第60話 最高の能力

「なんだい? 金属のスライムって」


 アイシャが不思議そうに聞いてくる。悠真は金属スライムのことや、ドロップした魔鉱石のこと、しばらくするとダンジョンが消えたことなど、詳しく説明した。


「……なるほど。金属スライムか、噂には聞いたことがあったが本当にいたんだね。そうか、そうか」


 アイシャは嬉しそうに何度も頷く。


「それで、その魔鉱石の『金属化』は、今使うことができるのかな?」

「はい、できます」

「ちょっと見せてもらっても?」

「分かりました」


 悠真は立ち上がり、ふんっと力を入れて『金属化』の能力を発動した。全身が黒く染まり、髪の毛一本に至るまで鋼鉄と化す。


「あああああああ! 凄いよ、これが『金属化』の能力か!!」


 アイシャは大喜びで、ペタペタと悠真の体を触ってくる。その後ろで社長は唖然としていた。


「なるほど、確かに硬いが弾力もあるね。私は長年『黒のダンジョン』を研究してるが、こんな劇的な変化を起こす魔鉱石は初めて見る」


 五分が経ち、体が元に戻ってもアイシャは興味深そうに悠真の体を触り続けた。


「なるほど、なるほど……それで、そのダンジョンには金属スライム以外の魔物は出なかったのかい?」

「全部金属スライムでしたけど、色違いは出てきましたね」

「色違い? なんだい、それは?」

「ずっと金属スライムを倒し続けてたら、『金』『赤』『青』『黄色』『緑』の順で出てきたんですよ」

「ほうほう、色違いね」


 アイシャは自分のメモ用紙に、サラサラと書き込んでゆく。


「色が違う以外に、違いはあったのかな?」

「そうですね。強くなってたのと、あと‶魔鉱石″の能力が違いましたね」

「魔鉱石の能力? そんなに違うのかい!」


 目をランランと輝かせて近寄ってくるアイシャを手で制し、悠真は話しを続けた。


「赤は『火の耐性』が付きました。青、黄色、緑もそれぞれ水、雷、風の耐性が付いたみたいです」

「耐性……」


 アイシャはそう呟くと腕を組んで立ち上がり、辺りを歩き回る。どうやら何かを考えているようだ。


「なるほど……黒のダンジョンは魔法が効きにくい魔物がいるが、そうか……耐性があったのか。だとすると――ぶつぶつぶつ」

「あ、あの!」


 悠真に声をかけられ、我に返ったアイシャは「ああ、失敬」と詫びてきた。


「黒のダンジョンの魔物は『白のダンジョン』と同じように火と雷の魔法が有効なんだが、稀に火や雷も通じない魔物がいるんだ。まあ、それが敬遠される理由の一つでもあるんだけど……君の言うことが本当なら魔法の効かない魔物がいるということ。実に興味深い」

「は、はあ……」

「それで『金』のスライムはどんな魔鉱石を生み出したんだい?」

「あ、はい。金色の魔鉱石の能力は『黒のダンジョン』でのドロップ率を100%にするみたいです」

「ん?」

「ですから、魔鉱石がほぼ確実にドロップする……」

「ん? ん? ん? なにを言ってるんだい? 魔鉱石を」

「はい」

「100%ドロップする?」

「はい」

「そう言っているのかい、君は?」

「そうです」


 アイシャは天井を見上げ、その場でゆっくりと回り始めた。何をしているのか分からず、悠真と社長は怪訝な顔になる。

 回転がピタリと止まると、アイシャはツカツカと悠真の元まで歩き、ガシリと両肩を掴んだ。

 顔を近づけ、真剣な眼差しで悠真を見つめる。


「本当に、本当に、本当に、本当ーーにドロップ率が100%になったのかい!?」

「ほ、ほ、ほ、本当です」


 あまりの迫力に気圧された悠真は、恐怖でチビりそうになる。


「クックック……それが本当なら、黒のダンジョンの研究は劇的に進むことになる。まさに世界で最高の能力だ。魔鉱石のドロップ率は魔宝石より少しだけ低いんだよ。それが100%ドロップするなんて本来ありえない。まあ、後々検証してみようじゃないか。いいだろ、悠真くん?」

「え、ええ」


 アイシャは最高の能力と言ったが、かねにならない魔鉱石がいくら手に入っても仕方ないだろうと悠真は思った。


「出てきた金属スライムの種類はそれで全てかい?」

「あー最後に出てきた、やたらデカイ金属スライムがいました。無茶苦茶強くて倒すのに苦労しましたけど」

「デカイ金属スライム? そいつはただ大きいだけなのか?」

「いえ、体の形を変えてましたね。魔鉱石の能力もそんな感じでしたし」

「体の形を変える魔鉱石? ちょっと見せてもらってもいいかな」

「分かりました」


 悠真は『金属化』した後、『液体金属化』の能力を使い、体をゲル状に変えて丸い金属スライムになってみせる。

 触手を何本か生やし、ピョンピョンと飛び回った。


「こんな感じです」と言って悠真が振り返ると、社長とアイシャは目を見開き、口をあんぐりと開けたまま絶句していた。

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