第409話 チームのタイプ
ライガースとタイタンズにはあり、レックスにはないもの。
少なくとも圧倒的に差があるものは、躍動感である。
大介と司朗、完全に一世代違うが、二人はグラウンドを走り回る。
それによってチーム全体が、活性化しているとさえ言えるだろう。
レックスも戦力は戻ってきたが、若い戦力はいない。
そして直史が支配的なピッチングを出来るのは、週に一度といったぐらいだ。
ローテの中でコンディションを整える。
その調整機能が、微妙に狂い始めたのか。
直史の絶対的なピッチングを中心に、レックスはシーズンを進めていく。
今年は既に完投し切れなかった試合で、一つの星を落としている。
またわずかな期間であるが、離脱も経験した。
直史は二軍にいる間に、色々とピッチャーを見ていた。
なので使えるピッチャーを、年に一人か二人は上げるように言っている。
もっとも大平などは、ルーキーで使えるピッチャーであった。
欠点も多かったが、そこはレギュラーシーズンの中では、許容範囲内だと思ったのだ。
打線に関しては、直史は口を出していない。
この二年ほどは、ドラフトで獲得した新人から、即戦力級の人材は出ていない。
レックスの強さは、ピッチャーが安定していること。
得点力で比べれば、ライガースの方が圧倒的に上だ。
それでも勝つべき時に、勝つのがいいピッチャーを持っているチームだ。
打線は復帰組と外国人で、かなり得点力が上がっていた。
強いチームはある程度、戦力の更新が行われていかなければいけない。
だが安定してレギュラーポジションを務める選手がいないと、強さが安定しない。
二軍で上手く育てて、一軍の戦力を更新する。
これが本来であれば、常勝軍団を作る条件だ。
レックスにしても左右田や迫水は、まだ若手である。
ただ緒方の代わりは、絶対に育てなければいけない。
また小此木にしても、本当なら引退してもおかしくはない年齢なのだ。
内野を育てるために、二軍は必要なのである。
今年も登録抹消されている間に、ピッチャーの動向は見ていた。
二軍のコーチなどとも話して、戦力の更新は上手くいくだろうと考えている。
たとえばレックスであると、リリーフの国吉などは、もうすぐFA権を獲得する。
あとは近本なども、国内FA権は獲得するのだ。
ポスティングならばむしろ、金が手に入るのでいい。
しかしFAで移籍されるのは、チームにとって損である。
人的補償が取れても、そこまで優れた選手ではないだろう。
去年のドラフトで取った選手、またそれ以前のドラフトで取った選手。
これらはバッティングを重視する野手なため、直史の管轄外だ。
だが直史と一緒の年に入った二人が、ショートとキャッチャーになっている。
その事実だけを見ると、直史が関わった場合、選手は育成されるということになるだろうか。
周囲に与える影響と考えれば、直史は自身のそれを自覚していない。
フェニックスに三連勝し、弾みをつけたレックスが、次に対戦するのはカップスである。
今年はタイタンズの飛躍によって、四位の順位にとどまっている。
もっとも地味に強くなっていっているので、何も油断が出来る相手ではない。
首位争いはレックスとライガースが行っているが、その首位のレックスは、いまいち注目されていない。
せっかく小此木が戻ってきたのに、マスコミがとにかく東西の対決、大介と司朗の比較に持っていくからだ。
やはり直史がパーフェクトなりノーヒットノーランをしないと駄目なのか。
イケメンで毎試合出る野手とは、集客力が違うのか。
とはいえタイタンズが売り出しにかかると、NPB全体の集客力が上がる。
やはりマスコミを持っていると強いのだ。
それにしばらくなかった、本物の天才の出現であるのだ。
大介と司朗の打撃成績の比較は、確かに面白いものである。
もっとも今年も大介は、相変わらず敬遠をされまくっているが。
大介はフォアボールの過半数が申告敬遠である。
対して司朗は、結果的にフォアボールを選んでいるのだ。
このフォアボールを選ぶというのも、申告敬遠よりはピッチャーに、与えるダメージが大きい。
申告敬遠なら何もリスクなく、怖いバッターを一塁に送ってしまえるからだ。
一番打者の司朗は、長打力が大介より低いため、敬遠されることがやや少ない。
とはいえ下位打線でランナーを出していれば、司朗も打点を増やしていく。
事実四月が終わった時点では、司朗の方が打点は上であったのだ。
ただその後に2カードが終わっただけで、大介は打点を逆転した。
ホームランも司朗は、五月に入ってからまだ一本も打っていない。
重要なのはホームベースを踏んだ回数。
これは両者がほぼ同じであったりする。
打率も司朗が、大介を上回った。
首位打者のタイトルが、他の誰かに取られるというのか。
もっとも大介もこれまでに、首位打者のタイトルは逃したことがある。
NPB時代にも最初の方に、一度逃してしまった。
司朗としては大介のバッティングスタイルなら、確かに首位打者は取りにくいだろうな、と納得しているのだが。
もっともこういった勝負を、プロ入り25年目の大介と、一年目の司朗で比較するのはナンセンスである。
シーズンが進むごとに、司朗が弱点を見抜かれたり、あるいは疲労が蓄積して休むかもしれないからだ。
司朗はリーグが違ったなら、二冠を取れていたかもしれない。
あるいは打順が違えば、ホームランもさらに増えていたかもしれない。
大介がいることによって、タイトルを取れなかった選手が、いったいどれだけいることか。
もっともそれは上杉や直史についても言える。
ほんのわずか数人が、時代の中で超人的であった。
もうこの超人野球のような時代を、終わらせるべきであろう。
だがそれを終わらせるような選手は、また超人的な人間。
昇馬がどういう選択をするかによって、これから10年間の野球は変わると言ってもいいだろう。
ピッチャーとしてかバッターとしてか、それとも両方か。
パ・リーグに行ったなら投げない日はDHで入って、四番を打ったらいい。
あるいはセ・リーグであっても投げない日は、ファーストなどに入ってもいい。
そんな運用を今の日本球界が、行うかどうかは疑問であるが。
カップスとの対戦が始まった。
神宮で行われる試合は、まず百目鬼の投げる第一戦から始まる。
少し余裕がある状態で、七回からはリリーフ陣が出てくる試合だ。
つまりレックスはしっかりと、先制してリードを保っていたのだ。
「本当なら安心して見ていられるんだけどなあ」
ブルペンの豊田がぼやくのは、やはり平良のいないことが大きい。
他のピッチャーには言えないことだが、直史に対しては言える。
選手側と言うよりも、メンタル的にはコーチサイドに近いからだ。
「それでも今日は勝てそうだ」
直史の言葉通り、三点差あればリリーフは、勝ち星に持っていける。
一点は返されたが、リードしたまま決着した。
直史が投げていなくても、そして三島が抜けて平良が離脱していても、レックスは強い。
地味に投手が強いのと、得点力が向上したからであろう。
ただオーガスなどはまだ30代の半ばほどなのに、急速に衰えているようにも思える。
ローテを守ってくれたら、それで充分であるのだが。
この第二戦はそのオーガスが先発である。
カップスは地味に、連敗が少ないのだ。
去年だけではなくその前から、ずっと地道に育成を頑張ってきた。
スカウトの目と育成環境により、競合指名の選手をあまり取らない。
コーチのリソースを集中するため、ドラフトの中でも全く戦力にならなかった選手の割合は、12球団でもかなり低い。
なお圧倒的に、全く戦力にならなかった選手の割合が多いのは、福岡である。
育成で取りすぎていれば、絶対数はともかく割合では、そういう結果になるのは当たり前である。
オーガスもまだ33歳のシーズンなので、衰えるのはやや早いとも思える。
だがそれは選手の体質によって、違うものであろう。
40歳を過ぎてもまだ成長するピッチャーがいるように、30歳を過ぎて急速に衰えるピッチャーもいる。
オーガスの衰えというのは、やや早めではあるが、それでもまだ充分にローテを回している。
年間を通じてローテから外れない、というのが重要なことであるのだ。
もっともオーガスに関しては、モチベーションの問題もある。
外国人選手である彼は、レックスとは複数年契約を結んでいる。
一番良かった数字を出した年に、改めて契約を結んだので、そこから数年は成績がほどほどでもいいというわけだ。
NPBもそうだがMLBにも、大型契約の問題はある。
おおよろの野球選手というのは、高いパフォーマンスを数年も続けて維持するのは、難しいことなのだ。
そのオーガスは、六回を四失点。
微妙なピッチングであるが、カップスのほうがリードしていた。
レックスの弱点と言えそうな部分は、去年までと同じだ。
終盤にリードしていなければ、逆転する試合が少ない。
そういうビハインド展開の試合こそ、本当ならピッチャーは力を見せるべきなのだが。
追加点を少しだけ取られた。
レックスも最終的には、五点を取っている。
だが追加点によるスコアは、6-5でカップスの勝利。
負け星はオーガスについたが、悪い数字というわけではなかった。
一勝一敗のカードは第三戦となる。
レックスは塚本が先発で、ローテの中ではやや弱いところとなる。
もっとも去年に比べても今年は、各種数字が向上している。
負け星が多く付いた去年にしても、各種指標は悪いものではなかったのだ。
去年は開幕スタートダッシュに成功し、最後にはそこそこ詰め寄られたものの、それでも首位を保った優勝であった。
だが今年は四月をライガースと同じ勝率、タイタンズともさほどの差がない。
この試合に勝って、少なくともライガースと並んでおかなければいけない。
勝率は六割オーバーで、例年ならこれでも優勝のペースだ。
しかしライガースがレックスと競うと、この数字が上がっていく。
お互いに主力が、投打の極みにいる。
直史は先発ローテの一枚に過ぎないが、それでも先日は完封勝利した。
緒方が故障なく、そして平良の離脱もなかったら、やはりもっと勝ち星を稼げたのではないか。
そうは思っていても、今のある戦力で戦うしかないのだ。
去年までと違い、レックスは得点力が上がっている。
だが三島の抜けた穴は、やはり大きいと言える。
MLBでは先発して、既に勝ち星も上げている三島。
しかしチームのエースクラスの、圧倒的な成績であるわけではない。
それでもNPB時代より、よほど年俸は上がっているのだが。
NPBはMLBと3Aの中間の実力と言われる。
つまりNPBのトップクラスは、MLBの平均以上の実力と言っていいだろう。
もっとも若手の活きのいいのは、2Aにこそ多いらしいが。
直史自身もMLB経験があるので、二つのリーグの違いは、はっきりと分かる。
まず第一には、基礎体力の違いである。
年間143試合と162試合では、当然後者の方が負荷は大きい。
そのくせシーズン期間は同じほどなので、休みが少ないのだ。
ピッチャーは中五日、あるいは中四日で投げる。
回復力と耐久力、両方がなければすぐに潰れる。
直史としては出来る限りの余暇を、休息に充てたものだ。
投げる試合が圧倒的に、NPBよりも多い。
そのためシーズン中に少し、休むピッチャーはいるのだ。
小さな故障などはいくらでもある。
その中で直史は、最高で35試合に先発した。
去年の三島などは、先発回数は25試合である。
NPBでは多くても、30試合に先発することはない。
まずはそこの違いを意識していないと、一年目で潰れかねない。
もっとも直史は一年目から30勝して、まさに無双と言える結果を残したが。
三戦目は両チーム、点の取り合いとなる試合になった。
そして終盤の時点で、リードしていたのがレックスである。
塚本は四点を取られていたが、リードしていれば勝ちパターンのピッチャーを使える。
最終的なスコアは8-5でレックスの勝利。
やはり得点力で上回っていることこそ、野球では正義なのだろう。
レックスは三島と平良がいないことにより、四月の失点平均が、去年よりも0.7ほど上がっている。
だが得点力の方は、0.9ほど上がっているのだ。
ならば勝率も上がっていそうなものだが、その部分は下がっている。
去年はおよそ0.67で、今年は0.62と違いがある。
野球の統計とは不思議なものだが、つまり去年に比べると、僅差の試合に弱くなっているということだ。
去年は守備とピッチャーで勝っていたので、自動的にロースコアになっていたわけだ。
ならば勝つにしろ負けるにしろ、点差は小さくなる。
そして勝率が高かったというのは、その僅差を拾う、勝負強さを持っていたのだ。
今年はその傾向にないのは、皮肉にも得点力が高くなったためだろう。
一試合あたりの集中力は、点の取りあいだと弱くなってしまう。
試合を見る側としては、むしろ面白いのだろう。
だが守備で相手の得点を抑える方が、首脳陣としては計算しやすい。
特に直史などは、投げればほぼ勝つのである。
この25勝前後を計算して、首脳陣は戦略を立てる。
もっとも今年、直史は投げた一試合がリリーフが打たれて敗北し、自身もわずかに離脱していた。
これだけで今年の直史に、過剰な期待をするべきではない、という判断を首脳陣はしている。
小此木に加えて、新外国人もしっかりと打ってくれているのだ。
緒方も戻ってきたので、戦力としては整っている。
だが争っているライガースは、今年は全く戦力の離脱がない。
結局プロ野球というのは、チームの総合力が必要なのだ。
143試合もある上に、どこかで主力が故障することもある。
安定して数字を残してきた、選手が必ず必要となる。
縁の下の力持ち的な、守備の安定している選手。
その守備力があるために、この二年のレックスは強かったと言えよう。
次はまた、フェニックスとの二連戦。
ここで直史が投げる予定である。
アウェイでビジターユニフォームを着るが、あまりそのあたりは関係ない。
フェニックス相手に出来れば二連勝。
ライガースとの差を、広げてしまいたい。
少なくともここでは、互角の状態で後半戦に入ってほしい。
平良が戻ってきた時に、ライガースとの差をつけていくのだ。
とはいえピッチャーが復帰して、すぐに試合勘を取り戻せるかどうか。
平良は安定しているタイプだが、それでも感覚がすぐに戻るわけではない。
今は逆に、平良が戻ってくれば、という希望を持つことによって、シーズンを戦っていくべきであろう。
実際に大平も、充分すぎるほどクローザーとして機能しているのだから。
レックスはフェニックスと、のんびりと試合をする。
だが他のカードでは、まさに盛り上がる一戦が行われていた。
東京ドームにおける、ライガースとタイタンズの三連戦。
18勝12敗のライガースと、19勝13敗のタイタンズ。
まさにこのカードにて、順位がどんどん入れ替わる。
試合前ライガース首脳陣は、少し難しい顔をしていた。
ドームのタイタンズと違って、ライガースは試合が天候で延期になりやすい。
既に今年は二試合、雨天で延期となっていた。
この試合がシーズン終盤に回されるのは、ピッチャーに負担をかけるのではないか。
それに比べるとタイタンズは、順調に試合を消化している。
ローテにしても、ライガースは去年より、いい感じで回している。
去年は高卒一年目の桜木を、数試合先発させたライガースだが、まだ一軍で投げるには早かった。
結局は大原を先発で投げさせることが多く、その大原も今年はいない。
関西大学リーグの即戦力ピッチャー御堂は、ここまで三試合に先発。
既に二勝して、まさに即戦力だという印象を、周囲に与えていた。
ライガースもライガースで、ピッチャーには苦心しているのだ。
チームカラーと言うべきか、どうしてもピッチャーたちが、勝負を挑む傾向にある。
またそれで負けてしまっても、甲子園の観客は、ちゃんと喜んでしまうのだ。
殴り合いによる点の取り合いは、確かに派手な野球なのだ。
そういう試合を好むのが、基本的なライガースファンだ。
勝ち星だけならエースクラスでも、実際にはやや低く評価される。
それがライガースのピッチャーであるのは、ある程度仕方がないのだ。
防御率やWHIPといった、ピッチャーを客観的に捉える指標。
それによるとライガースのピッチャーなどは、とてもメジャーにポスティングで行くようなものではない、と評価される。
ただ去年は移籍してきた友永が、17勝6敗という数字を残していたりする。
打線の援護がそれだけ、強力であるという証明であろう。
このライガースと対戦するのが、今年は好調のタイタンズ。
リードオフマンの存在によって、ここまでチームが変わるとは思っていなかっただろう。
将来的なメジャー挑戦を、最初からスカウトにも告げていた司朗。
それを分かっていてなお、タイタンズは獲得した。
だがこれだけの数字を残してくれていれば、タイタンズとしても充分に納得出来る。
完全にリーグでも、二番目の打者として数えられてしまっているのだ。
大介と司朗が、直接的に対戦するということはない。
だからあとは、チームをどちらが勝たせるかということだ。
もっともタイタンズは、このカードのローテはやや弱いところ。
それでも殴り合いならば、どちらが勝つのか分からないのが、このカードの面白いところであるのだ。
あとはやはり、大介と司朗の、新旧対決。
打撃部門の各種スタッツを争う、二人がどういった結果を残すのか。
点の取り合いになるであろうことは、多くの人間が予想していた。
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