第377話 底知れぬ恐ろしさ

 炎と稲妻の剣がぶつかり合う。

 悠真は右手の甲から伸びるメタルブルーの剣の切っ先を、黄の王の喉元に向ける。

 そのまま突きを放つが、【黄の王】は後ろに飛び退き、これをかわした。

 悠真はもう一度剣を構え直す。

 右手の剣からピリピリとした感覚が伝わってくる。"氷の魔力"を宿す剣であるため、雷撃の影響をより強く受けてしまう。

 本来ならマイナスの変化だが、この剣には絶大な効力もある。

 黄金の巨人が再び突っ込んできた。

 稲妻の剣に対し、今度は"氷の剣"で斬撃を受ける。

 バチバチと放電する魔力が、剣を伝い悠真の体に流れてきた。余計なダメージを喰らってしまうが、それでもいい!

 氷の剣からは大量の冷気が放出され、それをまともに浴びた【黄の王】は体を硬直させ、動かなくなる。


『だあっ!!』


 氷の剣に力を入れ【黄の王】を押し返す。悠真は間髪入れず、炎の剣を振るった。黄の王はなんとか体を引いてかわしたものの、動きは明らかに鈍っている。

 相手は冷気の影響を受けるが、悠真は体の半分を『炎の属性』に変えているため、冷気の影響は受けていない。

 やはり炎と氷の組み合わせは悪くない。

 悠真は一歩踏み込み、風の魔力を利用して一気に相手との距離を詰める。

 炎の剣と稲妻の剣で打ち合い、ギリギリとつばぜり合いして互いの剣を弾き返す。


『まだだ!』


 悠真は相手に向かって突っ込む。右手を引き、氷の剣を【黄の王】の腹に突き刺した。


「アアアアアアアアアアアアアアア!!」


 断末魔のような叫び声。剣からは莫大な冷気が流れ、相手に大ダメージを与える。

 だが、それと引き換えに"雷の魔力"が剣を伝って流れ込んできた。右腕が焼かれたように熱くなり、心臓が止まりかける。


『ぐっ!』


 悠真は激痛に耐えながら、メタルブルーの剣を引き抜いた。黄金の巨人はよろめくが、悠真も足元がおぼつかない。

 それでも歯を食いしばり、相手に前蹴りを叩き込む。

 風の魔力が爆発し、暴風が巻き起こって【黄の王】を吹っ飛ばす。

 五十メートル以上転がった黄の王は地面に這いつくばり、なんとか立ち上がろうとする。

 それを見た悠真は左手に意識を移す。

 メタルレッドの剣と鉄甲が変化し始め、赤い竜の頭へと変わっていく。

 竜の顎に炎が集まり、圧縮されて爆炎の"火球"となった。


『吹っ飛びやがれ!!』


 放たれた火球は一直線に【黄の王】へ向かう。まだ態勢を立て直せない【黄の王】に避けるすべはなかった。

 直撃して大爆発が起きる。

 極遠に広がる炎と舞い上がる土砂、並の魔物なら跡形もなくなるだろう。

 しかし相手は『雷の王様』だ。この程度で死ぬはずがない。悠真は油断なく構え、目の前に広がる煙を睨む。

 粉塵の中から黄金の巨人が現れる。だが、その体に以前のような輝きはない。

 右腕を失い、腹には風穴が空いている。爆発によって金色の鎧はボロボロ。もはや『雷の障壁』を張るほどの魔力も残っていない。

 立っているのがやっとだろう。

 それでもこちらを睨み、敵意をむき出しにしている。戦いをやめる気はないようだ。


『さすがは魔物の『王様』だな。俺も全力でお前を倒しにいく!』


 悠真は竜の頭になった左手を、再び長剣に変えた。メタルレッドの剣からは炎が噴き上がり、右手の剣には『絶対零度』の冷気が宿る。

 二つの剣を胸の前でクロスし、わずかに身を屈めて魔力を練った。

 足元では風が渦巻き、背中の筋力が盛り上がってくる。その筋力の隆起は、まるで鬼の形相に見えた。

 ボスヴァーリンが最大限の力を出すときに浮かび上がる特徴。

 悠真はこの一撃に全てを込める。

 炎と氷の魔力が剣身から噴き上がり、遙か彼方まで伸びていく。

 悠真は地面を蹴った。大地が木っ端微塵に砕け散り、瞬く間に【黄の王】の眼前に迫る。あまりの速さに相手は反応できない。

 悠真はクロスに構えた剣を振るった。黄金の巨人は左手を向け、雷の閃光を放とうとしたが、もう遅い。

 炎の剣が【黄の王】の首をね、氷の剣が黄金の胴体を両断した。

 炎が舞い、氷の結晶が辺りに飛散する。

 勝敗は一瞬で決した。【黄の王】の体は地に落ち、光の粒子となって消えていく。

 悠真は剣を下ろし、その様子を見下ろす。


 ――終わった。やっと終わったんだ。


 ふぅーと息を吐き、顔を上げる。晴れ渡った空に光の粒子が昇っていく。

 途轍もなく強かった【黄の王】を倒すことができた。悠真はフラつきそうになる体に力を入れ、こちらに走ってくるルイたちに視線を移した。 


 ◇◇◇


 悠真と【黄の王】が戦っていた大平原。その遙か上空に、アメリカ軍の偵察用ドローン『MQ-9リーパー』が飛んでいた。

 戦いの結果は魔道具の通信機器を介して、ワイオミング州にあるフランシスE.ワーレン空軍基地に送信される。

 司令室で映像を見た軍人たちは、あまりの出来事に言葉を失う。

 その中にはチャールズ空軍大将の姿もあった。


「本当に……倒したのか? あの化け物、最強の力を持つ【黄の王】を」


 答える者など誰もいない。それほどまでに信じられない光景だったのだ。

 チャールズは手で口を押さえ、体を支えるようにデスクに手をつく。

 黒い巨人と黄金の巨人の戦いは、ドローンを通して全て見ていた。なによりも驚いたのは黒い巨人……三鷹悠真の強さだ。

 以前は【黄の王】に敗北したと聞いていたのに、短期間で相手を凌駕するほど強くなっている。そんなことが可能なのか?

 チャールズはアメリカを蹂躙していた【黄の王】が死んだことに安堵する一方、それを倒した三鷹に対して、底知れぬ恐ろしさも感じていた。


 ◇◇◇


 ミネソタ州の政府施設に待機していたミアたち『プロメテウス』のメンバー。

 巨大な魔力がぶつかり合っていることは、探索者シーカーたち全員が感じていた。しかし、その一方の魔力が突然消えた。

 ミアは窓際に駆け寄り、窓を開けて西の方角を見る。空気がピリピリと震え、温度が下がっているように思えた。

 ミアの頬に汗が伝う。


「黄の王と戦っていたのは間違いなく三鷹悠真。そして消えたのは黄の王……本当にあの化け物を倒したの?」


 魔力探知に長けていたミアは、三鷹が黄の王に勝ったことを確信する。

 多くの犠牲を払って倒せなかった最強の魔物。ミアは死んでいった仲間たちのことを思い、空を見上げる。

 自然と涙が溢れ、膝を折ってその場にうずくまった。

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