第12話 青のダンジョン

 自分の部屋に戻って来た悠真は、測定器の入ったバッグを放り投げる。

 勉強机の椅子に座り、ガックリと項垂れた。


「なんだよ、くっそ! 19800円も払ったのに、無駄な出費だった!!」


 悠真は腹を立てたが、どうにも納得できない。

 電気屋の店員は、スライムをいくら倒してもマナ指数は上がらないと言ったが、倒していたのは普通のスライムではない。珍しい金属スライムだ。


「あんなに倒してゼロってことはないだろう!」


 だが正確なマナ指数が分からなければ、『魔鉱石』を使うことができない。0.1単位で測定するにはどうすれば……悠真はスマホで調べてみる。


「う~ん、精密に計れる測定器は十万以上するのか~。中古でも七万……とても手が出ないな」


 かと言って調べずに『魔鉱石』を食べれば、最悪の場合体に取り込まれず、う〇こになって出てくる可能性がある。悠真は手に取った魔鉱石を、まじまじと見つめる。


「まあまあのデカさだな。こんなのお尻から出てきたら大変なことになるかも……」


 ゾッとして息を飲む。直径二センチの鉄球を、だれもお尻から出したくはないだろう。悠真は改めて、マナ指数を知る方法がないか調べる。

 するといくつかの記事がヒットした。


「ダンジョンにある測定器?」


 それは東京都が管理するダンジョンのホームページだ。

 武蔵野市にある『青のダンジョン』は低層階であれば子供でも入れる人気のスポット。そこに入場料を支払って入れば、無料でマナ指数を計ってもらえると言う。


「なんだ、こんなのがあったのかよ!? しかも精密なマナ測定器が使えるって……これだ、これ!」


 悠真が住む家は東京都内ではあるが、都心から離れた郊外にある。とは言え武蔵野に行くなら、電車を使って数十分もあれば充分だ。

 悠真は財布だけを手に取り、再び部屋を飛び出した。


 ◇◇◇


 武蔵境駅で電車を降りた悠真は、改札を出て駅の周辺をキョロキョロと見渡す。


「こっちだよな」


 スマホの地図を見ながら歩いていると、数分で白いドーム状の建物が目に入る。「あれか」悠真は足を速め、その建物へと向かった。


 それは小金井公園の中に建てられた施設で、三千平米はあろうかという大きさ。

 東京ドームの小型版といった感じだが、四方を囲む白い壁は、人々の侵入を頑なに阻んでいるように見えた。

 正面の入口には受付が設置されており、悠真は自動ドアを通って中に入る。

 日曜ということもあって、けっこうな人の賑わいがあった。悠真は受付にいる女性に声をかける。


「すいません。ダンジョンに入りたいんですけど」

「初めての方ですか?」


 二十代くらいの綺麗な女性が、ニッコリと微笑む。


「はい、初めてです。お金いるんですよね?」

「ええ、入場料がいります。このダンジョンは三階層まで一般の方が入ることができますが、どうされますか?」


 どうやら潜る階層によっても料金が違うようだ。取りあえず一階層まででいいだろう。


「じゃあ、一階層で」

「かしこまりました。一階層までですと、入場料として千円頂きます。あ、学生さんの場合は学生割引がありますが、学生証などございますか?」


 悠真は財布に入っていた学生証を提示し、入場料を八百円にしてもらった。


「これが入館証になります。ダンジョンの入口は、正面をまっすぐ進んだ扉の中になります」

「あの、マナ指数を測定したいんですが……」

「マナ測定室は中に入って右手です。場所はすぐに分かると思いますよ」

「あ、どうも」


 受付の女性が「お気をつけて」と声をかけてくれた言葉を背中で聞きながら、しばらく歩いていると、『マナ指数計測室』と書かれた立て看板が目に入る。数人が並んでいたが、それほど多くもない。

 悠真は番号札をもらい、廊下にあるソファーに座って待つことにした。

 そわそわしながら待っていると、十分ほどで声がかかる。


「286番の方、どうぞお入り下さい」

「あ、はい!」


 悠真は番号札を片手に、マナ計測室へと足を踏み入れた。

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