので」

「その証拠って何?

それで何で教科書盗んで、破損する事に繋がるの?」

「それは・・・・・・えっと・・・・・・」

 やんちゃ系男子は言葉に詰まり、目を右往左往させる。

「取り敢えず、その証拠について聞かせてもらおうか?」

 一川警部はやんちゃ系男子に事件の根幹部分を聞き出そうとする。

「スマホです」

「スマホ。それは、赤山君ので間違いないと?」

「はい」

 長四郎と一川警部は互いの顔を見て、頷き何かを確かめ合う。

「夜は長いんだ。これ、食いながらゆっくりお話を聞かせてよ」

 長四郎は急に優しく声を掛けながら、食事するよう促すと腹が減っていたのか。

 やんちゃ系男子は、物凄い勢いでかつ丼をかき込む。

「長さん、ちょっと」

 一川警部は長四郎を隣室に連れ出す。

「で、これからどうすると?」

「彼らのウラどりが済み次第、攻めましょうか。

それまでに令状取れるでしょう」

「じゃあ、それで行きましょう。ラモちゃんは被害届を取り下げる話。あたしは聞いとらんけど、あれホント?」

「出まかせです。そうでもしないと、話してくれなさそうだったので。

ラモちゃんには後から説明しますよ。それより、話の続き聞きに戻りますか」

2人は取調室に戻って、取り調べの続きを行うのだった。

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