仲間-5
「次のスケジュールは?」
「本日の業務は終了です。お疲れ様でした」
静は会議室を出てきた夏月会長に伝えると、夏月会長は返事もせずにエレベーターへと向かう。
そして、一階まで待機していたエレベーターまで降りて社用車が待つロータリーへと向かう。
社長もどこかへ会食に向かうらしく、依頼人の長部もその場に居合わせていたので長四郎は小声で「調査は順調ですので、ご安心を」と歩きながら耳打ちし、長部も黙って軽く頭を下げ了承した旨を伝える。
「会長、明日は休日となっておりますので」
「そうか」
車に乗りながら夏月会長は返事をしたその時、ドサッという生肉に刃物か刺さったような鈍い音が響き渡る。
全員が音の方を見ると、長部が胸を押さえながら地面に倒れていく光景が目に映った。
「長部さん!!」
燐が倒れた長部に駆け寄ろうとすると、「動くな!!」長四郎は声を張り上げて制止させた瞬間、再び銃弾がその場に飛んでくる。
三発、間隔を空けてその場に打ち込まれた。
長部以外の全員が床に伏せ事なきを得たが、長部は心臓を撃ちぬかれたことによる即死であったので二度と起き上がる事はなかった。
「ラモちゃん、ここを頼む」
長四郎は通報等を燐に任せて、犯人が打ち込んで来たであろう場所を探しに出る。
長部が撃たれた時、上から強い衝撃を受けて倒れたというよりかは、水平の距離から強い衝撃がかかったように見えたので目の前の幹線道路付近を探す。
会社の前は二車線の幅広い大きな道路で、会社前はロータリーなので路上駐車をしている車はなく襲撃場所から直線上の反対車線にも数台止まってはいるが、交通量が多く一流のプロでしか成せない犯行と言っても過言ではなかった。
反対側の車線に移動し、周辺に不審人物若しくは不審物がないかを探索する。
だが、長四郎は茂みの中も搔き分けて捜索するが何も見つからず、長四郎が探している間も後ろを歩いて行く通行人達は反対車線で騒いでる事にも気にも留めずに歩を進める。
そして、警察車両や救急車が駆けつけてからスマホを掲げ始めて各々、写真や動画に収める。
そんな状況になり、長四郎は捜索を諦め事件現場に戻る。
事件現場には既に規制線が引かれており、制服警官が野次馬の整理にあたっていた。
「失礼しますよぉ~」長四郎は何食わぬ顔でそう言いながら、規制線を潜り抜け聞き込みを行っている絢巡査長の元へと小走りで駆け寄る。
「絢ちゃん、お疲れ様」
「あ、長さん」
絢巡査長は聞き込み相手に礼を言って切り上げる。
「どうです、何か手掛かりは見つけましたか?」
長四郎はその問いに、首を横に振り否定する。
「そうですか。今回の被害者が依頼人なんですよね?」
「ああ、そう。護衛の対象はどこ行ったの?」
夏月会長の行方を聞くと「大事を取ると言って、病院へ搬送されました」絢巡査長はそう答えた。
「そう。搬送先の病院を教えてくれる?」
「ここから3km先の作田総合病院です」
「了解、ここは頼むね」
「分かりました。それとなんですけど、今回の件があったので我々が護衛にあたると思うので」
「頭の片隅に入れておきまぁ~す」
長四郎はそう答えながら、作田総合病院へと向かった。
護衛の対象・夏月会長は、病院のVIPルームに居た。
医者の話だと大した怪我もなく家にも帰っても大丈夫との事なのだが、入院すると言って聞かないらしく病院の事務員も護衛の刑事に苦言を呈していた。
長四郎はそんな話を小耳に挟みながら、VIPルームに入る。
「失礼しまぁ~す」
「犯人は見つかったのか!!!」
夏月会長は部屋に入ってきたばかりの長四郎を一喝する。
「んな簡単に見つかったら警察いらねぇよ。バカじゃないの、あんた?」長四郎も負けずに悪態をつく。
「何んだと、貴様っ!!」
夏月会長は背もたれにしていた枕を長四郎の顔面に向かって投げつけると、見事に長四郎の顔面にクリーンヒットする。
「何するんだ! このジジィ!!」
長四郎は床に落ちた枕を拾い上げ投げ返そうとするのを、必死でその場に居た全員が止めにかかり部屋から連れ出された。
「落ち着いてください。ここは、病院ですよ」
看護師に怒られ「すいませんでした」長四郎は少し不服そうに謝罪した。
「気を付けてくださいね」看護師は釘を刺し、病室へと戻っていった。
「俺のせいじゃねぇっての」悪態をつく長四郎の下に燐が4,5冊の雑誌を持って近づいてきた。
「あ、来てたんだ」
「来てたんだじゃないし。なぁ~にパシられてんの」
「私だって好きにパシられているわけないし、あのおっさんが退屈で買ってこいって言うから。そ・れ・と、これ宜しくぅ~」
燐は長四郎に熱海探偵事務所の名前が記載された領収書を渡してVIPルームに入っていた。
数分後、「てめぇ! ふざんけんじゃねぇよ!!」という声が聞こえたと同時に長四郎の時と同様に燐は部屋から連れ出された。
「あ~あ、喧嘩しちゃった」長四郎は追い出された燐を見ながらそう言った。
「うるさいわい!!」
燐は長四郎の股間を思いっきり蹴り上げ肩を揺らしながら、その場から姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます