第327話 三人の力

「もう少しだ! 攻撃を集中させろ!!」


 オーランドの鼓舞に探索者シーカーたちが反応する。


「おうよ!」

「こっちは任せとけ!!」

「あと一押しだ!」


 ワイバーンが悲鳴を上げながら落下してくる。ジャックとオーランドの銃撃が効いたのだ。

 地上で藻掻くワイバーンに、剣や槍を持った探索者シーカーたちが襲いかかった。


「ギイエエエエエエエエエッ!!」


 "水"や"雷"の力を帯びた武器に体を貫かれ、魔物は断末魔の声を絞り出す。ピクピクと痙攣したあと、グッタリと動かなくなり、砂へと変わった。


「まだまだ!!」


 ジャックが機関銃の銃口を、四足歩行のペルーダに向ける。

 何十発も撃ち込まれる銃弾。空になった薬莢がカラカラと地面に落ち、ペルーダは血を噴き出してあとずさる。

 だが、ペルーダはガンッと後ろ足を踏みしめた。

 頭を上げ、口から灼熱の火炎を吐き出す。狙われたのはジャックだ。

 迫りくる炎を、ジャックはかわそうとしない。代わりに機関銃についた"盾"を正面に向けた。

 埋め込まれた四つの魔宝石が輝き出す。

 "雷"の魔力が放出され、強力な魔法障壁が展開される。炎を阻み、勢いを完全に殺してしまう。


「今だ!!」


 ジャックの叫びに周りにいた探索者シーカーたちが反応する。動きの鈍ったペルーダに襲いかかり、次々に武器を突き立てていく。

 大型の竜はグラリと揺れ、そのまま地面に倒れた。

 最後は大量の砂となり、サラサラと風に舞って消えていく。


「あとはファイヤードレイクだけだ! 攻撃を集中させろ!!」


 オーランドの指示に、仲間たちは「「おおっ!!」」と士気を上げる。唯一残ったファイヤードレイクに攻撃が集まり、とうとう息の根を止めた。

 ジャックとオーランドはハイタッチし、他の探索者シーカーたちも互いの労をねぎらう。

 全員が笑顔を見せた時、西の空からなにかが飛んでくる。それに気づいた探索者シーカーの一人が空を指差した。


「お、おい! あれ……」


 ジャックやオーランドも空に目を向ける。またファイヤードレイクやワイバーンかと思ったが、明らかに姿形すがたかたちが違う。

 オーランドは手でひさしを作り、目を細めて彼方を見る。

 真紅の体に大きな翼、竜種であることは間違いない。三体の竜は編隊を組んで滑空してくる。


「エンシェントドラゴンだ! 全員、散開しろ!!」


 絶叫するオーランド。探索者シーカーたちはすぐに走り出した。エンシェントドラゴンは黄金竜と並ぶ最強のドラゴン。

 ワイバーンなどとは、強さの桁が違う。

 一匹でも倒すのが困難なのに、それが三体も向かって来る。自分たちレベルでは勝ち目がない。

 そう思ったオーランドは迷わず撤退を決めた。

 問題は逃げ切れるかどうか。苦々しい顔で周囲を見回していたオーランドだったが、通りの向こうから来る人影に気づく。


「あれは……」


 その人影が誰かはすぐに分かった。日本から来たと言った三人の探索者シーカーだ。

 よりによってこんなタイミングで! と思うものの、見捨てる訳にもいかない。オーランドは大声で叫ぶ。


「こっちに来るな! 殺されてしまうぞ!!」


 大声を出した甲斐あって、こちらには気づいたようだ。しかし、三人は手を振りながら歩いて来る。

 どんな危険が迫っているかも知らずに。


 ◇◇◇


「あれ、エンシェントドラゴンちゃうか?」


 明人が遠くの空を見ながら言うと、悠真が「ホントだ。懐かしいな~」と呑気な声を上げる。その話を聞いていたルイは、


「そんなこと言ってないで助けに行かないと。さすがにエンシェントドラゴンを相手にするのは大変だと思うよ」

「せやな。じゃあ、一人一体づつでどや?」


 明人の提案に、悠真は「いいね。それで行こう」とピッケルを構えた。

 ルイも「まったく」と言いながら灼熱刀を鞘から抜く。明人がペッペと両手に唾を吐き、しっかりとゲイ・ボルグを握って空を睨んだ。


「ほな、行こか!」


 三人が一斉に地面を蹴る。先行したのはルイだ。

 凄まじい速さで大地を駆け、一瞬にして滑空してくるエンシェントドラゴンの下に立つ。

 あまりの速さに、アメリカの探索者シーカーたちはルイが走り抜けたことに気づかない。

 口に火種を溜めたドラゴンが突っ込んでくる。

 炎を吐き出す刹那、ルイの刀が弧を描き、剣閃が煌めく。エンシェントドラゴンは首が落とされたことに気づかないまま絶命した。

 竜が地上に落下して、オーランドたちは初めてルイの姿を視認する。


「なんだ? なにが……」


 呆気に取られるオーランドの後ろから、ガラの悪い声が飛んでくる。


「オラオラ、次はワイの番やで! そこどかんかい!!」


 ゲイ・ボルグに乗った明人が空を滑るように飛んでいく。一気に上昇し、槍の穂先が竜の喉元に迫った瞬間、激しい光が辺りを覆った。

 オーランドやジャックが手で光を防いでいると、空から黒焦げになったドラゴンが落ちてくる。地面に激突し、大量の砂ぼこりが舞った。


「ハッハッハ、どないや! あとは悠真、お前だけやで!」


 明人の発破をかけられ、「おう!」と言って悠真が走って来る。

 仲間が倒され、残ったエンシェントドラゴンは上空でバサリと羽ばたき、旋回して逃げようとした。

 悠真はピッケルを構え、空を睨む。


「逃がすかよ!!」


 ピッケルを横に薙ぐと、目の前に巨大な竜巻が発生した。天と地を繋ぐほどに成長した竜巻は、うねりながら竜に襲いかかる。

 風の猛威に巻き込まれたエンシェントドラゴンは、逃げること叶わず、竜巻の中で体をズタズタに引き裂かれた。

 コマ切れとなった竜は、空中で砂となる。


「よしよし、一発で倒せたな。俺の魔法も精度が上がってる」


 悠真はフンと鼻を鳴らし、ピッケルを肩に乗せた。

 その様子を後ろで見ていたジャックとオーランドは、なにが起きたか理解できず、困惑したまま立ち尽くす。


「おいおい……お前ら、一体なんなんだ?」


 ジャックが尋ねると、悠真は振り向き、にやりと笑った。


「俺たちは【黄の王】を倒しに来たんです。そのためには"プロメテウス"に会わないと……。どこに行けば会えますか?」


 ジャックはゴクリと喉を鳴らし、黙り込んでしまう。

 あまりに鮮やかな戦いぶり。この三人が並みの探索者シーカーでないことは、その場にいた全員が理解していた。

 悠真の問いにオーランドが答える。


「……分かった。案内しよう。炎帝アルベルトが率いる"プロメテウス"の元へ」

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