第322話 アメリカ到着

 竜の翼をうまく操り、風を捉えて上昇する。

 行く手には確かに空を飛ぶ生き物がいた。全身がキラキラと輝き、大きな翼を広げて空を優雅に泳いでいる。

 頭には長い角が生え、鋭いキバを覗かせていた。


「あれが……」


 悠真の口から思わず声が漏れる。間違いない。

 あれがエンシェントドラゴンや青の飛竜ブルードラゴンと並ぶ、竜種最強の魔物。――黄金竜。

 悠真も何度となく名前を聞いたことはあったが、本物を見るのは初めてだ。

 危険度はダブルAに指定されているものの、実際はエンシェントドラゴンより強いと言われている。

 そんな魔物に、先行している明人は突っ込んでいった。

 黄金竜もこちらに気づき、空を旋回して向かってくる。その数は七匹。

 一匹の黄金竜が口を開けた。放たれたのは"稲妻の吐息ブレス"。閃光が空を駆ける。明人はその攻撃を軽やかにかわし、槍に乗ったまま突っ込んでいく。


「凄いな、あいつ。あんな自在に空が飛べるなんて……」


 悠真は感心する。自分は飛べるようになって間もなく、まだまだ自由に飛び回れるといった感じではなかった。

 さすがにイギリスまで飛んで来ただけのことはある。

 そんなことを考えている間に、明人と黄金竜はぶつかり合っていた。

 竜がいくつもの稲妻を体から放出すると、明人は難なくかわし、槍から飛び降りて黄金竜の真上を取る。

 しかし、武器がない状態。どうするんだ? と悠真が心配していると、明人は左腕を横に伸ばした。


「来い! ゲイ・ボルグ!!」


 空中を飛んでいたゲイ・ボルグが急に向きを変え、明人の元へと飛んでいく。

 よく見れば、明人とゲイ・ボルグとの間に、細い光の糸が見える。あれは放電していた明人の雷魔法。

 あれで繋がっていたのか、と悠真は思わず感心してしまう。

 槍は明人の手に収まり、その勢いのまま黄金竜に向かって落下していく。竜の頭に槍を突き立てると、


「死にさらせ! クソったれが!!」


 傷口に大量の雷魔法を竜に注ぎ込んだ。これは竜も効いたようで、頭からプスプスと煙を上げ地面に向かって落ちていく。

 力なく落下する黄金竜は、もはや光ることもないただの魔物だった。

 明人は槍に乗り直し、「次や、次!」と高速で移動する。


「俺も負けてられねえ!」

 

 悠真は顔を前に向ける。すると二匹の黄金竜がこちらに飛んでくる。明人にばかり任せてはいられない。

 悠真は右手の甲から長剣を伸ばした。

 二匹の竜は"稲妻の吐息ブレス"を吐き出してくる。恐ろしい速さの閃光。

 悠真は攻撃を体を捻ってなんとかかわし、真正面からぶつかり合う。

 悠真は右手の剣を振るって竜を斬ろうとする。だが竜は体をくねらせ、それをかわす。


「くそっ!」


 やはり空中戦では黄金竜に分がある。悠真は体勢を立て直し、再び斬りかかろうとした。

 しかし、もう一匹の竜がそれを許さない。すぐ近くから"稲妻の吐息ブレス"を放ってきた。今度はかわせず、悠真は直撃を喰らってしまう。


「うわあああああ!!」


 一瞬バランスを崩して落下した悠真だったが、慌てて羽ばたき、なんとか空中姿勢を維持する。


「あ、っぶねえ~。やりやがったな、こいつ!」


 二匹の竜は羽をはばたき、ホバリングしながらこちらを見つめている。この竜相手に、斬撃で戦うのは難しそうだ。

 悠真がチラリと目をやれば、明人がまた一匹、黄金竜を倒していた。

 ――俺も早くこいつらを倒さないと……。悠真は右手の剣を引っ込め、左手に目を移す。 

 空中戦を仕掛けても、竜の方が遙かにうまく飛ぶだろう。それでは勝ち目がない。

 悠真は左手に意識を集中する。手がボコリと膨らみ、メタルレッドに染まる。

 現れたのは竜の頭部。左腕にエンシェントドラゴンの頭をつけたのだ。【キング】の力は、やはり強力な敵がいないと引き出せない。

 一部なら可能かとも思っていたが、違うようだ。今使える能力はエンシェントドラゴンと水晶のドラゴンだけ。

 威力は大幅に劣るだろうが、それでも充分な力を発揮するだろう。

 悠真は竜の頭を黄金竜に向けた。

 竜たちも危険を察知したのか、バサリと羽ばたき、悠真から距離を取ろうとする。


「逃がすかよ!!」


 赤き竜の口に炎の魔力が集められる。圧縮され、火球に変わったエネルギーを一気に放出した。

 炎の弾丸は上昇する黄金竜を捉える。

 激しい爆発が起き、目の前の空を真っ赤に染める。渦巻いた黒煙から黄金竜が落ちていった。火球が"雷の障壁"を突き破ったのだ。


「よし! もう一匹!!」


 悠真は器用に滑空して竜を追いかける。竜も旋回してこちらに向かってきた。

 口をガバリと開け、"稲妻の吐息ブレス"を吐き出す。悠真は閃光をギリギリでかわし、左手の竜頭を相手に向ける。

 放たれた炎の弾丸は、またしても"雷の障壁"を貫き、竜に直撃した。

 火球は烈火の如く爆散し、竜の体を引き裂く。

 火の粉と煙を撒き散らしながら、黄金竜は海へと落ちていった。


「ふぅ……なんとか倒せたな」


 悠真が安心して息をついていると、槍に乗った明人が近づいてきた。


「なんや。やっと二匹倒したんか。ワイの方はもう終わっとるで」


 ドヤ顔でニヤリと笑う明人。周囲を見回すと、すでに黄金竜の姿はなかった。


「おお、さすがに早いな」

「まあ、ワイにかかればこんなもんや! ほな、戻ろうか。もう竜はおらんからな、安全に着陸できるやろ」


 明人と一緒に飛行中の【RC-135】に近づく。明人は難無く後部ハッチの中に入ったが、悠真はうまくハッチが掴めず、飛びながらアタフタする。


「なにしとんねん! はよせいや」

「わ、分かってるよ!」


 悠真は何度も羽ばたき、四苦八苦しながら扉を掴む。機内に入ると、変化していた大きな羽と尻尾、それに左腕も元に戻した。

 一分も経つと『金属化』も解け、人の姿となる。

 通路を歩いて前に行くと、アテンド役の軍人は驚いた表情で明人と悠真を見る。


「いや、噂には聞いていましたが……凄いですね! あの黄金竜を本当に倒すなんて……」

「ああ、ワイらに取っちゃ朝飯前や。簡単、簡単」


 明人がニシシシと笑う。前の席まで行くと、ルイが立ち上がってこちらを向く。


「お疲れ」


 悠真は「おう」と返事をし、ルイとこぶしを合わせた。

 三人は席に座り直し、シートベルトを締める。偵察機【RC-135】はアメリカの東海岸、ジョン F. ケネディ国際空港へと着陸した。

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