第367話 二勝目のために
今年のセ・リーグもかなりぎりぎりまで優勝が決まらなかった。
そしてポストシーズンも、一方的な展開にはなりそうにない。
レックスは直史で勝ったが、二戦目は落としている。
百目鬼を使った後、延長にまで入ったのに、リリーフを使った挙句に落としたのだ。
これはリリーフの運用のミスなのか、それとも純粋にライガース打線に負けたのか。
少なくともレギュラーシーズンよりは、百目鬼もピッチング内容は、ライガースに対して悪かった。
やはりレギュラーシーズンとポストシーズンは、全く違うと考えるべきなのだ。
大介はホームランの他に、試合を決定付ける走塁を見せた。
直史の投げた試合では、決定的なものにはならなかったが。
やはり三塁まで進むというのを、見せておいたのが効果的であったのか。
走塁は判断力は必要になるが、スランプになることはまずない。
怪我の心配にしても大介の場合、体重が軽いのであまり負荷もかからない。
最終的には一点差で、ライガースが勝ったのだ。
この僅差の試合を勝つというのが、ポストシーズンでは重要なことなのである。
接戦の翌日、直史はもうかなり回復していた。
試合のどこかで、リリーフとして使われる可能性。
ピッチャーを総動員して、レックスは二勝目を取りに行く。
三勝目は直史に任せれば、おおよそ問題ないのである。
せめて一つ引き分けても、それで日本シリーズに進める。
三勝三敗で引き分け一つなら、ペナントレースを制した方が優先される。
このアドバンテージがあったからこそ、二戦目も必死で勝ちにいったレックス。
だが鉄壁のはずのリリーフ陣でも、実際にはそこそこ点を取られるのだ。
一発で試合を変えてしまう、それが大介のバッティング。
最後の決勝点も、大介が絡んだものになっていた。
結局ライガースは大介が、得点の起点であり終点であったりする。
この大介を抑えるのは難しい。
第二戦もヒットはホームランの一本だったが、フォアボールで二度もランナーに出している。
事実上は五打席で三度の出塁だから、出塁率が六割であったわけだ。
かと言って正面から勝負すると、ホームランの危険性が出てくる。
ちょっとやそっと速いだけでは、大介の想定を上回ることは出来ない。
それこそ上杉の170km/hオーバーでも、ホームランにしていったのが大介であるのだ。
ただ大平のストレートは、もっとコントロールが悪い。
逆にそれで、読みを外すことが出来るのだが。
大介相手にそれは、相性が悪かったと言うことなのだ。
第三戦、レックスはここを取りにいく。
先発は三島であり、今年のポスティングのためにも、実績を残していかないといけない。
もっともMLBのスカウトとしては、直史のピッチングの方を見たいであろうが。
アメリカ時代の直史は、5シーズンしか投げていない。
だが日本に来れば、過去のデータなども加えて、知ることが出来るのだ。
対するライガースも、友永が出てきている。
カップス相手に投げて、中五日という日程だ。
レックス相手のポストシーズンは、とにかく直史以外のピッチャーから、勝ち星を得ることを考えないといけない。
ライガースが勝利を計算出来るピッチャーは、友永に畑と津傘。
去年ほどの安定感が、今年のフリーマンにはなかった。
だから三人を先発にして、まずは三勝したい。
津傘はなんとか、役割を果たしてくれた。
今日は三島と友永の、投げあいとなるのだろうか。
ロースコアゲームになれば、レックスの有利になるだろう。
ハイスコアゲームになれば、ライガースの有利。
昨日のような5-4といったスコアであれば、どちらが勝つのかは分からない。
おそらく三点までに抑えれば、レックスが勝つのだと思われる。
だからライガースは四点以上を取り、友永も三点までに抑えてほしい。
ライガースが計算出来るピッチャーは、三枚。
対してレックスは、ジョーカーである直史は別としても、三人はおおよそ期待出来るピッチャーだ。
しかし百目鬼は、クオリティスタートでも勝てなかった。
ならばレックスはもっと、短いイニングで先発とリリーフを交代させていくべきか。
そういった作戦に関しては、事前に話し合ってある。
だが試合の流れを見てみれば、それもはっきりとは言い切れないのだ。
アドバンテージがあるレックスは、一試合は落としてもいいのだ。
直史が一勝してくれた時点で、既に相当に有利になっている。
だが二戦目は、リリーフを使っていきながらも失敗した。
やはりリードしている展開でないと、勝つのは難しい。
もっとも昨日の場合は、リードしてからも追いつかれたのだが。
レックスのリリーフ陣は、確かに強力ではある。
しかしライガースの打線なら、それを破ることが出来るのだ。
当たり前の話だが、普通に戦ってより多くのリードを得て、リリーフにつないでいくしかない。
必勝法などはなく、大まかな方針を考えて、あとは状況に対処していくのみ。
ピッチャーを短いイニングで代えていくことは、事前に決めてある。
ライガース第三戦先発の友永。
防御率の割には17勝6敗といい数字を残した。
ライガースがピッチャーに弱点を抱えているといっても、二位をキープ出来た理由。
それはやはり先発のローテの主力が、離脱することがなかったからであろう。
リリーフ陣は弱いが、肝心のクローザーはシーズンを通して働いたし、先発の三本柱は故障がなかった。
レックスはそれに対し、百目鬼と国吉が一時離脱した。
それでもポストシーズンには間に合ったので、さほど文句を言うべきではないだろう。
他のチームであれば、友永の防御率から、こんな数字が出てくるはずはない。
実際に去年も、二桁は勝ったが負けもそれなりにあった。
だがとにかく今年の友永は勝ち負けがはっきりとついたのだ。
もっとも防御率もWHIPも、レックスの先発と比べると、やはり低めの数字である。
援護点が大きいのだ。
レックスの三島はこの試合が重要になる。
ポスティングが確定していて、注目しているチームも複数あるのだ。
防御率2.25のWHIP0.84と間違いなくトップクラスの数字。
相当の金が動くことは間違いない。
MLBの年俸高騰は、かなり歪なものとなっている。
大型契約で複数年確保しながらも、ピッチャーだと一気に数字を落とすことが少なくない。
特にポストシーズンに進出すると、エースクラスの酷使が目立つ。
ワールドシリーズを制したチームのピッチャーが、その後は不調に陥るというのは、一般的なことである。
直史もポストシーズンを加えれば、3000球をずっとオーバーしたシーズンが続いた。
それでも故障しなかったのは、そのために万全の調整をしていたからだ。
MLBに行くことを、悪いとは思わない直史である。
どうせなら高い契約で行って、球団にも移籍金を払ってほしい。
そのためにも三島には、この試合でも勝ってほしい。
今日は一応、ベンチメンバーに名前がある直史である。
二勝目に至ったなら、あとは不敗神話にマウンドを任せるのみ。
もしもそこで負けるとしたら、それはもう完全に運が悪かったとでも考えるしかない。
ベンチに入っているが、直史に投げさせたくはないと、首脳陣は考えている。
なんだかんだ故障知らずの直史であるが、そのための調整はよく知っている。
下手に短いイニングでも、投げさせたくはない。
先発ピッチャーをリリーフにも回して、短いイニングを全力で投げさせ、どうにか最少失点で終わらせる。
そういう作戦を立てているが、オーガスはさすがに次の先発として用意されている。
また木津も長いイニングを投げた方が、平均的な結果が出るピッチャーだ。
第四戦をオーガス、第五戦を木津、そこまでは決まっているのだ。
そして第四戦までに二勝目が出来なければ、日本シリーズに進むのは難しくなる。
直史は出来るだけ第六戦に使いたい。
中四日あれば、確実に調整を済ませる。
技術や駆け引きはもはや、神技の領域にあるだろう。
だが肉体は必ず、衰えるのがこの年齢だ。
肉体の柔軟性、そして体重からして、これ以上の上積みはない。
消耗戦に持ち込めば、直史を打てる。
これは他の球団の共通認識であり、直史も自ら認めるところだ。
もっとも打たれるまで、消耗したことは一度しかない。
ライガースの投手運用も、どうなるか考える必要はある。
第二戦に津傘、第三戦に友永ときて、おそらく第四戦は畑。
しかし第五戦は、誰を持ってくるのか。
常識的に考えると、先発で投げていた躑躅を最初に、そこからリリーフで短く継投してくるのか。
ショートリリーフで勝利するというのは、国際試合の日本のお家芸。
ただライガースのリリーフ陣で、それが可能であるのか。
確実にその戦術を取ってくると読みきるなら、オーガスを第五戦に回してもいい。
木津を捨て駒にして、オーガスで第五戦を確実に勝つ。
ただそこで勝てなければ、直史の温存が無駄になる可能性もある。
レックスの首脳陣は、この投手運用によって、勝敗の帰趨が決すると考えている。
百目鬼と三島、この二人を中二日、中一日だけ休ませて、リリーフとして使う。
こんなことも考えられていた。
少なくとも百目鬼は、第二戦で96球しか投げていない。
だがこれ以上は辛いだろうと考えて、リリーフに継投させたのだ。
他のチーム相手に投げるのと、ライガース相手に投げるのは、やはり消耗具合が違う。
回復してからも、果たしてどれだけ投げていいものか。
レックスはこの第三戦か第四戦で、二勝目を確保したい。
そして二勝目を確保したら、五戦目は捨ててしまっても構わないだろう。
勝負は第六戦の、直史の登板で決める。
一人のピッチャーに頼りすぎであるが、それだけの力がある。
直史もこれに関しては、特に文句を言わない。
問題なのは、それまでに、リリーフで出番があるかどうか。
そこで投げてしまったら、コンディションを崩してしまう可能性がある。
直史のコントロールは、メンタルのコントロールやコンディションのコントロールも含んでいる。
いざという時は無理をするが、それが次に悪影響を与えることはある。
投げてもらうとしたら、この第三戦になるか。
それも重要な場面、1イニング限定となるであろう。
そして試合が始まる。
ライガースはいきなり、大介のツーベースでチャンスを作った。
ここから一点を先制し、昨日とはまた違った試合展開となってくる。
だが先制されたのは、一点まで。
ライガースのクリーンナップは、残塁でこの表は終わる。
ライガースの先発友永は、レックスとの相性はほどほどといったところ。
そして三島と投げ合うのは、レギュラーシーズンではなかった。
カップスとの試合で、そこそこのピッチングであった友永は、さすがに立ち上がりの整え方を理解してきている。
だがレックスは、これまた初回から積極的に、点を取りにいっている。
左右田をランナーに出してしまうと、失点の可能性が高くなる。
それは確かなのだが、その失点を一点で終わらせれば、比較的幸運な一点と言えるだろう。
セットプレイではなく、クリーンナップが打って取った一点。
ただこちらもランナーは残塁で、もったいない点の取り方にはなっている。
やはりポストシーズンは、点の取り方が厳しい。
この初回の攻防で一点ずつを取ったが、二回以降は無得点が続いていく。
その中で大介は、二打席連続で出塁していたりした。
第二戦と同じく、ほぼ互角の戦いと言えるだろうか。
ただスコアはより、ロースコアと言える。
お互いにもう一点ずつは取って、2-2で六回が終わる。
ここでレックスはまた、ピッチャーを交代させた。
リリーフ陣の中に今日は、直史が入っている。
1イニングだけならば、最強とも言えるリリーフ。
ここで切り札として使うのも、悪くはないのだ。
お互いのチームが、ランナー残塁が多い試合となっていた。
大介はヒット一本であるが、二打席目も三打席目も、ランナーには出ていた。
三島もさすがに、大介を警戒していた。
ただ球数は90球あたりで、リリーフに交代しているのだ。
直史がベンチに入っているということを、ライガースの首脳陣は重視している。
ブルペンにいて、投げられる体勢になっているということだ。
大介はもちろん、両チームの首脳陣は、直史の国際試合でのピッチングを知っている。
リリーフとして投げた場合は、無敗どころか無得点。
短いイニングの方がむしろ、得意なのではないかとさえ言われている。
実際にプロでリリーフとして投げたのは、MLB時代の二ヶ月だけ。
しかしその間30セーブを記録しながら、一点も取られていなかったのだ。
無敗記録ならば上杉も、MLBで1シーズンの記録を作っている。
63セーブというのはあまりにもタフな数字であるが、これは故障後の上杉であったのだ。
直史としてはこの試合、投げたとして1イニング。
上手くコンディションを調整し、メンタルも弛めすぎないようにはしている。
とにかく二勝目は必要なのだ。
ライガースにずっと勝たれて、五戦目に自分が投げるというのは、御免被りたい。
その場合の第六戦は、先発ピッチャーを短いイニングでどんどんと使っていくことになるだろう。
全力で投げさせるのは構わないが、ピッチャーは繊細な生き物だ。
その日によって調子が違うのは、当然のことなのである。
リリーフの経験があまりない先発に、リリーフをさせるということ。
これは適性の有無が、大きく左右する。
直史の場合は、どちらも出来た。
ただ個人的にはやはり、しっかりと休むことが出来る、先発の方が望ましい。
昔ならばともかく今は、レギュラーシーズンでリリーフ投手というのは、もう調整がつかない。
自分の体が自分の思う通りには、調整できないということ。
これは直史のような人間には、かなり辛いことである。
投手と野手は全く違うが、よくも大介はあれだけ、試合に出続けられるものだと思う。
基礎体力という点では、やはり大介の遺伝子は強いのだろう。
それは子供たちを見ても、はっきりと分かる。
昇馬のあの体力は、常軌を逸したところがある。
あれがレックスに入ってきたなら、もう存分に球界を任せることが出来るのだが。
試合の展開は、まさに直史の予想通りになってきた。
リリーフ陣が投げるようになってから、双方共に無得点。
だが大介は本日、全打席出塁という記録を作っている。
そしてランナーとしては、レックスの守備の神経を削っている。
それでもどうにかレックスは、失点しないようにつなげていた。
九回を終えて2-2のスコアは変わらず。
するとレックス首脳陣は、引き分けも狙っていくことになる。
アドバンテージを持っている、ペナントレースを制したレックス。
これは3勝3敗1分になった場合、自動的に日本シリーズへの進出が決まるのだ。
大介にホームランを打たれず、そして失点を防ぐ。
国吉から須藤、大平、そして平良へとリリーフが0を並べていく。
この間にレックス側の打線は、一点を取ってほしかった。
だがこういう膠着した試合の時は、双方が点が入らなくなってしまう。
なぜか分からないが、そういう試合になってしまうのだ。
平良はレギュラーシーズンではなかった、2イニングを投げていたりもする。
そしてどうにか、その二回を無失点で抑えたのだ。
12回の表がやってくる。
そしてそこには、大介の六打席目が回ってくる。
それはもう、予測されていた。
出来れば11回の裏で、レックスが点を取ってくれれば、それで決まっていたのだが。
クローザーの平良まで、既に使い切っていた。
他のピッチャーを使うとは、考えていなかったレックスである。
つまり最後に残っていたのは、第一戦を完投した直史。
中一日であるが、ここでリリーフとして登場する。
ある程度覚悟はしていたが、まさか本当にこんな状況になるとは、正直予想外ではある。
だが準備はしっかりと出来ていた。
ここで引き分けを狙っていく。
12回の裏に、点が入らなくても問題はない。
実質勝利とも言える、ここでの引き分け。
そのためなら直史は、1イニングを投げることが出来るのだ。
また打順も悪くはない。
確実に大介には回るし、相手も代打を使ってくるが、九番からという打順。
ここまでにはライガースも、何度も代打を使ってきていた。
なので勝負所で使う代打は、もう残っていない。
(九番を打ちとって、その次の和田がポイントか)
どうにかランナーにさえ出さなければ、大介を単打までに抑えればいいことになる。
今日は五打席、全て出塁の大介。
だが長打は一本だけという、微妙な働きなのだ。
せっかくチャンスを作っても、後続が打ってきていない。
それだけレックスの守備も、意地を見せていると言えるのかもしれないが。
「頼む」
ブルペンの豊田に言われ、まだ残っているピッチャーたちが直史を見る。
このイニングを抑えることの意味を、誰もが分かっているのだ。
「行ってくる」
特に気負った言葉も言わず、直史はブルペンからマウンドに向かう。
ここで抑えたとしても、セーブがつくわけではない。
12回の裏に味方が点を取ってくれなければ、勝利投手にもならない。
しかしここで無得点に抑えることは、勝利と同じ価値があるのだ。
延長戦まで試合が動かない、この第三戦。
しかし最後の最後で、本当の見どころが待っていた。
直史と大介の対決が、必ず成立する打順。
(でもいざとなれば、敬遠もありだよな)
場の雰囲気に、変に乗せられていない直史であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます