第226話 新人たちの輝き
開幕カードを負け越したライガースであるが、チーム自体の勢いが消えているというわけではない。
次のカードは東京ドームにて、タイタンズとの三連戦。
ここでしっかり勝ちこせるぐらいには、投手陣を補強したつもりである。
第一戦はFAでパ・リーグのチームから移籍してきた友永。
資本の違うライガースとしては、相当に補強に力を入れている。
もっともタイタンズもタイタンズで、補強は行っているのだ。
Bクラスが続いているが、プロ野球と言えばタイタンズ、という時代が長かったのも事実。
そのタイタンズがいつまでも、弱いままでいいはずがない。
しかしタイタンズの弱い原因は、その強かった時代にあるとも言える。
OBでの派閥などが存在していて、本来なら球団社長にGM、GMが監督を選ぶものなのだろうが、歴代のタイタンズ選手が影響力を持っている。
タイタンズにFAで加入してきた者や、FAで出て行った者は、身内扱いされない。
新人から引退までタイタンズにいたもので、チームの首脳陣が形成される。
これでは本当に誰に力があるのか、分かったものではない。
現場の人事にまで口を出す、そういうOBが多いのだ。
今年のタイタンズは、外国人補強に力を入れていた。
オープン戦でもその助っ人が、バッティングでは派手な打球を見せていたものだ。
そのタイタンズとの第一戦、友永は期待通りのピッチングを見せる。
ただしタイタンズの四番は、勝負強さに長けた悟である。
こちらもこちらでもう、今年が39歳のシーズン。
だが昨年も打率に打点にホームランと、ほとんどのバッティング部門で上位五人に入っている。
いつまでこのようなベテランが、第一戦の主力となっているのか。
ただこのあたりの世代は本当に、MLBでも成功した選手が多いのだ。
国際大会を見てみれば、日本球界の黄金時代であったと言っていい。
大介はこの試合も変わらず、二番打者となっている。
初回からいきなりツーベースを打って、先制のホームを踏むこととなった。
タイタンズのチーム編成は、完全に因習に囚われている。
悟の打撃や走塁を見てみれば、四番ではなく二番に置けばいい、という計算も立つ。
もっともタイタンズというチームは、そういった柔軟性をあまり持っていないチームだ。
パ・リーグの人間から見れば、セ・リーグは現在魔境のように思えるだろう。
直史と武史と大介という、義兄弟三人が、それぞれでたらめなパフォーマンスを発揮している。
そんなパ・リーグから来た友永は、そもそもがライガースファンであったのだ。
しかし今のNPBというのは、ドラフトによって所属球団が決められる。
FAでの移籍には、一軍でおおよそ八年活動しなければいけない。
そんな一軍で八年というのは、よほどの選手でもなければ、難しい限りである。
あえて魔境のセ・リーグにやってきた。
しかし友永が、ライガースを選んだのには理由がある。
つまり大介と、公式戦で対戦しなくてもいいからだ。
他のセ・リーグのチームであれば、大介と対戦せざるをえないこともある。
他のチームにもスラッガーがいないわけではない。
だが去年の打率も四割近い、怪物とは対戦しなくて済む。
それだけで充分に、セ・リーグに来た甲斐はあった。
もっともあと何年大介が、現役でいられるか、という問題はある。
42歳のシーズンなのである。
歴代の名選手も、おおよそこのあたりの年齢が、活躍の限界であることが多い。
ピッチャーに限っては、技巧派ならばもう少し、活躍することもある。
ただそのピッチャーも、表のローテから裏ローテに回ったりと、最盛期の活躍はなくなる。
しかしMLBを見るまでもなく、このぐらいの年齢で、充分に主力であったピッチャーはいる。
技巧派である以上、直史の選手生命はまだ長い、と思われている。
大介にしてもホームランはともかく、打率は未だに落ちる様子がない。
四割を打ったシーズンには及ばないが、去年も四割近くは打っている。
バッティングのタイトルが何か取れている限りは、引退などするはずもないだろう。
友永はその魔境のセ・リーグに入りながらも、タイタンズ相手には立派なピッチングをしてみせる。
タイタンズはタイタンズで、それなりに補強はしたのだ。
ただその戦力がどうも、上手く機能していない。
あるいは悟などもそれを感じて、またどこかのチームに移籍したいかな、と考えていたりもするのだ。
試合展開は、ライガースの有利に進む。
大介はやや外れたボール球であっても、ランナーがいれば打ちにいくのだ。
そしてその打球は、外野の頭を越えていったりする。
ホームランをどうにか防ぎたいと思っても、長打で点を取られては仕方がない。
ただ世間的にはやはり、大介にはホームランを望むのだ。
それでもこの試合はやはり、移籍してきた友永に、ベンチの焦点は当たっていたと言えよう。
FAで入ってきたのだから、もちろん期待はされている。
ただライガースとしては、もっと左のピッチャーがほしかったはずだ。
そのためドラフトでは、上位でサウスポーを取っている。
使えるか使えないかは、もう少し時間をかけて、判断しなければいけないだろう。
七回を投げてわずか一失点。
充分なライガースとしてのデビュー戦である。
ただ今年もまたライガースは、勝つときは大きく勝つが、負ける時は僅差で負ける。
開幕からたったの四試合で、どうこういうことではないのだろうが。
タイタンズとの第二戦、ライガースの先発はフリーマン。
去年も実績を残しているピッチャーだ。
本来ならばライガースは、もっとレックスに勝っておかなければいけない。
選手を揃えるのに使っている金は、それだけ違うのであるから。
そこはレックスが、上手くドラフトで勝利していると言えようか。
明らかにライガースの方が、高額年俸の選手は多いのだ。
大介はここまで、比較的敬遠の数が少ない。
フォアボールはあるが、それでも去年よりは、勝負してもらっている数が多い。
もっともこれもまた、シーズン開幕序盤であるから、ということもあるだろう。
50本以上を打っていながら、衰えたと見られている。
しかしシーズン序盤とはいえ、打率は四割を超えているのだ。
六本のヒットを打っている。
その中で単打は一つしかない。
なんとも歪なようであるが、しかし打率も高い大介。
やはりいずれはまた、敬遠の嵐となるのだろう。
六本のヒットで六打点というのは、効率が良すぎる。
もう充分にセ・リーグのピッチャーは、今年も大介を怖がることを決めている。
もっとも直史と武史あたりは、勝負出来るところでは、しっかりと勝負してくるだろう。
この試合では七本目のヒットを打った。
ヒットというか、ホームランになったのだが。
それがソロというあたり、やはり危険なところでは、まともに勝負をしてもらえそうにない。
一応は三打席、勝負という形にはなった。
もっともそのうちの二つは、ボール球を打たされたものであるが。
これで統計上、選球眼が悪い、ということになってしまう。
ゾーンにしっかりと入ってきたボールは、スタンドに叩き込んでいるのだが。
ライガースの問題は、やはりピッチャーにある。
フリーマンは六回まで、三失点というクオリティスタートを果たした。
ライガース打線も三点を取っているので、この時点ではどちらが有利とも言えない。
しかし最終的には、タイタンズが6-4で勝つこととなってしまった。
やはりリリーフ陣に、安定感がまだ生まれていないというところか。
一応は助っ人外国人に、クローザーを獲得はしているのだ。
キューバ出身のヴィエラは、MAXが160km/hのストレートを持つ。
そしてスプリットとカットボールで、三振も打たせることも出来る。
MLBではメジャー昇格が出来ていないところを、ライガースの海外スカウトが獲得してきたものである。
一応一試合は投げて、セーブはもう記録している。
しかしビハインド展開や、圧勝の試合では、出番がないのだ。
ライガースは監督の山田の四年契約が、今年で終了する。
次の監督は誰かという話にもなるが、ここまで全シーズンAクラス入りは果たしているのだ。
今年の結果次第では、まだ契約が伸びるかもしれない。
プロ野球選手にとって監督というのは、選手としての上がりではないが、野球人としては最終的に目指すものだ。
ただ元ピッチャーでありながら、投手陣の安定性を欠く。
このあたりがどうにも、選手を育てていないと見えるらしい。
もっとも監督に就任する以前には、ピッチングコーチもやっている。
その時期に育てたピッチャーが、畑と津傘であったりするのだが。
ライガースに不足しているのは、リリーフ陣なのである。
一応は今年、クローザーは用意出来た。
セットアッパーとして実績を残せば、この先も見えてくる。
そう考えて色々と、ピッチャーを試しているのだ。
プロ野球はとにかく、毎年ピッチャーを獲得する。
レックスなどとんでもなく安定していた時期も、しっかりとピッチャーを獲得していた。
もちろんその優先順位は、年によって変わってくる。
スカウトが狙っているのは、今の高校二年生の投手陣。
昇馬が競合するのは間違いないが、他にも上杉将典を次点として、多くの逸材が揃っていると見られる。
フィジカルがとんでもなく、高校二年生の春の時点で、150km/hオーバーを安定して投げるのが六人もいる。
昇馬の160km/hオーバーや、将典の155km/hオーバーなど、超高校級と言ってもまだ言葉が足りない。
あと一年あれば昇馬は、165km/hには達するのではないか。
上杉をも上回る、サウスポーの登場が期待される。
もっとも大卒であれば、武史はそれぐらいを出したものだ。
三連戦の最終戦、ライガースが出した先発は、大卒即戦力と思われている、躑躅である。
サウスポーであり大学のリーグ戦では、三年生あたりから覚醒した。
それまではそこそこかな、と思われていたものが、四年生では完全にその力を発揮し、一気にドラフト競合の選手にまでなったのだ。
そして即戦力でいながらも、同時にまだ成長中と思われている。
大介も紅白戦で、しっかりと対戦している。
ただその感触としては、昇馬の方が上だな、というものであった。
大卒ピッチャーとしては、上位三人には入ると思われていたが、一年ぐらいは育成していくべきかな、とバッターである大介からは思えた。
しかしここのプロ初先発で、躑躅はしっかりと結果を残すこととなる。
八回を投げて三失点。
打線の援護の大きいライガースは、早々に試合を決めていた。
ちょっと八回まで投げさせるのは、最初の先発としてはやりすぎでは、とも思われた。
しかし球数が100球をちょっと超えるところまで、見事に投げぬいたのだ。
八回まで投げさせなくても、七回でも良かったのではないか。
点差もあったのだから、リリーフをもっと試すべきであった。
大介はそう思うのだが、ピッチャー出身の山田としては、最初に投げられるところまで投げさせて、自信を付けさせてやりたかったのだ。
完投すれば充分であったが、さすがに球数で止めさせる。
リリーフ陣も点差が六点もあったので、気楽に投げて勝つことが出来た。
偶然ではあるが、ライガースの先発で今年、勝ち投手になったのは新戦力の二人。
まだライガースの、殴り合いに染まっていない、とも言えるだろう。
あまりに打線の援護が大きいと、ピッチャーはそれに甘えてしまうところがある。
山田はそのあたり、ピッチャーには厳しいところがある。
自分や真田が主力であった頃、ライガースはもっと失点が少なかった。
栄光の時代を知っているがゆえに、歯がゆい思いもあるのだろう。
ともあれこれで、ライガースは勝敗を五分に戻した。
対してレックスは、スターズとの三戦目、成長中の若手ではなく、こちらも大卒新人の塚本を先発させている。
木津がちょっと異質ではあるが、今のレックスは先発に、サウスポーが多い。
三島が左であり、木津も左、そしてこの塚本に、若手で最後までローテーション入りを検討されたピッチャーまで、左であったのだ。
リリーフ陣にしても、大平という左がいる。
もっとも大平は確かに左だが、それ以上に大平という特徴を持っているのだが。
塚本を上手くリードして、迫水はこの試合、六回を二失点という結果に終わらせた。
しかしレックス側も二点しか取れておらず、勝利投手は次に期待である。
レックスはかなり、ピッチャーの評価をMLB式にしている。
今日の塚本のピッチングは、充分に勝ち星に等しいものだ。
リリーフとしてはいつもの、勝ちパターンの一角から使っていく。
ただこれで三連投となる、大平と平良については、使うのが難しいところであった。
まずは国吉が出て、しっかりと七回は抑えた。
ここで勝っていたならば、また難しい話になっていただろう。
しかし2-2という点差は膠着したままで、八回に入っていく。
レックスはリリーフ陣に、勝ちパターン以外を持ってくる。
勝ちパターンが固定化されすぎるのも、いいことではない。
特に中継ぎなどは、すぐに壊れてしまう傾向にあるのだ。
現在のプロ野球の、中継ぎの酷使と軽視に関しては、レックスはかなり厳密に管理している。
この試合は珍しくも、延長戦にまでなっていった。
先制してそのまま、リードを保って勝つというのが、レックスのパターンである。
しかし今年からは、監督が変わっている。
西片は延長に入ってから、積極的に代打を出していく。
またピッチャーに関しても、1イニングを任せるのではなく、相手の左右の打席を考えて、ポンポンとリリーフを使っていった。
ワンポイントでの起用、ということまでやっていったのである。
最終的なスコアは3-2でレックスが勝利。
これで開幕2カードを、5勝1敗という好スタートを切っている。
唯一負けた相手がライガースと、やはり相性の悪さを感じなくはない。
それでも2勝1敗と、勝ち越してはいるのだ。
この次の相手は、ホームでのフェニックス戦。
今年もまだ暗黒期から脱却していない、フェニックスを相手とする。
そして第一戦の先発は、開幕からの直史のローテ。
はっきりいってしまえば、やる前から勝っている試合。
(そんなことを考えてると、変なフラグが立つんだよな)
直史はそんなことを考えつつ、翌日の試合に備えている。
直史も大介も、それぞれのパフォーマンスを発揮している。
いつになれば本当の、世代交代がやってくるのか。
そうは思っても、まさかわざと負けてやることなどはない。
フェニックスを相手としても、しっかりと分析は忘れない直史であった。
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