第376話 接近戦特化の変身

 大量の粉塵が空に昇り、山は大きくえぐれている。

 悠真は間を置かずに駆け出した。この"血塗られたブラッディー・王の鉱石キングスオア"が切れる前に決着をつけなきゃいけない!

 崩れた山の中から、黄金の巨人が立ち上がる。

 悠真は足を速め、全速力で突っ込んでいく。『ボスヴァーリン』の能力を多く引き出しているため、手を剣やハンマーに変えることはできない。

 あくまで徒手空拳。それに"風魔法"を組み合わせて戦うしかないんだ。

 黄金の巨人も粉塵の中から飛び出して向かって来る。右の拳を打ち込んできたが、それを払いのけ、右のボディーブローを放つ。 

 黄の王の腹にまともに入り、相手の動きが止まった。

 顔面にも左の拳を叩き込み、よろけたところで左足を振り上げる。

 高々と上がった足は【黄の王】の頭上で止まった。


『喰らえ!』


 かかと落としが【黄の王】の脳天に炸裂する。黄金の巨人は膝を折り、両手を地面につけた。

 これはさすがに効いたようだ。動きを止め、項垂うなだれている。

 悠真は左手で相手の頭を掴み、右の拳を引いた。これで終わらせる。

 そう思った瞬間――【黄の王】は両手で悠真の腕を強く掴んだ。


「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 初めて聞いた【黄の王】の声。莫大な雷撃が悠真の左腕に流れ込む。

 雷耐性と体に纏った"風魔法"の力で雷撃にはある程度耐えることができる。

 だが想像を遙かに超える放電に、耐性も風の障壁も突破される。腕が焼けるように熱い。また感電して意識を失うのか!?

 そう思ったが、ギリギリのところで踏みとどまる。【黄の王】が使う最強の雷撃を耐えきった。

 ヘラクレスオオカブトの力! あの魔物の魔鉱石を取り込んだから耐性が上がってるんだ。

 悠真は【黄の王】の手を振り払い、相手の顔面を殴りつける。

 黄金の巨人は地面を転がるも、その勢いを利用して立ち上がった。再び二体の巨人が向かい合う。

 両者同時に動き出し、攻撃態勢に入った。

 黄の王が一発殴る間に、悠真は五発の打撃を叩き込む。それは圧倒的な差だった。格闘を得意とする黄金の巨人が、一方的に叩きのめされる。

 頭が跳ね、腕が弾かれ、腹に拳がめり込む。 悠真の攻撃は【黄の王】の体を確実に破壊していった。

 あと少し――そう思った瞬間、体に流れた赤紫のラインが消えていく。

 血塗られたブラッディー・王の鉱石キングスオアが切れたんだ。

 悠真は一歩、二歩とあとずさり、対面の相手を睨む。【黄の王】はガードを固めたまま立ち尽くしていた。

 相当なダメージがあるはずだが、まだ戦う気のようだ。

 悠真は相手の反撃に備え、両腕を上げて構えを取った。


 ◇◇◇


「おいおい! 悠真が押しとったのに、急に手が止まったで!」


 明人が手でひさしを作りながら、遙か遠くにいる悠真を見る。

 距離的には見えるかどうかギリギリだったが、これ以上近づくと激しい戦闘に巻き込まれてしまう。


「たぶん『ヴァーリンの王』の力が切れたんだ。あれは五分ぐらいしか持たないって悠真が言ってたから」


 ルイの話に、隣にいたアルベルトが反応した。


「あの凄まじい戦い方……オーストラリアで得た能力だったんだね。【黄の王】をあそこまで追い込むなんて」


 アルベルトですら驚嘆している。やはり【黄の王】を倒せるのは悠真しかいないんだ。ルイはそう確信し、改めて戦場を見る。

 二体の巨人は恐ろしい魔力を放ちながら、互いに睨み合っていた。


 ◇◇◇


 悠真は左手の甲に意識を向ける。血塗られたブラッディー・王の鉱石キングスオアは使い切ってしまったが、まだ負けた訳じゃない。

 相手のダメージを考えれば、充分に勝てる。悠真はそう思い、決着をつけようと『宝玉』の力を解放した。

 ボスヴァーリンを倒した時の接近戦特化の変身。左腕に【赤の王】の力を宿し、右手に【青の王】の力を宿す。下半身は【緑の王】の力を再現した。

 莫大な魔力が辺りに吹き荒れ、砂煙が舞い上がる。

 左腕にはメタルレッドの鎧と鉄甲、右手にはメタルブルーの鎧と鉄甲を纏う。足にもメタルグリーンのレギンスが装着され、足首は金色の体毛に覆われる。

 ボスヴァーリンの変身部分を残したたため、全身は筋骨隆々のままだ。

 今は鋼鉄の巨人に加え、赤、青、緑の王、さらにボスヴァーリンと、計五体の魔物の力が合わさっている。


『この力でお前を倒す!』


 悠真は全身に血塗られたブラッディー・鉱石オアを流した。王の鉱石キングスオアほどの馬力は出ないが、今はこれで充分だ。

 悠真は地面を蹴って一気に駆け出す。

 風の魔力を宿した足は大地を粉砕し、恐ろしい推進力を生み出した。

 一瞬で【黄の王】との距離を詰める。

 相手の反応が遅れた。やはりダメージが蓄積してるんだ。

 右の正拳が【黄の王】のガードを弾く。相手はたまらず後ろに下がった。悠真はメタルレッドの鉄甲から長剣を伸ばし、高々とかかげる。

 黄の王も反応し、避けようとするが遅かった。

 メラメラと燃える炎の剣が頭上に迫った時、黄金の巨人は右腕で防ごうとする。

 バチッと音が鳴り、剣が止まった。

 悠真の斬撃が"雷の障壁"に止められたのだ。だが――


『おおおおおおおおおおおお!!』


 剣を押し込んでいくと、相手の右腕がバチバチと発光する。"雷の障壁"が壊れかかっている。

 悠真はさらに力を込め、剣を押し込んだ。バチッと凄まじい音がして【黄の王】がよろめく。

 あとずさる黄金の巨人をよく見れば、右腕がなくなっていた。

 地面には放電する前腕部が落ちている。


 ――斬り落とせた! 


 黄のダンジョンの魔物は再生能力が低い。だとしたら、この傷は治らないはずだ。悠真は一気呵成に畳みかける。

 力強く踏み込み、前蹴りを叩き込む。

 風を纏った蹴り。相手は百メートル以上吹っ飛んでいく。

 黄の王はなんとか踏ん張り、倒れることを拒否した。悠真はすぐに右手の甲から長剣を伸ばした。

 メタルブルーでキラキラと輝く美しい剣。さらに左手の甲から伸びたメタルレッドの剣を持ち上げる。 

 二つの剣を胸の前でクロスさせ、相手の出方をうかがう。

 黄の王はこちらを睨み、左腕の甲から放電する稲妻の剣を伸ばした。


 ――あんなこともできるのか? 器用なヤツだ。


 両者は剣を構えて向かい合う。

 ジリジリとした緊張感が漂う中、二体の巨人は同時に駆け出し、互いの持つ剣を振るった。

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