第332話 飛行部隊

 悠真たちが辿り着いたのは、広い発着場のような場所。

 地下にこんなところがあるのか、と驚きつつも、多くの人が集まっている航空機に向かう。変わった形の飛行機だが、悠真には見覚えがあった。


「この飛行機、自衛隊にもあったな」


 悠真がつぶやくと、ルイが航空機を見てうなずく。


「V-22『オスプレイ』だね。確かに、日本の自衛隊も配備してる輸送機だよ」


 ヘリコプターのような回転翼がある機体が、全部で五機並んでいる。三人はその内、一機に近づいていく。

 軍人が荷物を積み込む横に、ミアの姿もあった。


「ミアさん」


 ルイが声をかけると、ミアは振り返り、悠真たちに視線を移す。


「あなたたちも行く気なの? ここで待っていてもいいのよ」

「アホ言うな! なんのためにアメリカまで来たと思っとんねん。当然、行くに決まっとるやろ!」


 明人が語気を強めると、ミアは「そう」と素っ気ない返事を返した。


「ついてくるならリスクは許容してもらうわ。あなたたちを守って戦うような余裕はないから」

「上等や! ワイらの力をなめんなよ!」


 激怒する明人をなだめつつ、三人はうながされた航空機に乗り込む。各機体には軍人や探索者シーカーが何人も乗っていた。

 探索者シーカーは全員、"プロメテウス"のメンバーのようだ。


「それにしても、いきなり【黄の王】と戦うことになるなんて。さすがアメリカの情報網……今回は早く終わるかもしれないね」


 ルイの言葉に明人も「せやな」と返す。


「まあ、早いとこ決着がつくなら、それに越したことはないやろ。もう、日本を立ってかなりの時間が経つしな」


 明人は「なあ」と悠真に振るが、悠真は「ああ」と小さな声でつぶやくだけだった。

 アメリカに来てから様子がおかしい悠真に、ルイと明人は困惑した表情をする。

 それから十分ほどで準備が整い、オスプレイは離陸態勢に入った。

 悠真たちは体を固定するベルトをしっかりと締め、離陸に備える。

 ガクンッと機体が揺れたあと、上昇しているような感覚を覚える。どうやら床がせり上がっているようだ。

 地下シェルターの天井が開き、オスプレイが一機づつ飛び立つ。

 悠真たちが乗る機体は最後に発進し、五機全てがソルトレーク・シティへと向かい出発した。


 ◇◇◇


「なあ、あんた。アルベルトとの戦い見てたぜ。あんなスゲーの初めて見たよ! 俺はもう興奮しちまって……」


 悠真たちが座る席の向かい側に、五人の探索者シーカーが座っていた。全員がプロメテウスのメンバーだが、その内に一人が話しかけてきた。


「俺はピーターってんだ。これから一緒に戦えると思うと心強いぜ! よろしくな」


 ピーターと名乗ったのは、グラサンをした白人の男性。黒髪の角刈りで、やたら明るい雰囲気の探索者シーカーだった。

 悠真が「ええ、よろしく」と答えると、ピーターは親指を立てて笑みを零す。

 悠真は対面に座る五人の探索者シーカーを改めて見た。全員が変わった軍服を着て、グラサンをしている。

 プロメテウスのメンバーは全員こんな感じだったっけ? と疑問を持つ悠真だが、機内に突然流れた警報が思考を掻き消す。


「なんや!? なんの音や?」


 明人が目をすがめて辺りを見回す。悠真とルイの顔にも緊張が走ったものの、ピーターたちは落ち着いた様子だ。


「ああ、大丈夫。これは行く手に魔物がいる時の合図だよ」

「魔物って……まさか!」


 ルイが青ざめていく。それを見たピーターは、両手を上げて肩をすくめる。


「そう、黄金竜だ。空を移動する場合、ヤツらは最大の障害になるからな」

「なに呑気に言うとんねん! 急いで迎撃せんと、この飛行機ごと落とされてまうやないか!」


 明人は慌てて自分がしているベルトをはずそうとする。だが、ピーターは落ち着いたまま、「まあまあ、慌てるなって」と明人をなだめる。


「こんな時のために俺たちがいるんだから」

「え?」


 悠真が素っ頓狂な声を上げていると、探索者シーカーたちは椅子のベルトを外し、全員が後部ハッチに向かう。


「おい、開けてくれ!」


 ピーターが操縦席に向かって叫ぶと、コックピットにいる軍人が親指を立てた。

 後部ハッチがゆっくりと開き、機内の空気が外へ逃げてゆく。激しい風が吹き荒れ、体が持っていかれそうになる。

 しかし、悠真たちはベルトをしていたため、なんとか耐えることができた。

 悠真が風に耐えながら目をやると、五人の探索者シーカーたちは後部ハッチから次々と飛び降りていく。

 全員が機外に出るとハッチがしまり、激しい風も消える。

 悠真たちはすぐにベルトを外し、コックピットに駆け寄る。


「あの人たちはどうなったんだ!? どうして飛び降りた?」


 訳が分からないといった様子の悠真に、操縦桿を握る軍人は笑顔を向ける。


「心配する必要はないよ。あれを見てみな」

 

 軍人が顎をしゃくって、外を指し示す。悠真たちがフロントガラスから外を見れば、前方を滑空している五人がいた。

 背中からグライダーのような翼が生え、鳥の如く飛んでいる。


「あの軍服、"スカイスーツ"みたいな機能があったんだね」


 ルイが感心して声を上げる。悠真も「かっこいい~」と目を輝かせた。どうやら、全員が風魔法の使い手のようだ。

 フロントガラスから見える五人の編隊は、まっすぐ遙か先にいる黄金竜を目指していた。

 "風"と"雷"なら、風に分がある。

 遠すぎてよく見えないものの、彼らならなんとかしてくれるだろう。悠真はピーターたちの善戦に期待した。


 ◇◇◇


「飛行部隊、出撃しました」


 先頭を行くオスプレイ。そこに乗っていたミアが、アルベルトに報告する。


「彼らに任せておけば大丈夫だろう。あと何分ぐらいで目的地に着きそうかな?」


 アルベルトは丸い窓から外を覗き、周囲を確認していた。

 問われたミアは姿勢を正して答える。


「順調に進めば、あと二十分ほどです」

「そうか……ソルトレーク・シティに着いたら油断はできないね。どこからが来るか分からないから」


 アルベルトはニヤリと笑い、ミアを見る。

 その時、コックピットに乗る操縦士が声を上げた。


「レーダーに反応があります! 【黄金竜】とは別個体の魔物かと」

「別個体?」


 アルベルトはコックピットに歩み寄り、眉を寄せてレーダーを覗く。


「大きいな。飛行部隊と黄金竜の会敵地点に近づいてる……ピーターたちだけで対応するのは難しいだろう」

「どうしますか?」


 ミアの言葉に、アルベルトはフッと口元を緩める。


「仕方ない。僕も出るよ。サポートを頼めるかな?」

「もちろんです」


 無表情のままミアが答える。彼らが乗るオスプレイの後部ハッチが開かれ、搭乗口に立つアルベルトの髪や服がバサバサと揺れていた。


「じゃあ、行こうか」


 アルベルトが空中へ体を投げ出した。それを見たミアも魔法を発動する。

 が空中に現れると、ミアはその上に飛び乗り、滑るように空を駆けていった。

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