探偵は女子高生と共にやって来る。
飛鳥 進
第壱話-結成
結成-1
疲れた。
この俺、
今回の調査も普段通りに行くはずだった。
調査内容は、浮気調査なのだが都内のホテルの前で見張っとけば良いのかと思ったのだが、対象は静岡県熱海市に旅行に出かけ高級旅館へと入るわ。
そこまではまだ良かった。高級旅館での調査に神経を使いまくった。
対象不倫相手の女が手ごわく、かなりの手練れであった。
不倫経験豊富といった感じで、こちら手の内がバレているのか。
危うくバレそうになること十数回。
そして、埼玉県春日部市から来たという五歳の男児に付きまとわれそのせいで余計にバレそうになったことか。
普段の調査より神経を使い果たし、温泉も楽しめずクタクタになり調査を終え今に至る。
探偵を始めた当初は、こんな探偵業務を生業にするはずではなかった。
自分で言うのも何んだが、10年程前までは全国津々浦々に高校生探偵として名を馳せていた。
それが今ではそこら辺に居るしがない私立探偵。
意外と、コナン君や金田一少年のような殺人事件の依頼は来ない。
昔は、あんなにチヤホヤされていたのに。
金田一少年は35歳の会社員になっても、事件解決しているというのに俺はというと・・・・・
そんな事を思いながら、疲れからくる重たい脚を上げ古びたビルの階段を昇る。
建付けの悪いドアを開けると、くたびれたソファーに腰掛ける探偵事務所には似つかわしくない制服姿の女子高校生が座っていた。
「え、何?」
長四郎は思わぬ珍客に身構えてしまう。
「何? じゃないし。私、依頼人だから。んなことも分からないの?」
女子高生は腕組をし、長四郎をキッと睨みつけた。
溜口!? と思いつつ、長四郎は冷静に大人の対応をする。
「いや、女子高生が依頼って珍しいから」
長四郎は、キッチンへ向かい電気ケトルでお湯を沸かしながら珈琲を淹れる準備をする。
「で、依頼内容は?」
長四郎の問いに、女子高生は少し間を置いて答え始めた。
「殺人・・・・・・ になるのかな?」
まさか、女子高生の口からそのようなパワーワードが出てくると思わず吹き出してしまう。
「あのさ、女子高生。探偵の業務は、浮気調査,素行調査や企業調査とかそういった事をするのね。テレビドラマじゃあるまいし、殺人事件は解決したりしないの。お分かり?」
「私の事、バカにしているわけ? それに、女子高生じゃなくて
「馬鹿にしているなんて滅相もない」長四郎は淹れたての珈琲を燐に出す。
「どうも」
燐は一礼をし、珈琲に口付け「あ、おいしい」と感想を述べた。
「それは、どうも。依頼内容はともかくとして何故、うちの事務所に依頼しに来たの?」
「これ見て来た」
燐はインスタグラムの探偵紹介アカウントを長四郎に見せる。
そこには、高校生の時の俺に目隠しされた写真と共に次のようなことが記載されていた。
“数多の難事件を解決したあの伝説の高校生探偵・熱海 長四郎が探偵事務所を開いていた!! 迷宮入りしそうな事件があればここへ Let’s GO!!!”と。
「よくこんな眉唾みたいな情報を信じ込むね」
「あのね、あんたと違ってネットリテラシー教育がしっかりなされているの。ちゃんと調べたわよ。ネットだけど。10年程前に多くの迷宮入りしそうな難事件を解決した高校生探偵がいたのは事実だし」
やっぱり、所詮は素人。
自分が高校生の時だったら、新聞記事とかから、見つけたろうに。
長四郎はそう思ってから、話し出した。
「でも、俺がその高校生探偵とは限らんでしょ。よくそれだけでここに来たね」
「ふっ、甘い。これを見なさないよ」
燐はあるネットニュース記事を見せる。
それは長四郎が警視総監賞特別授与された際のニュース記事であった。
しかも、その記事には目隠しされていない高校の制服を着た自分が賞状を手に映っていた。
「よく見つけてきたな」素直に感心する長四郎に「でしょ、でしょ。」と燐は満面の笑みで喜ぶ。
長四郎は羅猛燐という女子高生を少し見直し、話を聞くことにした。
「分かった。少しだけなら話を聞こう」
「やった」ガッツポーズを取り、喜ぶ燐。
「後、疲れてるから手短に話して」
長四郎はそう言うとソファーの背もたれにもたれかかり、珈琲を飲む。
「分かった。事件が起きたのは三日前、私が通う芸春高校で事件は起きた・・・・・・」
三日前の深夜に事件は起きた。
私立芸春高等学校に通う2年・
しかし、警察の捜査結果は、自殺と判断されそう処理された。
だが、燐はその結果に納得していなかった。
何故なら、目撃者がいることを知っていたからであった。
事件当夜、岡田槙太が落下した時に武道館の屋上に別の人影を目撃した燐の友人は、警察にその事を伝えたのだが相手にされなかったらしい。
勿論、学校側も同様の対応であった。
そのことに深く傷ついた目撃した友人は不登校になったらしい。
説明を終えると「マジでムカつく!」と悔しさのあまり燐は机をドンっと叩く。
「ん~」
長四郎はそこから少し脳みそを回転させ考え始める。
「警察がそう判断したのなら、そういう事なんじゃない?」
「え? 調べてくれないの?」
「いや、警察でもない俺が校内うろついて調べるなんてできないよ」
「それは、そうだけど。名探偵でしょ! 何とかしなさいよ」
「無茶言うなよ。探偵にというか一般市民には逮捕権あれど捜査権は無いからな」
「もういい!!」
燐は勢いよくソファーから立ち上がりそのまま事務所を出て行った。
「はぁ~」っと、息をつき俺は風呂に向かい、湯船にお湯を張リ始める。
湯船に浸かり疲れを癒した長四郎は、冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを取り出したタイミングでスマホに着信が入る。
「もしもし」
見知らぬ番号であった為、警戒しながら電話に出る。
「おっ~ 電話番号変わってないようで助かったわ~」
長四郎はこの声に心当たりがあった。
「長さん、忘れた?あたしよ、あ・た・し。
「一川さんですか? お久しぶりです」
この一川警部は、長四郎と共に事件を解決した警視庁捜査一課刑事で、10年前の階級は、巡査部長であったがこの10年で出世した。
「お久しぶりぃ~」
「それで用件も無しに10年ぶりに連絡してきませんよね?」
「おおっ! 流石、名推理の腕は落ちとらんようね」
「事件ですか?」
「うん、そうやけど。なんやったら、再会を祝して呑まない? あ、ダメか。未成年やもんね」
「あれから10年経っているんすけどね」
「おお、そうやった。そうやったね。じゃあ、新橋にあるヒマラっていう居酒屋に集合で。そんじゃあ」
そこで、通話が切れた。
長四郎は缶ビールを飲むのをやめ生ビールを求めて、新橋の居酒屋へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます