第336話 戦闘形態

「あれが【黄の王】の本来の姿だ」

「本来の姿?」


 アルベルトの言葉に、悠真はどういうことか理解できない。


「鹿の姿は【黄の王】じゃなかったってことですか?」

「いいや、あれも【黄の王】だよ。あの魔物はいくつもの姿を持つんだ。そして巨人の姿こそ、【黄の王】の戦闘形態。我々はヤツのことを"黄金の破壊神"と呼んでいるけどね」

「黄金の……破壊神」


 悠真はゴクリと生唾を飲む。確かに、巨人から感じる途轍もない魔力は先ほどまでとはけたが違う。


「僕の力がどれほど通用するか……まあ、やってみるしかないんだけどね」


 そう言ってアルベルトは下降していく。いくらなんでも、あんな化け物の相手は無謀過ぎる。


「アルベルトさん、俺が行きます! あなたではアイツに勝てない!!」

「君が強いのは知っているよ。でも、君でもヤツの相手は無理だ。持って数分といったところだろう」


 悠真はムッとしてアルベルトを睨む。


「俺はまだ本気を出してませんよ。そこで見てて下さい!」


 悠真はバサリと羽ばたき、急下降して巨人の元へと向かう。後ろからアルベルトがなにか言っていたが、無視して飛行した。

 地上ではプロメテウスのメンバーが距離を取って攻撃しているが、黄金の巨人に効いているようには見えない。

 悠真はミアの元へ降り立つ。


「ミアさん。全員を下がらせてください。あいつの相手は俺がします」

「三鷹! 余計なマネはするな。ここは我々がやる。アメリカの存亡をかけた戦いなんだ」

「だったらなおさらです! ここにいたら邪魔です。戦う時に気が散ってしまう」


 ミアは険しい表情で悠真を睨むが、ここは引く訳にいかない。

 こうしている間にも、バチバチと体から放電する巨人が近づいてくる。時間がないと思った時、後方から明人とルイが走ってきた。


「悠真!」

「悠真、大丈夫?」


 悠真は羽と尻尾を引っ込めながら、「俺は大丈夫だ」と答える。


「それよりミアさんたちを退避させてくれ。アイツの相手は俺がする」


 明人が頷き、「ああ、分かったで。ぶちのめしてこい!」と檄を飛ばす。

 ルイも「気をつけてね」と言い、ミアたちの説得に入る。

 悠真は巨人に向かって歩き出した。後ろからミアの声が飛んできたが、耳を貸さずに歩き続ける。

 空からはアルベルトも降りてきた。さすがにもう止めようとはしない。

 その方がありがたかった。

 悠真は巨人の五十メートル手前で足を止める。目の前にそびえ立つ巨人は、二十メートル以上の身の丈。黒の巨人と同じくらいだ。 

 悠真は意識を集中する。体の中にいる【黒の王】が、眼前の敵にたかぶっていた。

 魔力を解放し『空間のマナを質量』に変えていく。悠真は巨大な黒い球体へと変化した。

 辺りに静寂が広がり、しばらくすると球体から漆黒の巨人が出てくる。

 禍々しい姿形すがたかたちに、常軌を逸した魔力。離れた場所で見ていたミアやプロメテウスのメンバーは理解が追いつかずパニックにおちいった。

 アルベルトだけが取り乱さず、静かに成り行きを見守っている。

 巨人となった悠真が睨みを利かせると、【黄の王】は足を止め、正対したまま動かなくなる。

 どれほど強いか分からないが、最初から全力でいく!

 悠真の左手にある『キマイラの宝玉』が輝き出す。左手はメタルレッドの液体金属に包まれ、右手はメタルグリーンへと変わっていった。

 【青の王】を倒した力。なにより"風魔法"は雷系の魔物に強いはずだ。

 左手は炎の竜の頭に変わり、右手は風の魔力を帯びた"剣"に変わった。悠真は黄金の巨人に向かって走り出す。


「一気に決める!!」


 右手の剣を振り上げ、相手の頭めがけて振り下ろした。【黄の王】が動くようすはない。取った――

 そう思った時、黄金の巨人は消えていた。あんなにデカいものが消えるはずがない。悠真は慌てて辺りを見渡す。

 すると、すぐ後ろに黄金の巨人は立っていた。


「この野郎!」


 剣を横に薙ぐ。だが、またしても【黄の王】の姿が消える。悠真は呆気に取られた。周囲を見渡すと、またしても背後にいる。

 背筋が冷たくなる。速い! こいつは途轍もなく速いんだ。

 ドイツで出会った暗黒騎士ほどではないにしろ、巨人の大きさでここまで動けるなんて。悠真は驚きつつも、冷静に思考を巡らせる。

 こっちも速さを最大にするしかない。そのためには――

 悠真は全身に"風の魔力"を纏う。鎧の上に緑の紋様が浮かびあがり、光り輝いていた。さらに血塗られたブラッディー・鉱石オアを発動。

 体に赤い血脈がながれる。吹き上がる魔力が爆風となってミアたちに向かった。

 あまりの風に吹き飛ばされそうになったミアだが、必死に耐えて黒い巨人をめる。


「あれが三鷹の……"黒鎧"の本当の力なの?」


 呆然とするミア。しかし離れた場所にいたアルベルトはクツクツと笑い出した。


「なるほど……あれほど強大な力を持つなら、【黄の王】を倒せると考えても不思議じゃない。だけど――」


 アルベルトの顔から笑みが消え、真剣な表情になる。


「その魔物は一筋縄ではいかないよ。恐らく数いる魔物の中で、


 悠真は一歩踏み出した。大地は爆散し、巨人が信じられない速度で駆ける。

 黄金の巨人も動き出した。残像が生まれるほどの凄まじいスピードだが、悠真も目で追えるようになっていた。

 右足を踏み込んで剣を横に振るう。ギリギリのとこでかわされたものの、充分ついていけている。

 今度は風の魔力を全開にして、上から斬り下ろした。

 風の刃が伸び、大地を斬り裂くが、【黄の王】は横にかわしてしまう。


「くそっ!」


 悠真は後ろに飛び退き、左腕に火の魔力を集める。あごを開いた竜頭は、口内で圧縮した火球を放つ。

 黄金の巨人の足元に着弾し、激しい爆発が起こった。

 更地が蒸発し、熱線が広範囲に飛散する。かなり距離があるとはいえ、アルベルトたちも影響を受けるだろう。

 だが、彼らは一流の探索者シーカーだ。魔法障壁も張れるため、この程度ではビクともすまい。悠真は遠慮なく力を振るうことにした。

 爆散した大地からはモクモクと噴煙が上がり、視界を完全に奪っている。

 【黄の王】の魔力は、まだハッキリと感じる。これぐらいでは死なないようだ。

 悠真は腰を落とし、油断なく剣を構える。

 すぐにでも煙の中から出てくるだろう。そう思っていたが、煙の向こうで魔力の揺らぎを感じた。


「なんだ!?」


 ハッとして上を見る。閃光が悠真の体に襲いかかった。大地をえぐり、悠真を光の中に飲み込む。

 "風の魔力"を纏っていた悠真はなんとか耐えたものの、体勢を崩し、踏鞴たたらを踏んであとずさる。

 これは雷魔法……ここまでの威力のものは初めて受けた。

 悠真が再び上空を見やれば、そこにいたのは巨大な竜。通常のものより五倍はあるであろう、"黄金竜"が姿を現した。

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