第408話 えげつない力

「お、俺ですか!?」


 悠真は驚いて天王寺に聞き返す。


「それしか考えられんだろう。天使がこんなに集まる理由が、他にあるのか?」


 悠真は「うっ」と唸って顔を歪める。ルイや明人、石川も反論は思い浮かばないようだ。確かにそうかもしれない。

 悠真はもう一度空を見上げる。

 天使はさらに数を増し、円を描くように整列していた。やはり全ての天使が悠真を見下ろしているような気がする。


「なんにせよ、ここで戦うのはまずい! 場所を変えよう」


 悠真の言葉にルイは「うん」と頷き、明人も「せやな」と同意した。


ひらけた場所に行こう。ここからなら、あかつきふ頭公園か海の森公園辺りがいいよ。あそこなら広いし、人口密度も低い!」


 ルイの提案に、悠真は「分かった!」と返し、『金属化』を発動する。黒鎧になると、すぐに手の甲にある"宝玉"の力を解放した。 

 周囲に炎が渦巻き、黒鎧が一瞬でエンシェント・ドラゴンに変わる。

 天王寺と石川は熱風にあてられ、驚いて後ろに下がる。


「あれが三鷹なのか……ドラゴンにまでなれるなんて」


 天王寺は驚愕し、石川も言葉を失う。エンシェント・ドラゴンは大きな羽をはばたかせ、空へと舞い上がる。

 明人もゲイ・ボルグに飛び乗り、上空へ飛んでいった。

 ルイも足元を爆発させ、高々と飛び上がる。さらに中空で火球を生み出し、その火球を足場に空を昇っていく。

 火球は踏まれるたび小さな爆発を起こしたため、ルイはそれを推進力にして上空へ駆け上がった。

 一定の高度に達すると全身に炎の渦を巻き、悠真と明人を追いかけるように飛んでいく。

 一瞬のできごとに天王寺と石川は唖然としていた。


「おい……ルイや明人も飛んでいったぞ。あんなこと、いつできるようになったんだ?」


 天王寺の疑問に、石川は「さあ……」としか答えることができなかった。


 ◇◇◇


 空を駆ける悠真はチラリと上空を睨む。やはり天使たちは自分を追いかけてくるようだ。 


 ――狙いは俺なのか……でもなんで?


 答えはでない。悠真が視線を落とすと、東京湾が見えてきた。その手前にある海の森公園に向かって滑空していく。

 ドラゴンが地面に降り立つ刹那、悠真は"変身"を解除し、黒鎧の姿に戻った。

 ドスンッと着地して、視線を上げる。明人とルイも悠真に続き、人気ひとけのない空き地に降り立つ。

 三人はそろって空を見上げた。

 天使たちはさらに数を増し、間違いなくこちらを見下ろしている。総勢は数十万に達しているだろう。

 空を埋め尽くすほどの天使を見て、悠真たちはかつてない圧迫感に息を飲む。


「やるしかないようやな。あいつらが放っとるのは殺意以外のなにものでもない。完全にりにきとる」

「ああ、戦いはさけられないな」


 天使が臨戦態勢に入ったのが分かる。今まで攻撃してこなかったのは、数がそろうのを待っていたのだろう。

 数限りない天使たちが、翼をバサリとはためかせ一斉に降下してくる。

 右手に光の剣を持ち、左手には光の盾を持っていた。下位の天使らしいが、これほどの数だと簡単には倒せない。

 悠真は左手の"宝玉"に意識を向ける。ルイと明人も武器を構えた。

 悠真は空を睨み、全身に力を入れる。


「いくぞ!!」

「ああ!」

「うん!」


 悠真の左手にある宝玉が金色に輝く。周囲に稲妻が渦巻き、莫大な魔力が周囲に向かって放出された。

 地面が爆発し、光の柱が立ち上る。天使たちは警戒するように散開した。

 次の瞬間――巨大な二つの閃光が空を駆ける。

 光に当たった天使は瞬く間に消滅した。二つの光は薙ぐように横に移動し、数万の天使たちを消し去っていく。

 地上を覆っていた煙が晴れてくると、そこにいたのは黄金に輝く巨人。

 悠真が【黄の王】に変身し、"滅殺の閃光"で天使を蹴散らしたのだ。

 それを見ていた明人は、「負けてられへんな」と言ってニヤリと笑う。ゲイ・ボルグに飛び乗り、空へと駆け上った。

 六つの穂先が飛び出し、明人と並行して空を飛んでいく。それはまさに"稲妻"そのもの。

 明人は空中をジグザグに駆け巡り、天使たちの体を貫く。

 天使は"光の障壁"を展開するも、下位の天使が使う魔法など、明人に取ってなんの意味もなかった。

 あっと言う間に数百の天使が絶命し、光の粒子となって消えていく。

 ルイも負けてはいない。二本の刀を抜くと、中空を何度も斬りつけ、炎の鳥を出現させる。鳥は空に舞い上がり、弾けて無数の矢になった。

 百を超える"炎の矢"は、天使の体を正確に捉える。

 次々に爆発が起こり、一瞬で百体以上の天使が消滅する。

 ルイは手を緩めない。何度も刀を振るって炎の鳥を出現させ、無数の鳥を何十何百といった『矢』に変えていく。

 天使は一斉に滑空してくるが、ルイはお構いなしに迎撃する。


『やるな、あいつら』


 黄の王となった悠真は、ルイたちの戦い方に目を見張った。自分も負けてられないとばかりに、空に向かって手をかざす。

 バチバチと稲妻が渦巻き、放たれた"閃光"によって数万の天使が消し飛ぶ。

 それでも天使たちは悠真に襲いかかろうと接近してくる。悠真は黄金の体に力を込めた。

 周囲に稲妻が走り、近づいてきた天使を薙ぎ払う。

 さらに稲妻が渦巻き、巨人の姿を覆い隠す。強い光が弾けると、その中心から一体の竜が現れる。それは巨大な黄金竜――黄の王が変身した姿だ。

 悠真は羽ばたいて上昇する。風圧で砂埃が舞い、天使たちも気圧けおされたのか動きを止める。

 黄金竜の口がガバリと開き、強烈な"閃光"が空に放たれる。

 天使は羽虫のように死んでいき、数をどんどん減らしていった。近づいてくる天使も、黄金竜が生み出す"稲妻の障壁"を前にすべがない。

 バチバチと渦巻く障壁は、いかなる者も寄せ付けない。


 ――これが【黄の王】の力か……やっぱりえげつないな。


 悠真は鎌首を持ち上げ、再び"稲妻のブレス"を放つ。襲ってこようとしていた数万の天使は、光にあてられ消滅した。

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