第201話 チーム編成

 オフシーズンこそ編成の腕の見せ所である。

 レックスの場合は基本的に、守備的なチーム事情は変えようがない。

 ただ日本一になったチームがそのまま、ほぼ戦力の低下がない。

 これだけでも充分に、他のチームにとっては驚異的なことだ。

 去年はオースティンがアメリカに戻ってしまったため、リリーフ陣が相当の補強を必要と考えられた。

 実際には大平が一年目から活躍し、平良がクローザーとして機能したため、上手く勝てたのだが。

 平良の怪我についても、特にキャンプまで引きずるようなものではない。

 すると新監督のやることは、スタメンの変更が主なものになっていく。


 もっとバッターを試していくべきであったのだ。

 それは多くのレックスファンが思うことで、何よりも点が入る試合のほうが、見ていても面白い。

 しかし結果としては、日本一になっている。

 ただその理由というのも、はっきりと分かっているのだ。


 単純な話、レックスに限ったものではないが、圧倒的に強力な選手が、その力に釣り合わない金額でプレイしているからだ。

 これはむしろMLBでの方こそ、分かりやすいかもしれない。

 優れた選手がFAになる、まだ若手の間に実績を残すため、チームも強くなるという分かりやすい時期があった。

 もっともこういったパターンは、いずれまた変化してしまうのだが。

 金のために行動するからだ。

 そして日本人は比較的、金で全てが決まるものではないなどというが、世界的に見れば金で評価するのは正しい。


 だいたい金の問題などではないというのは、金を払う側である。

 また金持ちほどそういった、狂ったロジックで話をする。

 金を受け取る側としては、当然ながら見合った報酬を必要とする。

 しかし金を払う側は、少しでも安い給料を望む。

 すると金に汚いのは卑しい、という都合のいい価値観を持ってくるのだ。


 ただ武史を昔のような金額では雇えないぐらいには、レックスは直史に給料を出している。

 またスターズも、そこまでの金満球団ではない。

 今年のセ・リーグのAクラスチームの中では、ライガースが一番の金持ち球団である。

 そして日本シリーズに出場出来なかった以上、チームの編成は補強を重視するのだ。

 昨今の主流は、FAやトレードよりはドラフト、と言われる。

 これは確かに、育成という指名枠が出来てからは、確かなものとは言えるのだ。

 しかしこれは実のところ、金をかければ強くなる、というのを資本力をバックに行っているに過ぎない。


 三軍まで作っているチームがある。

 これが四軍まで作るという話にもなっている。

 もちろん育成枠でも、最低年俸は決まっている。

 しかしそこまで人数を増やしたら、今度はコーチやトレーナーのスタッフまで増やさなくてはいけない。

 とにかく一芸特化型の選手を育成で獲得し、あとは生き残ったものだけを使う。

 こういうことをやっていて、確かに一度は成功していた。

 だがこんなやり方をしていると、いずれは無理が出てくるのも確かなのだ。


 レックスは基本的に、育成では選手を取らない。

 去年獲得した大平は、まさに育成として大ブレイクしたと言っても良く、珍しい成功例だ。

 だが直史が入団した時などは、支配下登録枠八名までしか指名はしなかった。

 大介が入団した時なども、育成は二人まで。

 それを育成で10人以上も取るような、そんなチームがある。

 名馬は常にあっても、名伯楽は常にあらず。

 それだけ多くの選手などを、獲得しても育成しきれるはずがないのだ。




 歴史に残るような勝率を残して、それでもペナントレースを制せなかったライガース。

 来年こそは日本一と考えた場合、やはり一番のライバルになりそうなのは、戦力の低下がほとんどないレックスである。

 日本シリーズで勝つよりも、日本シリーズに進むことの方が、おそらくは難しい。

 だが去年はペナントレースを制して、それに成功していたのだ。


 直史は去年に比べて、勝ち星が少なかった。

 それでもレックスが優勝したのは、ライガースの勝ち星が去年に比べて減ったからだ。

 もっとも誤差のような範囲内で、勝率としては歴代でも上位にあった。

 しかしレックスと同じくライガースも改善点は見えているが、レックスよりもその改善は難しいかもしれない。

 爆発力はあっても、安定感が微妙だからだ。


 畑に津傘、フリーマンといったあたりの先発は、数字の上では違うように思えても、実際は三島やオーガスと同程度のピッチング能力がある。

 ただ先発ローテが、三枚までしかしっかりと埋まっていないのだ。

 直史と同じ年の大原も、ずっと先発のローテにいる。

 だが本当ならそんなベテランは、新陳代謝で引退させるぐらいに、若手が頑張らなければいけないのだ。


 またライガースは逆転勝ちも多いが、逆転負けも多い。

 リリーフ陣が弱いと言ってもいいだろう。

 ただこれはレックスのリリーフ陣が、極端に強いとも言えるのだ。

 ピッチャーの層で、ライガースはレックスに負けている。

 もちろん直史が一人いるだけで、二人分ぐらいの勝ち星は稼いでしまっているのだが。


 重要なのは直史のいない試合で、しっかりと勝つこと。

 去年はそれでペナントレースを制し、アドバンテージを手に入れたのだ。

 さすがの直史も、年には勝てないといったところか。

 そもそも現代野球において、ピッチャーを酷使することは、ポストシーズンのみ。

 それでもさすがに直史ほどに、無茶な投げ方をするピッチャーはいない。

 ライガース首脳陣としては、あの頃のレックスの強さを知っている。

 ペナントレースでは七年連続で、一位となっていたのだ。


 もっとも武史がいたあの頃も、クライマックスシリーズでは逆転することが出来た。

 武史もタフなピッチャーではあるが、基本的にはパワーピッチャー。

 直史のように八分程度の力で投げて、連投するというのは、一つの技術であるのだ。

 しかし武史の後に、直史までが入ってきたことで、レックスは日本一に二年連続で輝いた。

 あの頃の投手力を考えると、むしろ優勝できて当然といったもの。

 だがライガースもまたあの頃は、今よりもさらに爆発力はあったのだ。


 バッティングは水物である。

 やはり投手を含めた、守備で安定しておかなければ、競った試合に勝つのは難しい。

 もちろんライガースもクリーンナップに外国人がいたりするので、和製の大砲は欲しかったりする。

 しかし先発を一人か二人、リリーフを一人か二人、それぞれ育成したならば、今度こそレックスと正面から戦って勝てるのではないか。

 現在の監督の山田は、ピッチャー出身である。

 その目からみるとライガースは、ピッチャーが雑なところがあるように思える。

 しかしライガースとしては、ファンが打力に期待している以上、下手な作戦変更もしづらいのだ。




 ライガースはやはり今年も、ピッチャーを先に取っていった。

 本当ならば長距離打者も、しっかりと取っていかないといけないのだが。

 外国人のパワーに頼っていては、契約が切れればいなくなってしまう。

 NPBの日本人選手との、契約更改とは全く違うものなのだ。


 一位指名したのは、高卒ピッチャーである。

 龍山付属の桜木は、京都代表としてこの夏、チームをベスト8にまで連れて行った。

 サウスポーであるあたりも含めて、悪い選択ではなかったはずだ。

 下手に競合しそうな、大卒即戦力は取っていかなかった。

 そして二巡目以降は、事前の計画通りに指名していく。


 今年は甲子園で大きな波乱があったため、高卒ピッチャーもバッターも、評価を落とした者が多い。

 昇馬が暴れまくったせいである。

 ホームランを簡単に打ち、そしてプロ注目のバッターをも簡単に打ち取る。

 だがそれは全ての対戦相手にとってそうであったため、むしろこれは例外の一人と考えるべきでは、という意見もあった。


 しかし昇馬に完全に封じられて、精神的に折れてしまった選手も多いだろう。

 プロの世界というのは、アマチュア以上にメンタルが重視される。

 極端な話高校生トップレベルというのは、プロではほぼ最低限の水準なのだ。

 だから本来ならば、そこまで悲観する必要はない。

 ただ元はプロ志望であったのが、大学進学に進路を変えた選手が、多いのは確かであった。


 そんな中でライガースは、上位二名をピッチャーで指名。

 昨今はどの球団でもOKという選手が多いが、どの球団のファンであったかというのは、それなりに答えてくる。

 桜木は地元が京都であって、そのまま越境入学などせず、地元の強豪私立に進んだ。

 そして比較的地元と言える、近畿のチームに指名されたわけである。

 京都から西宮までは、乗り換えなしで電車一本で行ける。

 もっとも京都から大阪までは、地図で見る以上には、そこそこの時間がかかるのだが。


 また高卒の野手も一人指名している。

 桜印の四番を打っていた、平尾である。

 ポジションはサードを守っていて、ライガースはこのポジションが完全に固定されているわけではない。

 もちろん他のポジションへのコンバートもあるかもしれないが、今後数年かけてみっちり、一軍にまで上げるというのが目標となる。


 支配下登録の指名が八人、育成枠での指名が二人。

 ドラフトで10人の選手を取ったわけである。

 つまりこれ以上に、クビになる選手もいるわけだ。

 70人という支配下登録は、多いようでいて数年の未来まで考えると、まだまだ試したい選手がいるのだ。

 ドラフト以外でもFAや、新たな外国人などで、10人以上の選手がクビになる。

 ただ戦力外以外でも、故障によって70人枠から外したり、他の手段で一応は影響下に置く、ということが出来なくはない。


 育成枠で三軍まで作っているチームは、それだけ運営の資本力がいる。

 ライガースも現在では、三軍を持っているチームの一つだ。

 このあたりチームが金持ちであると、それだけ有利だというのは確かだ。

 だが実際のところ、どんな選手が育ってくるかは、本当に分からない部分があるのだ。

 トレードに出した途端に、活躍し始める選手もいたりするのだ。




 ライガースは打線に関しては、今年の戦力のまま、勝負していっても充分である。

 ただ問題はピッチャーと、守備にある。

 守備力も低いわけではないのだが、どうしても失点が多くなる。

 このあたり首脳陣としては、終盤に守備力の高い選手を、守備固めとして入れるべきでは、ということが分かっている。

 勝利のためには、リードした展開から、しっかりそのリードを守る必要がある。

 

 先発ピッチャーというのは、そうそう固定化出来るものではない。

 だがリリーフの中でも、セットアッパーとクローザーは、色々と試してみるべきであろう。

 防御率が3を切るようなリリーフが、二人ぐらいはいてほしい。

 2を切るようなクローザーまでは、なかなか難しいのであろうが。


 レックスが今年、優勝できた理由。

 もちろんそれは絶対のエースだとか、優れたクローザーに成長した若手とか、色々とあるのだろう。

 だがチームでさえも予想外であったのは、おそらく大平のセットアッパーとしての活躍だ。

 育成枠をあまり取らない、レックスが獲得した一年目。

 それなのにキャンプ前の段階で既に、一軍に合流することになっていた。

 そしてシーズン序盤などは、クローザーとしてさえ使われたのだ。

 もっとも序盤が終われば、そのフォアボールの多さのせいで、崩されることが多くなったが。


 それでも二軍で調整し、セットアッパーとして活躍するには充分であった。

 まだ来年が20歳のシーズンであるのだから、明らかな欠点は修正していけばいい。

 レックスは順調に、若返りが果たされている。

 貞本を采配が下手だなどと言っているメディアや、外野のファンはいる。

 しかし結果的に契約最終年には優勝しているし、来年も日本一を目指せそうなチームを作ったのだ。

 勝敗というのは結局、どちらを選択したかノ問題だ。

 比べて選手が育ったかどうかというのは、確実な話である。

 去年にしても一年目の、迫水と左右田を積極的に使った。

 選手起用は監督の仕事なのだから、この時点で充分に名将だ。


 ライガースの場合は、ちょっと難しいところがある。

 ファンが熱烈に応援してくれるのはいいが、それが行き過ぎるところがあるのだ。

 スタンドからの罵声に対して、選手がキレたことも何度かある。

 それでも球団のフロントからすれば、球場を埋めてくれるいいお客さんなのだろうが。

 このファンからのプレッシャーが、ライガースは強いのだ。

 山田としては新人を、いきなり甲子園に放り込むのは難しいなと思う。


 だから二軍の試合が重要なのだが、そこで上手く育っていない。

 ピッチャーだけならばいいが、バッターも今年の新戦力と言えるのはあまりいなかった。

 山田としては故障がないよう、ピッチャーは使ったつもりである。

 しかしピッチャーはレックスに比べると、序盤で炎上してしまう場合が多い。

 どうにか六回まで投げれば、それでもうありがたいものなのだが。




 チームカラーを変化させるのは、難しいところである。

 ファンというのは基本的に、チームについているところがある。

 フランチャイズが当然な現在において、まずは地元のファンが重要。

 タイタンズなどは昔、日本中にファンがいたものだが。

 それはテレビの野球中継が、限られていた時代でもある。


 ライガースのチームカラーはもう、ずっと昔からイケイケドンドンだ。

 元ピッチャーの山田としては、守備を重視した野球にしたいのだ。

 ショートの大介など、確実に守備範囲が広く、圧倒的な肩で内野の打球をアウトにする。

 しかし年齢を考えれば、ずっとそれに頼っているわけにもいかない。


 バッティングやピッチングには波がある。

 しかし守備や走塁には、あまりそういったものはない。

 もちろんライガースもプロである以上、アマチュアレベルの上澄み以上には、守備力のある選手が揃っている。

 だがそれでも比較的、連携が取れていないと思うのが山田の視点だ。

 一度グラウンドから出てみて、客観的に見れば分かるのだ。

 ただこれを改善するのは、非常に難しい。


 一番簡単なきっかけは、監督の自分も含めて、コーチ陣のほとんどを入れ替えてしまうことだ。

 去年のペナントレースで、ぎりぎりまで競っていたチームの監督を、解任するのは難しい話だが。

 勝利を求めるのか、それとも興奮を求めるのか。

 もちろんプロである以上は、勝った上でさらに、観客を興奮させなくてはいけない。

 しかし今のままでは、それが上手くいかないのだ。


 大介はバッティングだけで客が呼べる。

 だからそういう現状であるからこそ、守備力をどうにかしなければいけない。

 そもそも日本は昔から、そういう野球で勝ってきたのだから。

 甲子園であっても高校野球なら、玄人好みのスモールベースボールが通用するのだ。

 しかしライガースはプロなのである。


 ボテボテの内野ゴロで、一塁まで全力疾走するか。

 しない。それは怠慢であるとかではなく、シーズンのペース配分を考えているからだ。

 いつも全力疾走し、スタミナを減らしていく。

 MLBよりは少ないといっても、年間に143試合も行うのがプロ野球なのだ。

 そういったところや、あとはホームランとなったら確信して走るなど、プロは上手く体力を温存することも考えなくてはいけない。

 だが今のライガースには、もっと起爆剤となる選手が必要ではないのか。


 大介では駄目なのだ。

 大介は活躍しても、当たり前の選手として認識されている。

 意外性のないことによって、よりファンを盛り上げたり、チームの士気を上げることが出来ない。

 だから直史を苦しめることも、難しいものとなってしまっている。

(結局はいい選手が上がってきたら、それを上手く使ってやるしかないんだろうな)

 キャンプには二軍からも、注目されている選手が帯同する。

 そこでしっかりと、見極めるのが監督の役目であろう。


 来年のキャンプと、その前の合同自主トレ。

 もしも勢いを持っていそうなら、新人からでも使っていく。

 必要なのは単純に勝気なだけの選手ではない。

 ここぞという時に打ったり守ったり、流れを呼び込んでくれる選手だ。

 それは別にバッティングに限ったことではない。

 守備で魅せることもあるだろうし、走塁で魅せることもあるだろう。

 またリリーフのピッチャーが、相手を完全に封じて、打線に勢いをつけたりもするだろう。


 レギュラーシーズン前の紅白戦やオープン戦は、どんどんと選手を使っていく。

 その中でどれだけアピールをしてくるか、それが重要なのだ。

 絶対的な選手には、逆にもう消えてしまう、ムードメーカーというもの。

 新人時代からNPB時代までの大介は、そういう存在であった。

 今年はホームランが減ったことからも、イメージが変わってしまっている。

 新人でも若手でも、あるいはトレードの人間でもいい。

 チーム全体に刺激を与えてくれる選手であれば、開幕一軍のベンチには絶対、一人そういう選手を入れると、山田は考えていたのだった。

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