九章 オフシーズン

第197話 山歩き

 直史にとっての幼い頃の記憶、郷愁を呼び覚ますものというのは、やはり実家での暮らしである。

 近くには魚のいる川があり、山々には山菜が生えており、遊びに来た親戚の子供たちと遊ぶ。

 そういった親戚づきあいも、ある程度は少なくなってしまった。

 こういう時代だからこそ、田舎の縁は大切にしたいであろうに。

 そしてこういう時代に、昇馬は山の中をあちこちと歩く。

 それに付き合えるのは、やはり同じく山の中を歩き回った、直史だけだ。

 大介でさえこういうところを歩くのは、体の使い方がちょっと違う。


 ある程度の人の手が入っていないと、山は荒れてしまう。

 人の手が入っていない大自然などというが、実際は人の手が入ってこそ、山は恵みをもたらしてくれる。

 直史の遠い親戚には、農業の関係で猟師をしている人間もいる。

 猟銃の免許を持っていたりもするのだ。

 そして猪などを捕るし、また最近はキョンを狩猟する。

 可食部は少ないが、高級食材ではあるのだ。


 日本人の生活が本格的に安定したのは、江戸時代であろう。

 平地では基本的に米を作り、山々からも恵みを得る。

 今の人間なら信じないだろうが、昭和の半ばぐらいまでは、松茸はしめじよりも安かったのだ。

 しっかりと山を手入れしていれば、いくらでも手に入る。

 それが松茸であり、味はそもそもしめじの方が上と言われてきた。


 赤松などの植林されたものを、ちゃんと手入れしているかどうか。

 戦後の時代までは、植林も日本中で、かなり盛んだったのだ。

 土地のバブルが弾けてからは、本当に手が入らないようになってしまった。

 もっとも少子化に過疎化、一極集中などといった問題が、総合的に絡んでいるのだが。


 直史は田舎の長男なので、ある程度農地の法律には詳しい。

 そして考えたのが、大規模農家を作れなかった、日本の敗北とも言える。

 田んぼを持っているだけで、作らないと補助金が出る制度。

 もっともこれは輸入が途絶えた時に、食糧確保のために重要になる。

 ただ日本の場合は肥料の問題もあるので、農地さえ確保していればいいという問題ではない。

 それでも米という主食は、相当に栄養価が高く、収穫して多くの人口を支えられる。


 そもそも昭和も半ば近くまでは、農村でなくても野菜などはあまり保存が利かなかったのだ。

 大根の酢漬けを大量に作り、冬場に収穫できるものや、保存の利く一部を保管していた蔵がいまだに残っている。

 梅干や干し柿なども、嗜好品ではなく保存食であったのだ。

 さすがに今では体が動かなくなってきたが、祖母に言われて大介の子どもたちが、夏場に作っているのを見ている。

 ちなみに直史の家は、味噌も手作りで作られたものを、おすそ分けしてもらっている。




 昔に比べると、山の木々が弱っているのでは、と直史は感じる。

 キョンなどが木々の皮まで、食べてしまうことが原因である。

 ただそれよりも美味いのは、人間が作っている果実類などだ。

 だから罠を作りまくって、害獣は駆除していかなければいけない。

 これがもっと昔、昭和の中期頃であれば、この周辺にも猟師はもっと多かったらしい。

 今は農業従事者も減っているが、それ以上に猟師が減っているのだ。

 そもそも猟師だけでは、食えないのが今の時代である。


 時期的な話をすれば、プロ野球選手と猟師の二刀流というのは、かなり相性がいい。

 おおよそ千葉県の猟期は、プロのオフシーズンと重なっているからだ。

 昇馬としても将来、どのような仕事に就くのか。

 それを聞いてみてほしいと、鬼塚にも頼まれている直史である。

「将来かあ」

 周囲のほとんどは、プロに進むと思っている昇馬である。

 別に進んでもいいのだが、意外なほど昇馬は自分のキャリアを、長い目で見ていたりする。

「引退してからのこととか、怪我をした時のことも考えるとなあ」

 実に地に足の着いた考え方だ。


 このあたり直史とは方向性が全く違うようで、似た部分のあるのが昇馬である。

 伯父と甥の関係なので、似ていてもおかしくないのだが。

 怪我に対する意識なども、大好きな野球を続けられなくなる、という方向性のものではない。

 純粋に怪我などをしては、動くのに支障が出るではないか、と考えてのものなのだ。

 なので歩き回るために、足の怪我にはより気をつける。

 手の方はじゃっかん、注意力が散漫だ。


 山の中を歩くのには、鉈があると都合がいい。

 下生えなどを払っていくのに、上手く使えるのだ。

「野球をやってもいいんだけどなあ」

 そんな昇馬は野球以外にも、やりたいことは色々とあるのだ。


 アフリカに行ってみたい、と思うことはある。

 アメリカにも大自然が残っていたが、アフリカこそまさに人類の発生した土地。

 実際には危険な生物や、病気が多い土地である。

 ただアフリカというのは、アメリカと一まとめにしてしまうぐらい、大きな括りだ。

 同じアメリカであっても、人の手が入る余地がない自然と、ニューヨークのマンハッタンなどとは違う。

 なんならオーストラリアや南米にも、色々と行ってみたいところはあるのだ。

 それこそアイスランドなども。

 ニューヨークの冬は、あまり経験していない昇馬。

 それでも何度か経験したら、日本の冬よりも寒いのではと思ったりする。


 時期的にこれから、日本は本格的な冬となる。

 関東でもあちこちで、積雪は違う。

 千葉でもこのあたりは、比較的雪は積もらない。

 曾祖母の時代などは、それなりに積もっていたそうであるが。




 直史と昇馬は、そういったことを話し合う。

 本当ならこれは、大介が話すべきことなのだろう。

 しかし大介は、本当に野球しかしてこなかった。

 大介と話すよりは、まだしもツインズと話した方がいい。


 昇馬の一方通行だけではなく、直史も話したいことはある。

「今さらだが真琴には、テニスでもさせておけばよかったな」

 直史の資産も大介には及ばないが、子供が遊んで暮らせるぐらいにはある。

 だが自分の力で生きていかなければ、金を持っている方が危険ですらある。

 順当に行けば真琴よりも、自分の方が先に死ぬのだ。

 親としてやっておくべきことは、子供に生きる力を与えてやることだ。


 直史としてはこんな時代だが、結婚相手まで自分で探してやろうか、という気にもなっている。

 真琴は相当に男勝りな面があるため、並の相手ではついていけない。

 だが身内の中でくっつくのは、あまり想定もしていない。

 自分が千葉における権力者となれば、彼女に近づいてくる男も増えるだろう。

 いや、既に現時点で、巨大な遺産を受け取るであろうと思われていれば、いくらでも結婚相手は出てくるだろうか。


 相手にも同じぐらいのバックボーンが必要となるだろうか。

 佐藤家の生活レベルは、資産に比べれば質素なものだ。

 ただやろうと思ったことは、すぐに何でも出来るぐらい、金を稼いだのが直史だ。

 実際にMLBでの給料でもって、事業には乗り出したのであるから。

 身近にそういう存在であると、それこそ昇馬は資産家の息子だ。

 従姉弟同士であるため、あまりそういう対象にはならないだろうが。

 ……娘の恋愛関係を考えると、なんだか涙が出そうになる直史である。


 直史は恋愛結婚を否定はしない。

 だが結婚しそうにない娘であれば、見合いなどを薦めるだろう。

 それこそ地元の企業の子息や、あるいは政治家の家系など。

 いや、そういった人間には、むしろ向いていないのかもしれない。

 直史は真琴に関しては、普通に育てすぎた。

 上流階級の流れなど、そもそも考えてもいなかった。


 あるいは今の自分の立場なら、それこそ上杉の息子のどちらかとくっつけるべきなのか。

 生来心臓の病気があっただけに、直史は早く真琴や明史の子供、つまり孫が見たいとは思っている。

 直史は本来、牧歌的な人間であったはずなのだ。

 都会に憧れることもなく、田舎でそのまま家を守っていくような。

 だが子供たちには、自由にさせてやりたい。

 そう思いつつも孫が見たいと思うのは、保守的な直史としては当然の感覚なのか。




 真琴がキャッチャーをしていることに関しても、昇馬は文句がない。

 確かに肩はそれほど強くないが、それでも高校野球なら充分レベル。

 昇馬のボールがそれほどノーコンでないこともあるが、ブロッキングやキャッチングの技術は、相当のものであるのだ。

 少なくとも二年の先輩キャッチャーでは、昇馬を活かしきることが出来ない。

 そして優れたキャッチャーが、白富東に来る可能性は低い。


 もっともバッティングが全く期待できない、キャッチャーとしての能力が高い選手なら、来るかもしれない。

 高校野球は基本的に、キャッチャーにもまだバッティングを求める。

 だが二番手や三番手キャッチャーには、バッティングを求めない。

 ならばバッティングの期待できないキャッチャーは、取るか取らないかという話になる。

 しかし強豪であるならば、まずはバッティングも期待できる選手を取るだろう。

 特待生の枠は、それほど多くないのだから。


 この間の試合は、昇馬が離脱したことが、最大の敗因であった。

 だが真琴が離脱しても、やはり昇馬の能力を、限界まで引き出せるキャッチャーはいない。

 そもそも今の昇馬は、リードを真琴に任せっきりなのだ。

 それだけ信頼してもいるのだろうが、夏まではともかく現在は、真琴も明史の助けを借りていないのだ。


 もっとも秋はやはり、データが少ない。

 夏は春も含めて、確かにデータが増えてくるのは確かだ。

 ただそろそろ昇馬のデータも、あちこちで分析が終わっている頃だろう。

 つまり春までには、さらに成長しておかないといけない。

 そんな昇馬が山を歩き回るのを、直史は止めようとは思わない。

 セイバーは確かにデータ野球を重視していた。

 だが直史の投げ込みは、減らすことは出来なかったのだ。


 野球は統計で傾向が見られる。

 だがそれは年間に143試合も行う、プロ野球のレギュラーシーズンだ。

 高校野球の一発トーナメントは、そんなに簡単なものではない。

 データをどれだけ重視するか、あるいはデータから外れるほどの力を重視するか。

 山歩きをする中で、昇馬は確実に鍛えられている。

 野球のみをするのではなく、生き延びるために必要な力。

 素手で猪に勝てるような、そんな力を求めている。

 熊はさすがに無理だ。


 昇馬のピッチングというのは、既にかなり完成されたものではある。

 だがその中に感じる、さらに強い力は野性。

 荒々しい力があってこそ、相手の打線を破壊することが出来る。

 高校時代の上杉を思わせるような、などとはよく言われているのだ。




 12月になると直史は、完全にシーズンオフになる。

 そして大介も、こちらの方に戻ってくる。

 そもそも子供たちは、こちらで暮らしているのだ。

 大介としても両親がそれぞれ再婚している関係上、別に白石家の墓に入る必要はない。

 遠い先のことであるが、いっそのことこちらに、墓を持ってしまっていいのだ。


 今年も三冠王を取っていて、23年連続50本塁打などを記録。

 ピッチャーは積み上げていくタイプは上杉が、短期間のクオリティでは直史が、それぞれ歴史を作った。

 だがバッターと言うか野手としては、完全に大介が一人突出している。

 この時代のピッチャーの価値を、正確に判断するのに丁度いい指標。

 それは大介と対戦して、どういう成績を残しているか、によるだろう。


 直史は実家の近辺にも戻ってくるが、まだマンションの方で色々と事業に関することもしている。

 また毎日のトレーニングもしているのだ。

 今年の直史は壊れないよう、出力を制限して投げていた。

 衰えたように思われていたが、実際のところは回復しきっていなかったのだ。

 それでも最後にパーフェクトをやったりと、パワーだけが野球ではないと思わせる。


 野球はパワーだけの競技ではない。

 身長別でも体重別でも区分されていないからだ。

 格闘技と違って球技というのは、それだけ技術がものを言う。

 ただ大介の場合は、あの体格でパワーもあるのだが。

 しかしパワーだけに頼っていると、やがて耐久力が耐えられなくなる。

 筋肉の衰えは、案外早くはない。

 ただ腱などに骨の耐久度は、年齢を加えると脆くなる。


 直史が忙しい時は、大介がだいたい家にいた。

 そこで昇馬と話すのである。

「とりあえず大学にまで行ってみればいいんじゃね?」

 父親ではあるが、子育ては基本的に、全て二人の妻に任せてきた。

 だが男親だからこそ、相談に乗れるというものはあるのだ。


 大介は自分の特技がはっきりと分かっていた。

 金持ちになるために、どうすればいいのかも分かっていた。

 もっとも上杉との勝負が楽しすぎて、MLBにはなかなか行かなかったのだが。

 単純にレベルの高いリーグで楽しむなら、MLBの方がいいだろう。

 またMLBの方が、圧倒的に年俸が高いのも間違いない。

「大卒後25歳までNPBでプレイして、そこからMLBで五年もプレイしたら、一生食っていくぐらいの金にはなってるだろうし」

 特にやりたいことが決まっているなら、自分が金を出してもいいのだが。


 昇馬と野球との距離感は、大介に比べればずっと離れている。

 ニューヨークには野球以外にも、様々なスポーツの本拠地であったのだ。

 ただ昇馬はバスケはともかく、アメフトには興味を示さなかった。

 またサッカーもアメリカではあまり人気でなかったため、それほど興味を持っていない。

 正直に言えば昇馬は、野球よりもバスケの方が、実力通りの結果が出るスポーツだと思っている。

 野球の強いチームと、バスケの強いチームを、勝率で見てみればそれは明らかだからだ。

 ただ野球とバスケでは、人数が違うということもあり、一人の選手の影響が強いということはある。

「でもお前、野球ならともかくバスケでは、そこまで凄いプレイヤーでもないだろ」

 大介の言い方はひどいが、実際にそうなのである。


 今のアメリカでは野球よりも、バスケの方が高額年俸の選手が多い。

 また昇馬は確かに高身長であるが、190cmだとバスケでは、ガードしか出来ないぐらいだ。

 そして昇馬でさえ、身長の割りにパワーがある、と言われてしまう。

 バスケではもっと、スピードとバネが必要になる。

「向こうの大学に行くなら、そもそも高校の時点でアメリカに行っておいた方がよかっただろうしな」

 日本のバスケのレベルでは、NBAに追いつくのは難しい。

 それでもどうにか、数人はMLBで活躍するレベルまで、追いついてきつつはあるのだが。




 大介は名伯楽などではないが、素質を見る程度の目は持っている。

 野球選手として見た場合、昇馬ならMLBで活躍するレベルまで、すぐに達するであろう。

 おそらく現時点でも、数試合ならNPBで普通に通用する。

 ただプロになると、データで分析されるのに、対応することが難しくなってくるが。

 160km/hというスピードだけなら、普通に打てる選手がそれなりにいる。

 それでも一年もすれば、ローテを守れるエースにまで成長するだろう。


 これは今の昇馬を見ての話だ。

 高校生活のあとの二年で、どこまで成長するかが分からない。

 そもそも身長が伸びるのも、まだ止まっていないのだ。

 昇馬が本気で投げていないのを、大介は知っている。

 ピッチャーは体質にもよるが、だいたい22歳ぐらいまでは、無理をすると故障しやすい。

 特に軟骨の部分が変形し、全力で投げられないようになったりする。


 純粋に本気を出して投げれば、昇馬のストレートがどれだけの球速を出してくるか。

 そもそも夏の甲子園も、秋の大会にしても、全力で戦わなくても相手を0に封じていた。

 天才と言うよりは、もっと分かりやすくフィジカルモンスターというべきであろう。

 またメンタルにしても、強靭というのとはちょっと違うが、一般人のそれではない。


 プロ野球選手も昔は、頭のネジが飛んでいたようなのが多かったという。

 だが近年は自分のキャリアを、しっかり逆算できる人間が、やはり成功している。

 特に若いうちは、どれだけストイックになれるか、それが問題だとも言われている。

 大介の場合はストイックと言うより、上手くなるためにいくらでも努力できた、と言う方が正解であろうが。


 ストイックというか、合理的に上手くなろうとしていたなら、やはり直史の方が教えるのには向いている。

 大学時代などは計算して、しっかりと球速などをつけていったのだ。

 完全に野球から離れた年月があったのに、それでも通用する。

 なんというか普通の凄いという基準からは、かけ離れた存在である。


 昇馬としても直史の本気のボールを、打ってみたいとは思うのだ。

 去年などはこっそり打っていたが、やはり去年のオフは、消耗した肉体を回復させるのに、かなり休養していた。

 今の昇馬に必要なのは、バッティングの方もである。

 白富東の得点力は、はっきりいって昇馬とアルトを敬遠してしまえば、とても全国レベルのものではない。

 それこそボール球であっても、平気でスタンドに入れていくしかないだろう。

 幸いなことに高校野球は、申告敬遠を使いすぎると、世論がそれを許さない。

 特に甲子園においては、申告敬遠を使いすぎると、観客の全てが敵になる。

 上手く逃げるのもテクニックだが、大介はそんなボール球をホームランにしてきた。


 ピッチングならばともかくバッティングなら、大介は教えることが出来る。

 それに昇馬は大介よりも、ずっと手が長い。

 高校野球は相当のピッチャーであっても、まだ外の球が中心の配球をしてくる。

 内角の厳しいところに、しっかりとコントロール出来るピッチャーというのは、全国クラスでもそうはいない。

 昇馬は平気で内角に投げ、そして平気でぶつけているが。

 報復死球のない日本の野球は、本当にありがたい。




 昇馬から見ても大介のバッティングは、かなり頭がおかしい。

 踏み込みが弱くても、腰の回転だけでボールをスタンドに運ぶのだ。

 だから外のボールでも、飛距離がしっかりと出ている。

 またバレルゾーンで打ってはいるが、その弾道がかなり低い。

 ジャストミートしているので、ライナー性の打球でスタンド入りするが。


 昇馬はなんだかんだ、フライ性のボールでも、しっかりとホームランを打っている。

 ただ大介もこの数年は、そういった打球が多くなってきた。

 パワーがやや衰えてきた、というのとは違う。

 確かに筋肉は衰えてきたかもしれないが、それよりは動体視力の衰えの方が厳しい。


 それでもホームランを量産するのは、当て勘が並外れているからだ。

 これはもう才能と言うか、特殊能力とでも言うしかない。

 その大介が、上手く指導出来るかどうか。

 微妙なところではあるが、全く教えられないというわけでもない。


 とにかく昇馬はパワーで、ボールをスタンドまで運んでいる。

 だがミートをしっかりとして、それで捉えるのが重要でもある。

 ムービング系のボールを飛ばすためには、わずかな変化を無視するほど、強烈なパワーで打てばいい。

 実際に昇馬はそうやって、ホームランを量産してきた。

 一年の秋の時点で、既にホームランの数は50本に達しようかというものになっている。

 もっとも公式戦での数は、そこまで多くはない。


 プロに行くにしろ、結果を出し続けなければいけない。

 逆にドラ1確定レベルの実績から、大学に進学するとなると、色々な特待生としての特典がついてくるであろう。

 ちなみに白富東には、早慶レベルの大学への、推薦枠があったりする。

 直史はこの推薦枠ではなく、早稲谷の推薦の範囲内ではあるが、試験の得点もちゃんと取って入学している。

「あの二つの大学なら、それなりにコネクションも出来ると思うぞ」

 あまり大介は、そのあたりは詳しいものではないのだが。


 まだまだ二年も先のことではある。

 若者の時間というのは、とても長く感じるものであるらしい。

 しかし大介はもう、今年のシーズンも短かったな、と感じてしまっている。

 息子がプロに入ってくるとき、果たして自分がまだ現役でいるか。

 ちょっと自信がなくなってきた、今年の三冠王であった。

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