第8話 ついに出た!
あれから三ヶ月近くが経つ。季節は冬真っただ中、悠真の住んでいる地域では雪こそ降らないが、身を切る寒さはとても辛い。
そんな時期に朝早く起きなきゃいけないなんて……。
悠真はブツブツと愚痴りながら、いつものように穴に向かう。
まだ空は薄暗い。懐中電灯で穴を照らしながら、金属スライムを凍らせたり燃やしたりと、毎度おなじみのルーティーンを繰り返す。
スライムが粉々になったのを確認して穴から出ようとした時、違和感に気づく。
慌てて懐中電灯の光を穴に戻すと、そこには何か落ちていた。
一瞬石ころかと思ったが、鈍く光る黒い石は、周りにある石とは明らかに違う。
悠真は恐る恐る手を伸ばし、その石を掴み上げる。冷たく滑らかな表面。
――間違いない。
「ついに、ついに出たーーーーーーーーーーーーー!!」
穴から上半身を出すなり大声を上げたので、マメゾウは驚いて二、三歩後ろに下がる。悠真は右手に持った石を高々とかかげ、喜びに浸っていた。
「とうとう……とうとう121日目にして出てきやがった!」
悠真は「わんわん!」と鳴くマメゾウの頭を撫で、「金が入ったら高い餌買ってやるからな」と言って、そそくさと家に戻った。
自分の部屋の電気をつけ、改めて『産出』した石を見る。すると何かがおかしいことに気づく。
「え?」
石の表面はツルツルしているが、どう見ても‶宝石″には見えない。どちらかと言えば黒い鉄の塊だ。
「なんだ、コレ? 魔宝石じゃないのか?」
悠真はスマホで検索しするため、キーワードを入れてみる。
「ドロップ……鉄……宝石じゃない……」
するといくつかの記事に辿り着いた。その内一つを開くと……。
「黒のダンジョン……魔鉱石?」
それは黒のダンジョンについて書かれた記事だった。人気のある『白のダンジョン』と違い『黒のダンジョン』は人気が無く、調査や探索はほとんど進んでいない。
分かっているのは魔物を倒した時、ドロップするのは‟魔宝石”ではなく‟魔鉱石”という金属鉱物だということ。
この‟魔鉱石”は身体能力を向上させるとの研究データもあるが、それもハッキリしない上、筋トレした方が早いと言われるほど微々たるものだ。
そのため‟魔鉱石”の取引価格は
「庭にある穴……あれ、黒のダンジョンだったのか……」
悠真は以前見た金属スライムの目撃例に関する記事をもう一度確認してみる。詳細を読めば、確かに黒のダンジョンを探索中に発見とある。
一気に力が抜け、ベッドにバタンと倒れ込んだ。
「あんなに苦労したのに……あんなに小遣いをつぎ込んだのに……二束三文って」
どっと疲れが押し寄せ、なにもする気にならない。
世の中、そんなうまい話はないか……。悠真はガッカリしたが、愚痴ったところで現実が変わる訳じゃない。
今日は土曜で休日のため、悠真はずっと寝ていようかとも思ったが、その前にどうしてもやることがあった。
物置から大きなスコップを取り出し、その足で庭に向かう。
「わんわん!」
鳴きながら近寄ってくるマメゾウには目もくれず、悠真は庭の土を掘り返し、その土を穴の中へと放り込む。
「マメゾウ! 期待外れだった。こいつ全然、金にならないんだってよ!!」
怒りを込めて土をどんどん投げ捨てる。二十分もすると穴は完全に埋まった。
「もう! こいつとは! 二度と会いたくない!!」
悠真は穴のあった場所をバンバンとスコップで叩き、地面を固めていく。
「これでよし、と……何ヶ月も無駄にしちまった。マメゾウも明日からぐっすり眠れるぞ!」
「わん!」
満足そうに尻尾を振るマメゾウを見てホッと息をつき、悠真はスコップを片付けて部屋へと戻った。机の上には黒い魔鉱石が置いてある。
悠真はそれを手に取り、机の引き出しに放り込んだ。
「金にならないなら必要ない!」
そのままベッドに大の字になって寝転がり、天井を見つめた。
――これで明日からはゆっくりできる。無駄な夢を追いかけるのは終わりだ。俺も将来のことを考えないとな。
ふと、幼馴染のルイのことを思い出す。
自分で進むべき道を決め、それに向かって努力するルイ。その姿に楓も心惹かれてるように思えた。
――俺もルイみたいに……。
そんなことを考えたが、自分には関係ないと雑念を振り払う。
その日はなにもする気にならず、結局一日だらだらと過ごした。
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