第296話 新たな【魔法付与武装】

 悠真とルイは眩しくて手で光を遮る。稲妻が周囲を走り、生き物のように"魚人"に襲いかかった。


「あれは……」


 悠真は目を細めながら状況をうかがう。

 稲妻がぶつかった"魚人"たちは、一瞬で砂に変わってしまった。【水】に強い【雷】の魔法とはいえ、途轍もない威力だ。

 稲妻はさらに走り回り、龍のような姿になる。

 よく見れば、龍の頭になにかがある。先の尖った金属にも見えたが、ハッキリとは分からない。

 その金属に稲妻が巻きつき、"龍"の姿を形作かたちづくっていた。

 稲妻の龍は一体ではなく、何体もいる。空中に昇り始め、今度は大海蛇シーサンペントに向かっていく。

 大蛇は口を開け、水の息吹ブレスで対抗した。

 だが"稲妻の龍"はその攻撃をやすやすとかわし、大海蛇シーサンペントに突撃する。

 それは龍が龍に喰らいつくといった異常な光景。

 大海蛇シーサンペントは断末魔の鳴き声を上げ、その場に崩れ落ちて砂へと変わった。

 ルイと悠真は口をポカンと開け、ただ見ていることしかできない。

 大海蛇シーサンペントを殺した"雷の龍"は消えてしまったが、金属のような物は浮かび上がり、上空へと昇っていく。

 その数は六つ。なんなんだ? と思った悠真は、怪訝な顔で空を見上げた。

 空にはなにかが浮かんでいる。目を凝らせば、それが長くて大きな槍であることが分かる。

 そしてその槍の上に人が乗っていた。

 飛んでいった六つの金属は槍の穂先ほさきにドッキングして、新たな形の穂先になる。こんなことをする人間は、世界に一人しかいないだろう。


「明人!」


 悠真が叫ぶと、巨大な槍はゆっくりと下りてきた。信じられないが、

 五メートルほどの高さまでくると、明人は「よっ」と言って飛び降りた。

 着地すると土煙が上がり、懐かしい顔がニッと笑っている。悠真とルイはすぐに駆け寄った。


「良かった明人! 新しい武器ができたんだね」


 ルイの言葉に、明人は「まあな」と言い、ポリポリと鼻を掻く。

 空中に浮かんでいた槍は、パチパチと放電しながら垂直となり、明人の手の中におさまった。


「それって……」


 悠真は目を見開く。明人が持つ槍――以前使っていた"ゲイ・ボルグ"とは、かなり形が変わっている。

 先端部分には丸い輪っかのような物が付いていた。

 まるで錫杖しゃくじょうのようだ。その輪っかに穂先が付いているのだが、穂先は一つではない。

 輪っかの左右にも、三本づつ穂先があった。さっき飛んでいたのはこの部分だ。

 柄の中央には特殊な装飾がほどこされ、三つのイエローダイヤモンドが見て取れる。複数の魔宝石を使った【魔法付与武装】。

 高度な技術が使われているのは間違いない。


「すごいな。それ、アニクさんに作ってもらったんだろ? 前のゲイ・ボルグより、数段強くなってないか?」


 悠真が感心して言うと、明人は「せやろ、せやろ」とご機嫌だ。


「これはアニクの爺さんが使ってた武器を応用して作っとるんや! この左右についた六つの穂先が自由自在に飛び回るからな。これでどんな的でも追尾して仕留めるんや、えげつないやろ?」


 自慢げにニッシッシと笑う明人。確かにアニクが使っていた扇状の【魔法付与武装】は、羽のような金属が無数に飛び回り、魔物を攻撃していた。

 明人が使う武器はその技術が使われているのか。

 しかし、悠真にはそれ以上に気になることがあった。


「明人! お前、空に浮かんでなかったか? それにイギリスまで、どうやって来たんだよ?」


 よくよく考えれば、明人がどうやってイギリスに来たのかは不思議だった。悠真たちも船でやっと着いたぐらいだ。

 明人も船で来たのなら、少々早すぎる気がする。


「なんや、そんなもん簡単やで! 

「「え?」」


 悠真とルイの声が重なる。飛んできた? まさかあの槍に乗って?

 明人はフフフフと笑いながら槍を前に差し出す。


「この槍は磁力の反発によって空中に浮かび上がり、そのまま移動することができる。まあ詳しい理屈はよう分からんが、爺さんは「ワシの最高傑作じゃ!」って豪語しとったで。もっとも飛んでる時の魔力消費は激しいけどな」


 明人はなんでもないように言うが、それはとんでもないことじゃないのか? 空が飛べる【魔法付与武装】なんて聞いたこともない。


「めちゃくちゃ凄いよ! じゃあ、その武器、新しい名前とか付けたの?」


 ルイが目を輝かせて聞くと、明人は「当然や!」と胸を張った。


「こいつの名前は、【ゲイ・ボルグマークⅡ】や! どや、かっこええやろ?」


 悠真とルイは心の中で「ダサッ」と思ったが、口には出さなかった。

 かろうじてルイだけは「……かっこいいね」と心にもないことを口にする。


「せやせや、アニクの爺さんから預かってるもんがあるんや! ええっと……」


 明人は担いでいた大きなリュックを下ろし、中をまさぐる。「これや、これや」と言って取り出したのは、短い刀だった。脇差しと言うヤツだろうか?

 

「これは爺さんがルイのために作った武器や。まあ、ルイに合わせて微調整はできひんかったから、使い勝手がいいかどうかは分からんみたいやけどな。サブ・ウェポンとしては使えるやろ?」

「うん、そうだね。ありがとう」


 ルイは嬉しそうに刀を受け取り、さっそく抜いてみる。

 美しい刀身。こちらも柄の部分に、三つの『レッドダイヤモンド』が使われていた。ルイは真剣な眼差しになり、刀に魔力を込める。

 刀身にメラメラと炎が灯った。隣にいた悠真は思わず仰け反る。

 短刀とはいえ、凄まじい魔力を感じる。とてもいい刀だということは悠真にも分かった。ルイは満足し、短刀を鞘に収める。


「うん、気にいったよ。今度アニクさんに会ったらお礼を言わないと」

「せやな。この旅が終わったら、もう一回インドに行こうや。世話になったヤツらもいっぱいおるし」


 そう言ってケラケラ笑う明人。そんな明人の前で、悠真は両手を差し出す。


「なんや?」

「なんや、って俺の分は? ルイの武器を作ってくれたんなら、俺にもあるだろ?」

「お前の分なんかないで」

「ええ!?」


 悠真は驚いて固まってしまう。


「お前、あの変な武器があるんやから充分やろ。ワイらは生身の人間やから、武器の充実が必要なんや。なあ、ルイ」

「そうだね」


 ルイが半笑いで頷く。


「なんだ! 人を人間じゃないみたいに言いやがって! 俺だって変身しなかったら生身の人間だぞ! そういうのを差別って言ってだな――」


 悠真が憤慨している間に、二人はスタスタと歩いて行く。


「とりあえず、現状の説明をするよ」

「せやな。どっか落ち着ける場所見つけて話そうか」


 当たり前のように去っていっく二人を、悠真は「待てええええ!」と怒鳴りながら追いかけた。

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