第326話 アメリカの魔法付与武装

「ガルドムンド……【黄の王】の名前が分かってるんですか?」


 悠真は眉を寄せながら尋ねる。するとオーランドはフフッと微笑み、ケージの扉を開けて鳩の頭を撫でる。


「そりゃぁ知ってるさ、アメリカとイスラエルは繋がりが深いからね。イスラエルにある『国際ダンジョン研究機構』の情報は、他の国より多く入ってくるよ」

「その【黄の王】がこの辺に来るちゅうことか!?」


 興奮した明人が一歩前に出る。オーランドはケージを閉め、悠真たちに向き直った。


「確かに、【黄の王】はこの近くに来たことがある。でも神出鬼没でね。またここに来るかどうかは、正直分からないんだ」

「なんや! 期待させよって」


 明人はガッカリして頭を振る。そんな明人に代わって、ルイが口を開いた。


「それで、もしこの辺りに【黄の王】が現われたら、みなさんはどうするつもりなんですか?」

「そりゃぁ、連絡して討伐隊が来るのを待つさ」


 当たり前のように言うオーランドに、ルイは「討伐隊?」と聞き返す。


「アメリカ最強の探索者集団クラン、"プロメテウス"を中心とした討伐隊だよ。【黄の王】を倒すために作られた組織だからね。そりゃ、強いのなんのって――」

「アルベルトさんもいるんですよね!」


 ルイが食い気味に口を挟む。オーランドは苦笑して「もちろん」と答えた。


「討伐隊のリーダーは"炎帝アルベルト"だよ」


 それを聞いて、ルイはホッと胸を撫で下ろす。プロメテウスが壊滅した、という噂を、まだ心配していたのだろう。

 会話が途切れたところで、悠真は一番気になっていたことを口にする。


「アメリカの犠牲者ってどれぐらいいるんですか? それに、生き残った人たちって今どこに避難してるんですか?」

「う~ん、そうだな」


 オーランドの表情がわずかに曇る。


「魔物に殺された人の数はハッキリしない。五千万人とも六千万人とも言われているけど、時間が経っているからもっと増えているかも……」


 やはり、かなりの犠牲者が出ているようだ。悠真が暗い顔でうつむくと、オーランドが「でもね」と声を弾ませる。


「大多数の人たちは避難して、無事に暮らしているよ。【黄の王】は自分が出てきたダンジョン『ラース・オブ・ゴッド』を中心に行動してるから、そこから離れた場所は比較的被害が少ないんだ」

「"ラース・オブ・ゴッド"って、どこにあるダンジョンやったっけ?」


 明人に問われたオーランドが笑顔で答える。


「アメリカ北西部のモンタナ州だよ。だから、【黄の王】が来ない南部やアラスカに避難した人が多いんだ。もっとも、別の魔物に襲われることはあるけどね」

「でも、モンタナ州を中心に動いてるんなら、ニューヨークはかなり遠いですよね。だとしたら【黄の王】はどうしてここまで来たんですか?」


 ルイが疑問をぶつける。それは悠真も不思議に思った。北西部をテリトリーにしているなら、ここまで来るはずがない。

 ニューヨークに避難民が多くいてもいいはずなのに。


「それはまた別の理由があるんだ。それは――」


 オーランドが答えようとした時、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。


「オーランド! ビルの下に魔物の群れが集まってる。ほっとくとマズいかもしれないぞ!」


 報告しに来たのは悠真たちを案内してくれた探索者シーカーのロッドだ。その話を聞いて、ジャックやオーランドの顔にも緊張が走った。

 オーランドはすぐに指示を出す。


「ジャック、みんなを集めてくれ」

「ああ、分かった」


 ジャックはきびすを返し、急いで部屋を出ていく。


「すまないね。来て早々厄介ごとに巻き込んでしまって。この辺に魔物が集まることはなかなかないんだけど……」


 苦笑いするオーランドに、明人はニヤリと笑う。


「いやいや、ちょうどええで。運動がてら"雷の魔物"をぶっ倒しに行こうや!」


 テンションが上がる明人に、オーランドは小さく首を振る。


「残念だけど、下に集まってるのは"雷の魔物"じゃないと思うよ」

「なに!? この辺は雷の魔物が多いんとちゃうんか?」

「そのことは、あとで話すよ。君たちは戦わなくていい。俺たちが討伐に行くから、それを見ていてくれ」


 悠真たちは部屋を出て行くオーランドの背中を見送った。静かになった室内では、鳩のクックー、クックーという鳴き声だけが響いている。


「僕たちも行こうか。もしもオーランドさんたちが苦戦するようなら、僕たちが助太刀しないと」


 ルイの言葉に、悠真は「そうだな」と同意し、三人で一階に下りることにした。

 金ぴかな廊下を抜け、エレベーターで一階まで行き、豪奢なエントランスを歩く。

 正面の入り口から外に出ると、探索者シーカーたちの姿は見えなかったが、ドンッドンッという衝撃音が響いていた。


「あっちだね」

「ああ」


 ルイが視線を向ける場所に、三人は足を進める。悠真はリュックから三つに分かれたピッケルを取り出し、歩きながら組み立てる。

 ルイと明人も武器を構え、いつでも戦えるようにしておく。

 しばらく歩くと、ビルの陰で火花が散っているのが見えた。

 悠真たちは足を早め、ビルに近づいていく。そこで見たのは三体の大きな魔物と、その魔物と戦う二十人ばかりの探索者シーカーたち。

 パッと見る限り、探索者シーカー側が押されているように見える。


「あれは……ペルーダ、それにファイヤ-ドレイクとワイバーンだね」


 ルイが言った魔物たちを見る。ペルーダはブラキオサウルスに似た魔物で、口に火種を溜めていた。

 ファイヤードレイクとワイバーンは空から探索者シーカーたちに襲いかかる。


「アメリカの探索者シーカーが持ってんのは最新の【魔法付与武装】みたいやけど、空からの攻撃は防げへんな」


 明人が言うように、空から放たれる炎の吐息ブレスに、探索者シーカーたちは逃げ惑っている。

 剣や槍が竜に届くはずがない。しかし、明らかに通常とは違った武器を持つ探索者シーカーたちもいた。

 黒人のジャックは"盾"の付いたいかつい機関銃を空に向けている。

 何十発もの弾丸がファイヤードレイクに炸裂していた。

 探索者集団クランのリーダーであるオーランドも、バレルに剣を装備した銃剣のようなスナイパーライフルを構え、ワイバーンに狙いを定めている。

 竜たちはバサリバサリと羽ばたき、かなり嫌がっているように見える。

 悠真はハハと頬を崩す。


「すげー! イギリス軍も同じような武器を使ってたけど、威力が段違いだな」


 ルイも頷いて空を見る。


「確かに……あれは探索者シーカー用に作られた武器だね。軍人が使えるようにカスタマイズした物とは、次元が違うよ」


 ジャックやオーランドの戦いに、悠真は目を輝かせた。


「…………あの武器……かっこいいな」

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