第240話 アニクの考え
「どうして、それを……」
ルイが苦々しくつぶやく。カイラは「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「日本に現れた"黒の
「それは……」
ルイが
「私が知る限り、世界中から集まった
カイラは剣の切っ先を悠真に向けたまま、チラリと目を動かす。
少し離れた場所にアニクと
――地上でこの男が【黒鎧】だと分かっていれば、姉さんと一緒に倒すこともできたのに。
カイラは
こうなればアニクたちと共闘するしかない。彼らなら黒鎧を相手にしても、後れを取ることはないだろう。
そう思ったカイラはアニクに視線を送る。アニクも気づいたようで、
三人の日本人が動かないよう牽制しつつ、ゆっくりと回り込みアニクに近づく。
「アニク殿! 助力をお願いします!」
大声で叫んだカイラに対し、アニクは「やれやれ」といった表情で首を振る。慌てる様子はなく、腰に手を当てながらやってきた。
「まあ、待てカイラ。彼らの意見も聞くべきじゃろう、いきなり剣を向けるなど
「し、しかし!」
思いもよらない発言にカイラは驚いた。
「ここはわしが預かる。全員、武器を収めよ」
「それはできません! あなたは知らないんです、日本に現れた【黒鎧】という魔物がどれほど恐ろしいと言われたか!」
日本人の元へ行こうとしていたアニクは足を止め、振り返ってカイラを見る。
「確かに知らんな、そんな魔物のことは。しかし、わしは人間と話がしたいんじゃ、邪魔はせんでもらえるかのう?」
普段、穏和な印象を受けるアニクの目がギラリと光る。カイラは
実力者であるアニクを敵に回すことはできない。カイラは唇を噛み、剣を下ろす。
アニクは
◇◇◇
「ひゃっひゃっひゃ、お主ら三人はよくよくわしらを驚かせてくれるのう」
「すいません、アニクさん。もっと早く話しておけば良かったんですけど……」
悠真が眉尻を下げ、申し訳なさそうに言う。
「よいよい、地上で言っておれば、ダンジョンには入れんかったじゃろう。それで、お主らはこの先どうするつもりじゃ?」
真剣な表情になったアニクに、悠真は真正面から答える。
「最下層にいる魔物を倒します。ダンジョンを攻略して、インド政府から"魔宝石"をもらうのが目的ですから」
「ふむ……」
アニクは顎髭を撫でながら考え込む。しばらくすると、伏せていた視線が再び悠真に戻ってきた。
「分かった。カイラにはわしから言っておこう」
アニクは後ろに控えていた
「アニク殿! ヤツらは危険です。なにを
激しい口調のカイラを手で制し、アニクが口を開く。
「目的は我々と同じ、ダンジョンの攻略だと言っておる。見返りに、インド政府から報酬がもらえるそうじゃ」
「そんな話を信じたんですか!? そもそもヤツ等がインド政府から正式に要請を受けたかどうかも確認が取れていない。
まくし立ててくるカイラを前に、アニクは白い顎髭を撫でる。
「良いではないか」
「え!?」
カイラは呆気に取られた。
「い、いいはずがありません! 場合によっては我々攻略組の生死に関わるかもしれないんですよ!?」
「どの道、わしらが生きて帰れる可能性などほとんどない。それはお主も分かっておろう」
「それは……」
カイラはなにも言えなくなる。この作戦に参加した
ダンジョンを攻略して無事帰還できるなど、カイラ自身も思っていなかった。
「あの男……三鷹悠真の戦いを見たじゃろう。わしらが束になった所で、勝てるとは到底思えん」
カイラは視線を三鷹に向け、拳を握り込む。アニクの言う通り、黒い魔物に変身した三鷹悠真の力は常軌を逸していた。
セルケトを簡単に
再生能力の高いカルパヴリクシャでさえ、一撃で倒していた。例え姉のダーシャがここにいたとしても、勝てるかどうか分からない。
認めたくはないが、それほどまでに圧倒的な力だった。
カイラの動揺を見て取ったアニクは、諭すように話を続ける。
「仮に、彼らが敵対するような考えを持っておったとしても、それで我らの運命が変わる訳ではない。ならば彼らを信じ、力を貸してもらうのが得策じゃろう」
アニクは少し離れた場所にいる三鷹に視線を向ける。
「彼らが本当に助力してくれるなら……『ドヴァーラパーラ』の攻略、可能かもしれんぞ」
カイラは下唇を噛む。反論する言葉は、なにも出てこなかった。
◇◇◇
カイラと話を終えたアニクが、こちらに歩いてくる。悠真は緊張した
「話はついた。このまま下層へ向かう」
「ホントですか!?」
悠真が思わず叫ぶ。
「ひゃっひゃっひゃ、本当じゃよ。誰もダンジョンの深層で、殺し合いなどしたくないからのう」
「良かった……」
悠真の心の底から出た言葉だった。明人も口の端を上げ、「シシシ」と笑う。
「やるやないか、じいさん。ワイもこんな所で貴重な魔力、使いとうなかったわ」
ルイも頷いてお礼を言う。
「ありがとうございます、アニクさん。カイラさんも納得してくれたんですか?」
「カイラや他の
アニクは後ろからついて来ていた
水を向けられた大柄の男は、苦笑しながら頬を掻く。
「アニク様がそうおっしゃるなら、我らに異論はありません。
大柄の男、ルドラは
「アニクさん、僕らも全力で戦いますから、
「ひゃっひゃっひゃ、頼もしい限りじゃわい。ところで、お主」
突然、アニクに指を刺された悠真は、「え? 俺ですか?」と答える。
「あの黒い魔物の力、ここまで使わんかったということは――」
アニクの垂れ下がった
「その力……時間制限があるようじゃのう」
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