第358話 こちらも終了
延期になった試合数の関係で、ライガースの方がレギュラーシーズンは一日遅く終わる。
ライガースの最後は、甲子園でフェニックスと二連戦。
これは両方勝って、クライマックスシリーズへの勢いをつけたいところ。
だがライガースは爆発力が高く、平均的に見れば基準も高いのだが、決定的なところがない。
いやこれは安定感というか、確実に勝つ部分であろうか。
フェニックスにしても上手く打線がつながれば、それなりに点が取れることはある。
最下位が確定しているからこそ、自分の数字だけはマシにしようと、攻守共に頑張るわけだ。
ただピッチャーの場合、大介を打ち取ろうと無理をしたりする。
そこでこつんと叩いて、久しぶりの一試合2ホームランなどを記録した。
それでも一試合目は負けたのだから、野球というのは分からないものである。
ホームランが二発とも、ソロであったのが理由かもしれないが。
だが二戦目は、大介が単打一発に終わったにもかかわらず、試合では勝利していた。
一人のバッターだけに、依存しない戦力。
下位打線からも一発が出るのが、ライガースの怖いところと言えば怖いところだろう。
そして143試合が終了した。
90勝53敗。勝率にすれば0.629という、優勝していてもおかしくない数字であった。
九月の成績は、14勝7敗。
これだけ勝っても追いつけなかったのである。
もっともレックスの場合は、95勝47敗1分。勝率で0.669という飛びぬけたもの。
九月の最終月も、実は13勝6敗と、楽な日程で戦えた有利はある。
ライガースとの直接対決最終二連戦の後は、五連勝しての優勝。
やはりあそこの勝負で、完全に流れが決まったと言えるであろう。
一応はかなりぎりぎりまで、優勝の可能性は残っていたのだ。
それでも最終戦にはもつれこむことなく、レックスが逃げ切ったと言える。
四月の時点でレックスは、既に19勝8敗1分というスタートであった。
対してライガースも16勝12敗。
悪いスタートではなく、とにかくレックスが良すぎたのだ。
そこから差は縮まりはしても、抜くことが出来ずに決着に至る。
どこをどうしたら、レックスを抜くことが出来たのか。
それはむしろ、どうしてレックスが勝てたかを分析した方が早い。
勝敗を見れば普通に連敗はあるが、三連敗はないのだ。
もっとも連勝にしても、歴史に残るような連勝記録はないが。
ただ五連勝以上という数字を、何回も残している。
つまりチームの力が安定していて、引きずる負け方をしていないのだ。
ただライガースも三連敗は二度しかない。
五連勝以上したことも、複数回ある。
ただ爆発力があると言っても、ものすごい勢いで連勝していった、ということがなかったのだ。
あとは勝敗を見てみれば、明らかなことがまだある。
レックスは基本的に、勝敗が先発についていることが多い。
対してライガースは、先発以外に勝敗がついていることが多いのだ。
先発ピッチャーの安定感が問題なのか。
ただ友永などは25登板の17勝6敗と、ほぼ勝敗の星がついている。
やはり野球は先発ピッチャーが、一番勝敗を左右するのだ。
だからMLBにおいても、ポストシーズンの試合においては、ピッチャーにかなり無理をさせる。
畑や津傘も友永と、それほど違う数字ではない。
計算外だったのはフリーマンの数字なのだろうが、24先発で10勝6敗と、ちゃんと二桁勝利はしているのだ。
レックスのピッチャーよりも、防御率は低い。
だがエース格と言える選手は、直史を除けばあまり変わらない。
打線の援護があってこそ、これだけ勝てているとも言えるだろう。
しかしレックスも、守備力は高いと言われている。
何よりリリーフ陣が強力なのだ。
国吉の離脱はそれなりに長かったが、それでもリードして勝ちパターンにつなげたら、かなりの高確率でそのまま勝ち投手になれる。
ただレックスは、個々の打率などはいいのだが、得点力が高くない。
打線がチャンスにあまり打てていないのだ。
そのためビッグイニングが作りにくく、二桁得点の試合がなかった。
こういった部分はピッチャーにとって、やはりハンデなのである。
逆にそういうチームでも勝つからこそ、ピッチャーには価値が出てくる。
ライガースは平均得点が高く、二桁得点の試合が11試合もある。
完全にレックスとは、ストロングポイントが違うのだ。
プロ野球は試合数が多いため、結局は総合力で優勝が決まる。
もちろん主砲やエースの故障で、計算が狂うことはあるが。
レックスの場合は直史がほとんど勝っていたので、これもまた特別ではある。
大介の個人成績は、やはりとんでもないものになった。
ホームランの数は最終的に、64本まで伸びている。
打点もそれにともなって多いのだが、二番というランナーがたまりにくいポジションの割りに、随分と多くなっているのだ。
打率も四割には届かなかったが、最終的には0.395だ。
シーズン序盤では四割を打っていただけに、惜しいところはある。
ただ打率が高いというのは、それだけ確実性もあるのだ。
勝負を避けられた場面が多すぎる。
敬遠の数がとにかく多いのだ。
大介はボール球でも、打てるボールなら打ってしまう。
それを考慮に入れて、対戦相手のバッテリーはピッチングを考える。
振ってもらえるが、ミスショットにもなりそうなボール球。
これをもっと見逃していけば、大介の打率はさらに上がるのだが。
盗塁王は去年より盗塁数が増えたのに、獲得出来なかった。
リーグ二位ではあるので、それでも充分とは言えるだろうが。
これだけのスラッガーなのに、走れるというところがすごい。
なので少しの無理をしてでも、勝負にいってしまう。
足がないともっと、歩かされてしまうのだ。
最終的には出塁率も、0.583と五割をオーバーしている。
二打席あれば確実に、一打席は出塁するというものだ。
ただこれはライガースが、他のバッターも強力であるため、大介を歩かせると失点が増える、というデータを出しているためだ。
大介を二番に置いたことによって、一試合に五打席が回ってくることが多いライガース。
そうでなければ累積するタイプの成績は、ここまで伸びなかったであろう。
143試合全てに出場した大介。
まだポストシーズンが残っているが、このオフも契約更改が面倒なことになるだろう。
ただ甲子園を毎年満員にしているのは、やはり大介の力と言える。
ライガースファンは暗黒時代でも、また別の楽しみ方をするファンだ。
もちろんチームが勝って、優勝争いをした方がいいのは決まっている。
ただ野球というスポーツは、試合の結果というもの以外に、一つ一つのプレイで見所があったりする。
大介の打つホームランは、代表的なものだろう。
またピンチを迎えた時のピッチャーや、チャンスを迎えた時のバッター。
その対決というのも、見ていて充分に価値のあるものだ。
試合を通して見るのならば、直史のピッチングであろうか。
淡々と打者を打ち取っていくスタイルは、下手をすれば退屈とも思われかねない。
だがそれが積み重なっていくと、芸術的なピッチングともなるのだ。
直史の個人成績は、そもそもシーズンを通して調子を崩さず、ローテを守りきった時点で立派である。
だがその中身こそ、まさに規格外のものであるのだ。
今年は26登板25勝0敗。
もう当たり前のように、シーズン無敗で最後まで投げきった。
一試合だけは勝ちがつかなかったが、失点はしていない試合だ。
失点が結局はソロホームランの一本だけであったため、防御率は0.04となっている。
またWHIPについても、0.19という数字。
一試合に投げて、ランナーが二人も出ない、というぐらいの数字であるのだ。
奪三振数は235で奪三振率は10.27となる。
他には全試合クオリティスタート、25試合ハイクオリティスタートなどということもある。
しかしこれらの、一般的に重視される数字とは別の、直史だけに存在する記録。
パーフェクト三試合、ノーヒットノーラン二試合。
そしてマダックス13試合のうち、一試合がサトーである。
まだ発表はされていないが、沢村賞の候補が他にいない。
いや、直史がいなければ、他の候補もしっかりといるのだが。
ともかく先発投手のタイトルは独占した。
これでも投げたイニング数や、奪三振の数などは、去年よりも低下しているのだ。
量は減ったが、質は向上している。
そんな直史のピッチングは、確かに沢村賞の対抗馬がいない。
先発ピッチャーで防御率が1を下回る者はおらず、20勝以上したピッチャーもいない。
奪三振でも対抗馬がいないという、完全な投手五冠なのだ。
あとはシーズンMVPであるが、これもおそらく直史が選ばれるだろう。
対抗馬となりそうなのは、バッターで大介のみ。
比較の仕方が難しいが、それでも言えるのは二人が突出しているということだ。
ただ結局は優勝したチームである、レックスの直史に与えられるのが無難であろう。
大介を軽んじるわけではないが、比較の仕方が難しいなら、これはチームの成績で左右するべきなのだ。
同じチームに二人がいたなら、それはさらに面倒なものになっていただろう。
その場合は直史が沢村賞とクライマックスシリーズなどのMVPを獲得し、大介がシーズンMVPに選ばれるといったぐらいの調整がされただろうか。
しかしレックスも、ポストシーズンはともかく、オフシーズンは色々と難しくなるだろう。
先発の中でもかなりの貯金を作っていた、三島がMLBにポスティング移籍する。
これはレックスがあまり資金力に余裕がないというか、直史に年俸を払うためにも必要な収入なのだ。
もっとも直史としては、年俸以外の収入の方が、はるかに多いのである。
事業収入が多いのは、会社を経営しているからだ。
実際には社長は他にいて、直史が大株主であったりするわけだが。
やれることは色々とあるが、全てをやるには時間がなさすぎる。
だから任せられる人間も、色々と集めているのだ。
単純に周囲の人間のことだけを考えるなら、チームはポストシーズンに進出しない方が、直史としては楽であったりする。
ただクライマックスシリーズもファーストステージを飛ばせれば、それなりに時間は作れる。
しっかりと調整をして、またチームを優勝に導く。
そこで手を抜けないところが、直史らしいところなのであろう。
このタイミングでは編成の方から、司朗の志望についても聞かれている。
レックスはちょっとという言葉が、どれだけ本気であるかという確認だ。
司朗がレックス以外を志望するのは、直史と戦いたいがため。
大介が上杉と対戦するために、スターズ以外を志望したのと、同じような理由である。
司朗が本気であるのは、伯父である直史はちゃんと知っている。
だからそれをそのまま伝えたし、実際に野球浪人もする覚悟がある。
一年浪人した場合、レックスだけは次の年に、司朗を指名できなくなるのだ。
直史の眼から見ても、司朗は充分にMLBで通用するスペックを持っている。
外野手としてはほぼ織田と等しい守備力を持っているが、肩の力と打撃力は、織田よりも上であろう。
織田も今年はスタメン出場はなく、終盤の守備固めで使われるか、代走で使われることが多かった。
さすがにもう引退なのだろうな、と多くの人間は思っている。
そもそも守備と走塁だけで、ベンチに入っているという時点ですごいのだ。
あと何年、現役でいられるのか。
直史は自分の現役期間は、基本的に大介に合わせようと考えている。
同時に引退するのもなんだし、体が言うことをきくならば、一年だけ長く続けてもいいかな、という具合だ。
自分に出来ることと言うか、自分がやらなければいけないことが、他にも色々とあるのが直史である。
会社を作って色々とやっているが、役員の一人でしかない。
ただ資金を出すのは、相当にやってはいる。
MLB時代に稼いだ金を、上手く回しているのだ。
昇馬がもしもプロ入りするなら、それと一年だけ勝負して、そこで引退してもいい。
事前のケアをしっかりしているが、それでもあちこちの体が疲労している。
ポストシーズンで昔のように、連投するのはもう無理がある。
衰えたと思ったならば、その時が引退の時であろう。
今は衰え以上に、経験の蓄積でどうにかなっているが。
今年のポストシーズン、果たしてどのように動いていくのか。
直史としてはライガース相手で、二試合投げるのが精一杯かなと思っている。
日本シリーズも、三試合が精一杯。
どこかであと一つ、味方のピッチャーに勝ってもらいたい。
大介との勝負にしても、避けられるものなら避けたい。
だが興行的にはそれは、あまり好まれないものであろう。
それに直史としても、己の限界を知りたいのだ。
司朗の上昇曲線と、自分の下降曲線は、どこかで交じるであろう。
そこで打たれるようになれば、無敗記録も終わるかもしれない。
敵の中軸に普通に打たれるようになれば、それが限界であるのは間違いない。
直史はそういう気持ちで、野球をやっている。
チームの勝利のために考えているが、本能的には、また自分の感情の上でも、大介とは対決したいのだ。
お互いにお互いを認め合って、そして勝負をする。
どちらかがはっきりとした衰えを見せれば、そこで選手生活は終わるだろう。
直史の場合は引退すれば、色々と野球に関するポストが、向こうから声をかけてくる。
そもそもプロ野球において、選手のセカンドキャリアなども、考えていくべきなのは確かなのだ。
このあたりのポイントをちゃんと押さえていけば、政界においても役に立つかもしれない。
多くのプロ野球選手には、タニマチと呼ばれる後援者がいる。
そことのつながりも、直史としては持っておきたい。
このあたり色々と、考えることが多すぎる。
ただライガースとカップスが試合をしている間は、ゆっくりと調整が出来る。
日本シリーズが終われば、またオフシーズンとなるが、色々とやらなければいけないことは多い。
しかしその間も、自分の衰えを防がなくてはいけないのだ。
(まあプロ野球選手の場合、普通は引退してからの方が、人生は長いんだしな)
直史は日本人男性の、平均寿命の半分を超えている。
だからかなり、例外的な存在ではあるのだ。
野球ばかりではなく、年を重ねても自分が出来ること。
それを直史は考えている。
スポーツ選手とは違って、男の40代などは、まだまだ働き盛りである。
それを考えて直史は、野球をしているのだ。
つくづくめんどくさい考えの人間であった。
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