第337話 強さの理由

 悠真は一歩あとずさり、相手の攻撃に備える。頭上から見下ろしてくる竜は、口内に莫大な魔力を集める。

 放たれたのは雷の砲撃。あらゆるものを破壊する閃光が悠真の体に襲いかかった。

 悠真は腕をクロスして耐える。風の魔力を纏っているとはいえ、途轍もないエネルギーに体が削られるようだ。

 ジリジリと後ろに押し込まれていくが、悠真は風の魔力を全開にし、雷撃をねのけた。閃光は地平の彼方まで飛んでいく。


『今度はこっちの番だ!』


 黒い巨人の背から羽が生え、尻尾が伸びた。ドラゴンの飛行能力を得た悠真は大地を蹴り、空に飛び上がる。

 一気に飛翔して"黄金竜"に迫った。


 ――あの姿は遠距離攻撃を得意にしてるようだ。だったら近づいて拳を叩き込んでやる!


 黄金竜はバサリと羽ばたき距離を取ろうとするが、悠真は電光石火の速さでに間合いを詰め、相手の得意な距離を潰そうとする。

 両手を元に戻して拳に"風の魔力"を集める。その拳を黄金竜に叩きつけようとした瞬間――竜の姿が忽然と消えた。


『え?』


 呆気に取られている悠真の顔に、メガトン級のパンチが炸裂する。なにが起きたのか分からず、悠真は空中で体勢を崩した。

 そのまま落下していく。なんとか着地しようとするが、両腕を取られて顔から地面に激突した。

 地にひれ伏す悠真は首を横に向ける。

 なにが起きたかようやく理解できた。【黄の王】が巨人に戻り、悠真の背中に乗っているのだ。

 空中で殴られ、関節を取られてのだろう。悠真は力任せに起き上がり、右手を剣に変え、横に振るった。

 【黄の王】は巨体に似合わず、軽やかな動きでそれをかわす。

 そして腰をわずかに落とし、両拳を構えた。まるで格闘家のような姿に、悠真は苛立ちを覚えた。


『野郎……俺と殴り合いがしたいってことか』


 悠真は右手の長剣を元に戻す。ヤツが殴り合いを望むのなら、受けて立つ!

 両腕がメタルグリーンに染まっていく。拳頭から鋭いスパイクが伸び、鉄甲のようなものが形成される。

 両足もメタルグリーンの鎧を纏い、手首足首には金色の体毛が生えてきた。

 "風の力"を最大限に使える戦闘形態だ。


『これならいける!!』


 血塗られたブラッディー・鉱石オアを発動した悠真が地面を蹴る。地面は爆散し、あっと言う間に【黄の王】との間合いを詰めた。

 悠真の右ストレートが巨人の顔面を捕らえた。そう思った瞬間、悠真の顔に鉄拳が炸裂する。

 あまりの衝撃に悠真は踏鞴たたらを踏んであとずさった。


 ――なんだ!? 一体?


 訳も分からず顔を上げると、黄金の巨人は拳を突き出した状態で止まっている。


『まさか……カウンターを打ち込まれたのか? そんなボクサーみたいのこと、魔物にできる訳が』


 悠真がもう一度殴りかかろうとした時、相手の姿が消える。


『なっ!?』


 足に衝撃が走り、倒れそうになった。下を見れば、巨人がローキックを放っていたのだ。

 まるで格闘家のような動き。悠真はなんとか踏ん張り、拳を振り下ろした。

 それに対応するように、黄金の巨人は体を回転させ、回し蹴りを打ち込んでくる。これには耐えられず、悠真は後ろに倒れてしまった。

 土煙が舞い、地響きが鳴る。


『くそっ!』


 すぐに立ち上がろうとすると、右足を高々と上げる巨人のシルエットが目に入った。

 これは――

 振り下ろされた『かかと落とし』を、悠真は両腕をクロスしてなんとか防いだ。

 だが、連続攻撃となる次の『後ろ回し蹴り』は防げず、悠真は顔面を蹴り飛ばされてしまう。

 後ろに吹っ飛び、地面にしこたま頭を打つ。

 悠真はゴロリと転がり、なんとか立ち上がる。見据える先には、ファイティングポーズを取る【黄の王】がいた。


 ――強い。純粋な格闘技術は俺より遙かに上だ。"風の障壁"がなければあっと言う間に殺されてる。 


 悠真も両拳を上げ、防御を固めた状態で慎重に距離を詰める。

 この相手には生半可な攻撃は通用しないだろう。だが、魔法の相性はこちらがいいんだ。クリーンヒットさえすれば倒すことができる。

 まずは一撃を当てないと!

 悠真は姿勢を低くして地面を蹴った。風魔法と血塗られたブラッディー・鉱石オアにより、爆発的な加速を生み出し、一気に【黄の王】に迫る。

 左のジャブ、右のストレート、左のフック、右のショートアッパー。なるべく振りをコンパクトにし、当てることに重点を置く。


『ぐっ……』


 それにも関わらず一発も当てられなかった。

【黄の王】は全ての攻撃を軽やかにかわし、裏拳を放ってきた。顔に当たり、悠真はたまらず後ろに下がる。

 攻撃が見切られてる。ゆっくりと近づいてきた黄金の巨人は、流れるような動作で悠真に攻撃を仕掛けてきた。

 左のジャブ二発、右のフック、左のミドルキック、右のストレート。全てが悠真にヒットする。

 悠真はヨロヨロとあとずさった。

 全身に"風の障壁"を纏っているため、ダメージはないが、このままでは勝つことができない。

 悠真は一歩、二歩と後ろに下がりながら、なんとか攻撃の糸口を探っていた。


 ◇◇◇


「なんや……なんなんや、あの魔物は!?」

 

 明人が顔をしかめて【黄の王】を睨む。誰もが巨人同士の戦いに見入っていた。

 近くにいたアルベルトが、一つ息を吐いてから顔を上げる。


「昔、【黄の王】に戦いを挑んだアメリカの探索者シーカーがいたんだ。彼は格闘技の達人でね。手甲型の魔法付与武装を使いこなし、鹿の姿をした【黄の王】と一戦交えた」


 まるで明人の兄、天王寺隼人みたいだとルイは思った。



「まさか……その探索者シーカーとの戦いで……」


 ルイのつぶやきに、アルベルトは苦笑いを浮かべる。


「ああ、そうだ。。高い学習能力があるってことだよ」

「そんな」


 ルイや明人、プロメテウスのメンバーは黄金の巨人を見つめる。いままで知能のある【王】はいても、人間の戦い方を模倣する【王】などいなかった。

 そう考えたルイだが、はたと気づく。


 ――いや、悠真がいる。【黒の王】の力を取り込んだ悠真は、まさに人間らしい戦い方で【王】と対峙している。だとすれば、【黄の王】は悠真に近いってこと?


 困惑しているルイを横目に、アルベルトは話を続ける。


「それだけじゃないよ。【黄の王】が強い理由はね」

「まだ他にもあるんですか?」


 ルイが眉を寄せて尋ねると、アルベルトは小さく頷く。


「【黄の王】が"雷の魔物"を襲っていることは聞いたかな?」

「ええ、アメリカの探索者シーカーの方に聞きました。理由は分からないけど、仲間であるはずの魔物を襲ってると」


 アルベルトはフフと微笑み、


「その通り。もっとも、最近になって雷の魔物を襲っている理由は分かってきたけどね」

「なんですか?」


 問われたアルベルトは振り返り、ルイの目をまっすぐに見据えた。


「"雷の魔物"を殺し、産み落とされた魔宝石を食っている。あいつは【王】であると同時に、

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