第379話 特殊な測定器

 悠真たちが司令室に案内された直後、ミアたちプロメテウスの探索者シーカーたちが大挙してやって来た。

 悠真が目をやると、ミアたちはなぜか硬直した表情を見せる。


 ――なんだろう? 俺の顔になにかついてるのか?


 悠真がそんなことを考えていた時、部屋の奥に座る人物が声をかけてきた。


「立ち話もなんだからね。どうぞ、座って」


 悠真や明人もイヤホン型の翻訳機をつけていたため、相手の言葉は理解できる。

 丁寧な対応を受け、悠真たち三人はソファーに腰を下ろす。アルベルトはソファーのかたわらに立ち、ミアたちプロメテウスの探索者シーカーは入口近くに並んでいた。

 対面のソファーには、軍服を着た老齢な男性が腰を下ろす。

 男性はチャールズと名乗った。この基地の責任者で、空軍の大将らしい。


「まずはお礼を言いたい。君たちは我々の宿敵である【黄の王】を倒してくれた。これでアメリカは滅亡を免れたといっていいだろう。本当にありがとう」


 普段は厳しい顔をしてるであろうチャールズが頬を崩す。

 悠真は「い、いえ」と言いつつ頭を掻いた。感謝されるのは慣れていない。こそばゆい気持ちになって視線をそらす。

 その時、窓際にいたアルベルトと目が合った。

 いつものように温和な表情で微笑んでいる。


「君たちは"白の魔宝石"を集めているんだったね」

「あ、はい!」


 急に本題に入ったため、悠真はチャールズに視線を戻した。


「白の魔宝石は軍本部から送られてきている。おい、持ってきてくれ」

「はい」


 部屋の隅にいた軍人が頷き、こちらにやって来る。

 右手にはアタッシュケースを持っており、自分の手首とアタッシュケースの持ち手を手錠で繋いでいた。

 厳重に管理しているようだ。

 アタッシュケースは悠真たちの前にあるローテーブルの上に置かれ、鍵を使って手錠が外された。ケースのふたが開き、中身が見える。

 悠真たち三人は思わず前のめりになった。


「おお! 白の魔宝石が仰山ぎょうさんあるやないか! これやで、これ。これを求めとったんや!」


 明人が喜び、悠真とルイも微笑む。アタッシュケースの中に入っていたのは大量のダイヤモンド。一つ一つが大きく、綺麗に輝いていた。


「どうぞ、手に取ってみてくれたまえ」


 チャールズに促され、悠真は「じゃあ」と言って手を伸ばす。

 ケースの中は黒いベルベットの生地が敷かれ、その上にダイヤモンドが並べられていた。悠真はダイヤモンドの一つを手に取ってマジマジと眺める。

 やはりとても綺麗だ。大きいだけに、どれもかなりの魔力を感じる。

 ケースの中には、ダイヤモンド以外の魔宝石も置かれていた。ケースの両端に窪みがあり、そこに透明なグラスファイバーバッグがいくつもある。

 中に入っているのは白の魔宝石、ロッククリスタルやジルコンだろう。


「これ全部でどれぐらいの"マナ指数"になるんですか?」


 悠真が尋ねると、チャールズは指を組んでニコリと笑う。


「全て合わせれば、マナ指数は26000を超えるだろう。今、アメリカにある白の魔宝石はこれでほぼ全てだ」


 当初言われていたより多い魔宝石だ。悠真は「ありがとうございます」とお礼を言い、持っていたダイヤモンドをケースに戻した。


「他にも掻き集めた物がある」


 チャールズが視線を送ると、別の軍人が二つのアタッシュケースを持ってくる。それほど大きくない銀色のケースをテーブルに置くと、蓋を開け、中身を見せてきた。


「おお! さすがアメリカやな」


 明人が喜び、身を乗り出す。ケースの中には色とりどりの魔宝石が入っていた。

 黄色、赤色、緑に青の宝石まで。ダイヤモンドは少ないものの、それ以外の魔宝石はかなりの量がある。


「これは我々……アメリカからの感謝の気持ちだ。君たちは世界中で魔物を倒していると聞いたからね。役に立ててくれたまえ」

「気前がええな。遠慮なくもらうで」


 雷の魔宝石に手を伸ばす明人に苦笑しつつ、ルイはチャールズにお礼を言う。

 悠真も感慨深そうに白の魔宝石が入っているケースを眺めた。これだけの魔宝石があれば、本当に『蘇生魔法』が使えるかもしれない。

 希望を抱くものの、一つ心配なことがあった。


「でも、これだけの魔宝石……今の俺に取り込めるかな?」


 あまり深く考えずに【黄の王】の魔宝石を飲み込んでしまった。

 ボスヴァーリンやヘラクレスオオカブトの魔鉱石も飲み込んだこともあり、マナが足りているか自信がない。

 悠真の不安を察したルイが声をかけてくる。


「マナの心配をしてるの?」

「ああ、ひょっとしたら"無色のマナ"が足りなくなってる可能性もあるな。と思って」

「そうだね。黄の王や大猿を倒してマナ指数は増えてると思うけど……獲得した"マナ"より消費に使う"マナ"の方が多いだろうし……」


 二人の会話を聞いていたアルベルトが顎を撫でながら口を開く。


「マナ指数の心配かい? だったら測ってみるといい」


 悠真はアルベルトに視線を向ける。


「ありがたいけど、俺のマナ指数を測れる測定器って、なかなか無いから……」


 それを聞いてアルベルトはフフと笑った。


「おいおい、僕のマナでも測れる計測器だよ。通常の物とはまったく違うからね。試してみるといい」


 悠真たち三人は顔を見合わせる。確かにアイシャのように特殊な測定器を作った事例もある。

 悠真はアルベルトの言葉に同意し、空軍基地にある測定器を使うことにした。


 ◇◇◇


「うわ~デカい!」


 悠真が声を上げる。

 そこは格納庫のようにだだっ広い場所だったが、中央に置かれた巨大な測定器以外なにもなかった。

 悠真たちは測定器の前に足を運び、その巨大な装置を見上げる。

 三メートル以上ある機械で、上部に大きな輪っかが付いていた。見たこのない測定器だ。明人は目をランランと輝かせ、ルイも興味深そうに装置に触れる。

 アルベルトは「ちょっと待ってて」と言い、装置の横にあるコントロールパネルを触り始めた。

 あのパネルで操作するようだ。

 部屋にはアルベルトを始め、ミアやプロメテウスのメンバーも来ていた。

 

 ――なんで全員で来たんだろう? 俺のマナ指数に興味でもあるのか?


 悠真が戸惑う中、アルベルトが声を上げる。


「準備ができたよ。そこに入って」


 見れば測定装置の各箇所が光り、手前にあった金属の柵が左右に開く。

 悠真はゴクリと生唾を飲んだ。

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