第331話 黄の王の力

 悠真たちはアルベルトに連れられ、施設のロビーを歩いていた。

 広く綺麗なロビーには軍服を着た者や、制服を着た者、白衣を着た者など、様々な顔ぶれが歩いている。

 アルベルトは大きな扉の前に立ち止まり、カードを扉の横にある装置にかざす。自動ドアが左右に開き、喧騒が聞こえてくる。

 悠真が足を踏み入れて辺りを見回すと、そこは大型のモニターがいくつも設置されている司令室のような場所。

 階段状のデスクに、多くの職員が座ってなにかを話していた。

 キョロキョロしている悠真たちに、アルベルトが声をかける。


「ここは元々軍の施設でね。核戦争を想定して造られてる。だから核攻撃を受けても耐えられるんだ」

「は、はぁ……」


 悠真は気の抜けた返事を返す。この部屋だけで百人以上はいるだろうか。他の国とは違い過ぎるアメリカの前線基地に、悠真たち三人はただただ圧倒されるばかりだ。


「あれは、どこの映像なんですか?」


 ルイがモニターを指さしながらアルベルトに尋ねる。モニターの一つ一つには別々の場所が映っており、それが五十ほどある。

 それぞれが街中や郊外、森、山といったものだ。


「あれはインディアナ州の各箇所を映したものだよ。【黄の王】が現れたらすぐ分かるようにしてるのさ」

「やっぱり【黄の王】を探してるんですね」


 ルイの言葉に、アルベルトはコクリと頷く。


「アメリカには多種多様な魔物が溢れている。だけど軍や探索者シーカーの力を考えれば、対処できない訳じゃない。問題はやはり【黄の王】だ。ヤツがいる限り、この国に未来はないからね」


 アルベルトは振り返り、後ろにいたミアに視線を送る。


「私はこのあと用があるので、一旦失礼させてもらうよ。この施設のことやアメリカの詳細は彼女から聞いてくれ」


 ミアが歩み出て、悠真の前に来る。


「ここからは私が案内します。"プロメテウス"のミア・イネスです。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 ルイが緊張した面持ちで前に出た。


「雑誌やテレビなんかでミアさんを何度も見たことがあって……以前から大ファンです。よければ握手してもらえませんか?」


 ルイが早口でまくし立てる。こんな積極的なルイは見たことがなかったため、悠真はドン引きしてしまう。


「まあ……構いませんが……」


 ミアは表情を崩さないまま、ルイと握手を交わす。興奮してるのはルイだけのようだ。

 その後、ミアの案内で施設を回ることになった。やって来たのは広い廊下にいくつもの扉がある場所だ。

 地下施設とは思えないほど明るく綺麗な空間に、悠真と明人は「すごいな」「金かかっとるで」と感嘆の声を漏らす。


「ここが居住空間です。あなたたちが休める部屋も用意しましょう。少し待っていて下さい」

「ありがとうございます!」 


 ルイがお礼を言うと、ミアは小さな溜息をつく。


「あなたたち……本当にここで私たちと共闘するつもりなんですか? 力があるのは分かりますが、この場所の危うさが分かってないようですね」


 冷たい表情のまま話すミアに、明人はムッとする。


「なんや急に! ワイらが協力するっちゅうとるんや。ありがたい話やろ」

「あなたたちは【黄の王】を甘く見すぎている。例えアルベルトでも、黄の王を倒せるかどうか……」

「そんなん大丈夫や! ここにおる悠真は三体の【王】を倒しとるからな。今回もちょちょいや、な! 悠真」


 明人がバシンバシンと肩を叩くと、悠真は顔をしかめ「そんな簡単じゃねーよ!」と明人の手を振り払う。

 ミアはフルフルと首を振り、呆れたような顔をする。


「【王】を三体も倒すなんて……そんなことできる訳ないでしょう。まったく、これだから現実を知らない子供は」


 ミアが再び歩き出した。そんなミアに、ルイが後ろから声をかける。


「いえ、ミアさん。本当なんです。本当に悠真は特異な性質の魔物ユニーク・モンスターの【王】を倒して来たんです。だから今回も必ず……」


 ミアはピタリと立ち止まり、振り向いてルイの顔を見る。


「そんな話、信じる訳ないでしょ。それに――」


 ミアの瞳に、暗い影がさす。


「その話が本当だったとしても……【黄の王】を倒すのは不可能よ」


 ◇◇◇


 ミアのはからいにより、悠真たちは施設の一室を用意してもらい、そこで休息を取ることにした。

 あてがわれたのはベッドが四つ並ぶ大部屋で、ゲストルームのような場所だ。


「なんや、せっかくなら個室を用意してくれればええのに」


 明人がベッドに座りながら文句を言っていると、ルイは呆れた顔をする。


「こんなに綺麗な部屋を用意してくれたんだから、文句なんて言ったらダメだよ」

「でも、ワイらはこの国の救世主やで。もっといい扱いされてもええやろ!」


 ベッドに横になり、いつも通り太々しく悪態をつく明人。それとは正反対に、悠真はソファーに座り、片膝を立ててなにかを考え込んでいた。


「どうかしたの? 悠真」

「いや、なにか嫌な予感がするんだ。それがなにかは分からないけど……」


 悠真の深刻な表情を見て、ルイはミアの言葉を思い出す。


「……ミアさんが言ってたけど、例え他の国の【王】を倒したとしても、【黄の王】は倒せないだろう、っていう話のこと?」


 ベッドの上にいた明人が、フンッと鼻を鳴らす。


「なんや、そんなんどこの国でも一緒やろ。自分の国に現れた魔物が一番強い。そう思ってるだけや、悠真はそんな【王】たちを倒してきたやないか」

「それは……そうだけど……」


 ルイは目を伏せた。確かに明人の言うことはもっともだ。どんなに強い【王】がいたとしても、今の悠真が負けるとは思えない。

 それでも、確実に勝てると言えない相手。それが特異な性質の魔物ユニーク・モンスターの【キング】だ。

 部屋の中に沈黙が下りる。誰もがしゃべらないまましばらく経つと、けたたましいサイレンが鳴った。


「なんや? なんの音や!?」


 悠真たち三人は立ち上がり、慌てて廊下に出る。多くの人たちが走ってどこかに行こうとしていた。

 ルイは白衣を着た男性の足を止め、「どうしたんですか!?」と尋ねる。


「ソルトレーク・シティで【黄の王】が発見されたそうだ! 今、プロメテウスが向かうための準備をするんで、大わらわだよ!」

「ソルトレーク・シティ!? えらい遠いところやな」


 顔をしかめる明人に、ルイは「そんなこと言ってる場合じゃないよ」とたしなめる。


「僕らも行かないと!」

 

 ルイにさとされ、悠真も「そうだな」と同意する。

 三人は走って行く軍人のあとを追い、プロメテウスが集合しているであろう場所に向かった。

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